第66回
193〜195話
2020.04.01更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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193 孤高に酔わない。心が狭量(きょうりょう)で性急すぎない
【現代語訳】
山が高くて険しいところには木が生えない。しかし、谷川あたりには、草木はむらがって生える。また、水の流れが急なところでは、魚も住めない。しかし、水が深く滞っている川の淵あたりには魚やスッポンなどが多く集まっている。このように志があっても孤高の行い(あまりにかけ離れた行動)や心が狭量で性急であると、人はついてこない。君子たるもの大いに戒めておきたいところである。
【読み下し文】
山(やま)の高峻(こうしゅん)なる処(ところ)には木(き)無(な)く、而(しか)して谿谷(けいこく)廻環(かいかん)すれば、則(すなわ)ち草木(そうもく)叢生(そうせい)す。水(みず)の湍急(たんきゅう)(※)なる処(ところ)には魚(うお)無(な)く、而(しか)して淵潭(えんたん)(※)停蓄(ていちく)すれば、則(すなわ)ち魚鱉(ぎょべつ)(※)聚集(しゅうしゅう)す。此(こ)の高絶(こうぜつ)の行(こう)(※)、褊急(へんきゅう)の衷(ちゅう)(※)は、君子(くんし)重(おも)く戒(いまし)むる有(あ)れ。
(※)湍急……水の流れが急なところ。
(※)淵潭……水が深く滞っている川のふちあたり。「淵」も「潭」も、ふちの意。
(※)魚鱉……魚やスッポンの魚類。「鱉」は「鼈」とも書く。
(※)高絶の行……孤高の行い。
(※)褊急の衷……心が狭量で性急なこと。人付き合いで度量の大きいことをすすめることについては、本書の前集76条、185条も参照。なお、自動車産業を起こしたアメリカのヘンリー・フォードは、人が決め手になる企業のことを次のように表現した。「人が集まることが始まりであり、人が一緒にいることで進歩があり、人が一緒に働くことで事業の成功をもたらす」(野中訳)。
【原文】
山之高峻處無木、而谿谷廻環、則草木叢生。水之湍急處無魚、而淵潭停蓄、則魚鱉聚集。此高絕之行、褊急之衷、君子重有戒焉。
194 素直で円満な人が成功する
【現代語訳】
大きな功績を上げ、事業を成功させる人は、たいてい素直で円満な人である。事業を失敗させ、チャンスを逃す人はたいてい心が狭く、強情で執念にこり固まっている人である。
【読み下し文】
功(こう(を建(た)て業(ぎょう)を立(た)つる者(もの)は、多(おお)くは虚円(きょえん)の士(し)(※)なり。事(こと)を僨(やぶ)り(※) 機(き)を失(うしな)う者(もの)は、必(かなら)ず執拗(しつよう)の人(ひと)(※)なり。
(※)虚円の士……素直で円満な人。虚心で円滑な人。なお、「事業」と「人格」については、本書の前集156条参照。
(※)僨り……失敗させる。やぶる。
(※)執拗の人……心が狭く強情で執念にこり固まっている人。片意地で執念深い人。
【原文】
建功立業者、多虚圓之士。僨事失機者、必執拗之人。
195 和して同ぜず
【現代語訳】
この世でうまく生きていくためには、世俗の人とまったく同じではいけない。かといって、まったくかけ離れてもいけない。また、事を成功させるためには、まったく人に嫌われてはいけない。かといって、人に迎合し喜ばすことばかりを考えてはいけない。
【読み下し文】
世(よ)に処(しょ)して(※)は、宜(よろ)しく俗(ぞく)と同(おな)じかるべからず。亦(ま)た宜(よろ)しく俗(ぞく)と異(こと)なるべからず。事(こと)を作(な)すには、宜(よろ)しく人(ひと)をして厭(いと)わしむべからず。亦(ま)た宜(よろ)しく人(ひと)をして喜(よろこ)ばしむべからず。
(※)世に処して……この世をうまく生きていく。世渡りをうまくしていく。処世術を良くする。なお、本項の意図するちょうど良い生き方は難しいところがあるが、『論語』もこう述べている。「君子(くんし)は和(わ)して同(どう)ぜず、小人(しょうじん)は同(どう)じて和(わ)せず」(子路第十三)。本項の解釈については、本書の前集185条も参照。
【原文】
處世、不宜與俗同。亦不宜與俗異。作事、不宜令人厭。亦不宜令人喜。
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