第67回
196〜198話
2020.04.02更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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196 歳を取っても精神百倍で輝く
【現代語訳】
日がすでに暮れても、なお夕映えは美しく輝いている。まさに年の暮れが迫っていても、だいだいやみかんなどの柑橘類(かんきつるい)は一段と良い香りを放っている。だから私たち人間も歳を取って老人になろうとも、君子たるものは、精神を百倍にして奮い立たせて、輝かせなければならない。
【読み下し文】
日(ひ)既(すで)に暮(く)れて、而(しか)も猶(な)お烟霞絢爛(えんかけんらん)(※)たり。歳(とし)将(まさ)に晩(く)れんとして、而(しか)も更(さら)に橙橘(とうきつ)(※)芳馨(ほうけい)(※)たり。故(ゆえ)に末路(まつろ)晩年(ばんねん)は、君子(くんし)更(さら)に宜(よろ)しく精神百倍(せいしんひゃくばい)すべし。
(※)烟霞絢爛……夕映えが美しく輝いている様子。
(※)橙橘……だいだいやみかんなどの柑橘類。「橙」はだいだい。だいだいは、ゆずやかぼすのように酢の物に味つけとして用いる。だいだい色のだいだい。本書の前集221条参照。
(※)芳馨……芳しい香り。本書の前集221条参照。
【原文】
日旣暮、而猶烟霞絢爛。歲將晚、而更橙橘芳馨。故末路晚年、君子更宜精神百倍。
197 力や才能をふりかざし、見せびらかす人に本物はいない
【現代語訳】
鷹が木に止まっている様子は、あたかも眠っているようであるし、虎が歩いている姿は病気にかかっているかのようにフラフラと行く。しかし、これこそ人につかみかかり、人を咬むための姿勢なのである。だから君子も同じく、自分の才能を見せびらかしたり強がったりするものではない。優れた能力は内に隠し、一見大丈夫なのかと思わせるぐらいの自然体の人こそ、大事を肩に背負っていくだけの力量があるのだ。
【読み下し文】
鷹(たか)の立(た)つや睡(ねむ)るが如(ごと)く、虎(とら)の行(い)くや病(や)むに似(に)たり。正(まさ)に是(こ)れ他(た)の人(ひと)を攫(つか)み人(ひと)を噬(か)む手段(しゅだん)の処(ところ)なり。故(ゆえ)に君子(くんし)は、聡明(そうめい)は露(あら)われず。才華(さいか)(※)は逞(たく)ましからざるを要(よう)して、纔(わず)かに肩鴻任鉅(けんこうにんきょ)(※)の力量(りきりょう)有(あ)り。。
(※)才華……優れた能力、才能。
(※)肩鴻任鉅……大事を肩に背負う。「鴻」も「鉅」も大きなものを意味する。
【原文】
鷹立如睡、虎行似病。正是他攫人噬人手段處。故君子、要聰明不露、才華不逞。纔有肩鴻任鉅的力量。
198 倹約は度を越すとケチになり、謙譲も度を越すと嫌みになる
【現代語訳】
倹約は美徳であるが、度を越すとケチになり、人品も卑やしくなって、かえって正しい道に反することになる。謙譲は善行であるが、度を越すと馬鹿丁寧で堅苦しく、かえって相手に嫌な気持ちを起こさせるし、そこには何か魂胆があると推測される。
【読み下し文】
倹(けん)は美徳(びとく)なり。過(す)ぐれば則(すなわ)ち慳吝(けんりん)(※)と為(な)り、鄙嗇(ひしょく)(※)と為(な)りて、反(かえ)って雅道(がどう)を傷(やぶ)る。譲(じょう)は懿行(いこう)(※)なり。過(す)ぐれば則(すなわ)ち足恭(すうきょう)(※)と為(な)り、曲謹(きょくきん)と為(な)りて、多(おお)くは機心(きしん)に出(い)づ。
(※)慳吝……ケチ。慳貪吝嗇の意味。なお、『論語』で孔子は、一番尊敬する周公旦(しゅうこうたん)であっても「驕(おご)り且(か)つ吝(やぶさ)かならしめば其(そ)の余(よ)は観(み)るに足(た)らざるなり」(泰伯第八)とケチを凄く嫌う。
(※)鄙嗇……人品が卑しい。いじきたない。
(※)懿行……善行。立派な行為。
(※)足恭……馬鹿丁寧で、堅苦しい。うやうやしすぎる。なお、『論語』でもやはり孔子は「足恭」を嫌う。「巧言(こうげん)、令色(れいしょく)、足恭(すうきょう)なるは、左丘明(さきゅうめい)之(これ)を恥(は)ず。丘(きゅう)(孔子のこと)も亦(ま)た之(これ)を恥(は)ず」(公冶長第五)という。
【原文】
儉美德也。過則爲慳吝、爲鄙嗇、反傷雅衜。讓懿行也。過則爲足恭、爲曲謹、多出機心。
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