第10回
25話~27話
2018.01.26更新
【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら
25 味方を安全に守り、完全な勝利を手にする
【現代語訳】
敵が勝てないような態勢というのは、守りに関することであり、敵に勝つようにする態勢というのは攻めに関することである。
守るのは戦力が足りないからで、攻めるのは戦力が十分で余裕があるからである。
守りのうまい者は、大地の奥深くに潜み隠れて動きをさとらせないようにし、攻めのうまい者は、天高くからよく見て好機を逃さないかのように動くのである。
だからこそ味方を安全に守って、完全な勝利を手にすることができるのである。
【読み下し文】
勝(か)つべからざる者(もの)は守(しゅ)なり。勝(か)つべき者(もの)は攻(こう)なり。守(しゅ)は則(すなわ)ち足(た)らざればなり、攻(こう)は則(すなわ)ち余(あま)り有(あ)ればなり(※)。善(よ)く守(まも)る者(もの)は九地(きゅうち)(※)の下(した)に蔵(かく)れ、善(よ)く攻(せ)むる者(もの)は九天(きゅうてん)(※)の上(うえ)に動(うご)く。故(ゆえ)に能(よ)く自(みずか)ら保(たも)ちて勝(かち)を全(まっと)うするなり。
- (※)守は則ち足らざればなり、攻は則ち余り有ればなり……一九七二年に中国山東省で出土した竹簡本では、「守則有余、攻則不足」とあり、それに従えば「守(まも)れば則(すなわ)ち余(あま)りあり、攻(こう)は則(すなわ)ち足(た)らず」となる。すると現代語訳も「守ると戦力に余裕があり、攻めると戦力が不足する」となる。一般的には本文のように「守は則ち足らざればなり、攻は則ち余り有ればなり」と考えられており、本書もその立場で書いている。なお、原文をこう見る立場からも、「守(まも)れば足(た)らず、攻(せ)むれば余(あま)り有(あ)り」と読み、「守備は敵に備えなくてはならないために兵力不足となり、攻撃は兵力集中ができるから兵力にゆとりができる」と解する説もある。
- (※)九地、九天……ここでの「九」は「窮極」「至高」を意味している。
【原文】
不可勝者、守也、可勝者、攻也、守則不足、攻則有餘、善守者、藏於九地之下、善攻者、動於九天之上、故能自保而全勝也、
26 有名であることと有能であることは違う
【現代語訳】
戦いにおける勝利の要因を見抜く能力が、世間一般人と同じ程度であっては、最高に優れた者とはいえない。戦いに勝って天下の人々がすばらしいとほめ讃えたとしても、最高に優れた者ではない。
これはつまり軽い毛を持ち上げられるからといって力持ちとはいえず、太陽や月が見えるからといって目がよいとはいえず、雷鳴が聞こえるからといって耳がよいとはいえないのと同じである。
【読み下し文】
勝(かち)を見(み)ること衆人(しゅうじん)の知(し)る所(ところ)に過(す)ぎざるは、善(ぜん)の善(ぜん)なる者(もの)に非(あら)ざるなり。戦(たたか)い勝(か)ちて天下(てんか)善(ぜん)なりと曰(い)うは、善(ぜん)の善(ぜん)なる者(もの)に非(あら)ざるなり。故(ゆえ)に秋毫(しゅうごう)(※)を挙(あ)ぐるは多力(たしょく)と為(な)さず、日月(じつげつ)を見(み)るは明目(めいもく)と為(な)さず、雷霆(らいてい)を聞(き)くは聡耳(そうじ)と為(な)さず。
(※)秋毫……「毫」は「細い毛」「軽い毛」のこと。動物の毛は秋になると特に細く軽くなるとされている。
【原文】
見勝不過衆人之所知、非善之善者也、戰勝而天下曰善、非善之善者也、故擧秋毫不爲多力、見日⺼不爲朙目、聞雷霆不爲聰耳、
27 必ず勝つ将軍の作戦
【現代語訳】
昔の戦争を行うのがうまいといわれた人は、勝ちやすい態勢で勝ったものである。
だから戦争のうまい者が勝っても、智謀の名声も、武勇の功績も讃えられることはない。
だけれども戦えば必ず勝つのである。
必ず勝つのは、必ず勝つ態勢をとるからで、すでにとれるのが見える敵に勝つからである。
だから戦争を行うのがうまい者は、絶対に負けない態勢をとり、敵の敗れる機会を(敵のいささかの隙も)見逃さない。
こういうわけなので勝つ軍隊というのは、まず勝利を確実にした態勢をつくってから戦争を始めるのであり、敗れる軍隊は、まず戦ってみてから勝利を求めようとするのである。
【読み下し文】
古(いにしえ)の所謂(いわゆる)善(よ)く戦(たたか)う者(もの)は、勝(か)ち易(やす)きに勝(か)つ(※)者(もの)なり。故(ゆえ)に善(よ)く戦(たたか)う者(もの)の勝(か)つや、智名(ちめい)無(な)く、勇功(ゆうこう)無(な)し。故(ゆえ)に其(そ)の戦(たたか)い勝(か)ちて忒(たが)わず。忒(たが)わざる(※)者(もの)は、其(そ)の措(お)く所(ところ)必(かなら)ず勝(か)ち、已(すで)に敗(やぶ)るる者(もの)にて勝(か)てばなり。故(ゆえ)に善(よ)く戦(たたか)う者(もの)は、不敗(ふはい)の地(ち)(※)に立(た)ちて、敵(てき)の敗(はい)を失(うしな)わざるなり。是(こ)の故(ゆえ)に勝兵(しょうへい)は先(ま)ず勝(か)ちて而(しか)る後(のち)に戦(たたか)いを求(もと)め、敗兵(はいへい)は先(ま)ず戦(たたか)いて而(しか)る後(のち)に勝(かち)を求(もと)む。
- (※)勝ち易きに勝つ……勝ちやすい態勢で勝つ。つまり、勝つための条件をつくっておいて、当たり前のように勝つこと。
- (※)忒わざる……間違わないこと。不一致にならないこと。当然のごとくなること。
- (※)不敗の地……負けない態勢のこと。必勝の立場
【原文】
古之所謂善戰者、勝於易勝者也、故善戰者之勝也、無智名、無勇功、故其戰勝不忒、不忒者、其所措必勝、勝已敗者也、故善戰者、立於不敗之地、而不失敵之敗也、是故勝兵先勝而後求戰、敗兵先戰而後求勝、
【単行本好評発売中!】
この本を購入する
感想を書く