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よみものどっとこむ

孫子コンプリート 全文完全対照版 野中根太郎 訳

第19回

52話~54話

2018.02.08更新

読了時間

【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。

52 戦場では兵士の気をよく考慮する

【現代語訳】

(兵士たちの)朝の気は鋭く、昼の気はゆるみ、夕暮れの気はしぼんでしまうものである。だから戦争をうまく行う者は、(朝の)気の鋭いときは避け、気のゆるんだときやしぼんだときに攻撃するようにする。
これが戦場で気をうまく治めるということである。

【読み下し文】

是(こ)の故(ゆえ)に朝(あさ)の気(き)は鋭(えい)、昼(ひる)の気(き)は惰(だ)、暮(く)れの気(き)は帰(き)(※)。故(ゆえ)に善(よ)く兵(へい)を用(もち)うる者(もの)は、其(そ)の鋭気(えいき)を避(さ)けて、其(そ)の惰帰(だき)を撃(う)つ。此(こ)れ気(き)を治(おさ)む(※)る者(もの)なり。

  • (※)帰……ここでは「尽きる」「終わる」の意味である。
  • (※)気を治む……気(氣)は、士気、気力など、人(ここでは兵士たち)の心のありようが体や軍全体の勢いに大いに影響を与える。人によっては、軍の気、戦場の気を読むという者もいたとされる。さすがに孫子は「その気をよく考慮せよ」と説いていた。ここで「気を治む」とは、そうした気というものをうまく治め、活用することをいう

【原文】

是故朝氣銳、晝氣惰、暮氣歸、故善用兵者、避其銳氣、擊其惰歸、此治氣者也、

53 戦場で兵士の心、力、変化をうまく治める

【現代語訳】

味方が落ち着き整った状態で乱れた状態の敵を待ち、味方が静かな状態で騒然とざわついた敵を待つ。これが戦場で心をうまく治めるということである。
戦場の近くにいて遠くからやってくる敵を待ち、味方は十分休養をとった状態で疲れた敵を待ち、味方は十分食べた状態で飢えている敵を待つ。これが戦場で力をうまく治めるということである。
整然と旗を立ててやってくる敵を迎え撃ってはならない。堂々とした陣がまえの敵を攻撃してはならない。これが戦場での変化をうまく治めるということである。

【読み下し文】

治(ち)を以(もっ)て乱(らん)を待(ま)ち、静(せい)を以(もっ)て譁(か)(※)を待(ま)つ。此(こ)れ心(こころ)を治(おさ)むる者(もの)なり。近(ちか)きを以(もっ)て遠(とお)きを待(ま)ち、佚(いつ)を以(もっ)て労(ろう)を待(ま)ち(※)、飽(ほう)を以(もっ)て飢(き)を待(ま)つ。此(こ)れ力(ちから)を治(おさ)むる者(もの)なり。正々(せいせい)の旗(はた)(※)を邀(むか)うること無(な)く、堂々(どうどう)の陣(じん)を撃(う)つこと勿(な)し。これ変(へん)を治(おさ)むる者(もの)なり。

  • (※)譁……かまびすしい。やかましい。さわがしい。ここでは「上官の統制に従わない乱れた軍隊」のことを指している。
  • (※)佚を以て労を待ち……第一章・計篇6話および、第六章・虚実篇38話参照。
  • (※)正々の旗……正しく整って並べた旗を立ててやってくる敵のこと。つまり、十分な準備と自信を持っていることがうかがえる軍隊である。

【原文】

以治待亂、以靜待譁、此治心者也、以近待遠、以佚待勞、以飽待飢、此治力者也、無邀正正之旗、勿擊堂堂之陳、此治變者也、

54 敵を攻めてはいけないとき

【現代語訳】

そこで戦争で兵を動かすときの原則は次のようになる。
高地にいる敵を攻めてはいけない。
高地を背にしながら攻撃してくる敵を迎え撃ってはいけない。
こちらを誘うために、偽りながら敗走する敵を追撃してはいけない。
気力が充実して鋭くなっている敵(鋭兵)を攻めてはいけない。
囮(おとり)の敵に喰いついてはいけない。
撤退して帰国する敵を防ぎ止めてはいけない。
敵を包囲したときは必ず逃げ道を開けておかなくてはならない。
窮地に陥った敵を追いつめすぎてはいけない。
以上が戦争において兵を動かすときの原則である。

【読み下し文】

故(ゆえ)に用兵(ようへい)の法(ほう)は、高陵(こうりよう)には向(む)かう勿(な)かれ、背丘(はいきゅう)には逆(むか)う勿(な)かれ、佯北(しょうほく)(※)には従(したが)う勿(な)かれ、鋭卒(えいそつ)には攻(せ)むる勿(な)かれ、餌兵(じへい)には食(く)らう勿(な)かれ、帰師(きし)には遏(とど)(※)むる勿(な)かれ、囲師(いし)には必(かなら)ず闕(か)(※)き、窮寇(きゅうこう)には迫(せま)る勿(な)かれ。此(こ)れ用兵(ようへい)の法(ほう)なり。

  • (※)佯北……「佯」は「詐き偽る」、「北」は「逃げる」の意。
  • (※)遏……「あつ」とも読む。「止める」の意。ここでは敵兵をとどめ、帰国をさせないようにすること。
  • (※)闕……「けつ」とも読む。「欠」の意。ここでは敵を包囲したときに一部をわざとあけること。

【原文】

故用兵之法、高陵勿向、背丘勿逆、佯北勿從、銳卒勿攻、餌兵勿⻝、歸師勿遏、圍師必闕、窮寇勿廹、此用兵之法也、


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。著書に『超訳孫子の兵法』、『吉田松陰の名言100』、『武士道の名言100』、『真田幸村の凛とした生き方』(以上、アイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術』(誠文堂新光社)などがある。

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