第22回
61話~63話
2018.02.14更新
【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら
61 河川地における軍の原則
【現代語訳】
渡河したならば、展開しやすいように必ず川から遠ざかる。
敵が渡河してきたら、川の中で迎え撃ってはならない。敵の半数が渡り終わったときに攻撃を始めると有利である。
戦おうというときは、川近くに陣を構えて迎え撃ってはならない。見通しのよい高い場所に陣を構えるようにし、下流から上流に向かって敵を攻撃してはならない。
これが河川地における軍の原則である。
【読み下し文】
水(みず)を絶(た)てば必(かなら)ず水(みず)に遠(とお)ざかる。客(かく)、水(みず)を絶(た)ちて来(き)たらば、これを水(みず)の内(うち)に迎(むか)うること勿(な)く、半(なか)ば済(わた)らしめてこれを撃(う)つは利(り)なり。戦(たたか)わんと欲(ほっ)する者(もの)は、水(みず)に附(つ)きて客(かく)を迎(むか)うること無(な)かれ。生(せい)を視(み)て高(たか)きに処(お)り、水流(すいりゅう)を迎(むか)うる(※)こと無(な)かれ。此(こ)れ水上(すいじょう)に処(お)るの軍(ぐん)なり。
(※)水流を迎うる……「下流から上流に向かって」の意。下流から上流に向かうと高地に向かうことになるので不利だし、上流の敵が水を武器(貯めて流したり、毒を流したりなど)としかねない。
【原文】
絕水必遠水、客絕水而來、勿迎之於水內、令半濟而擊之利、欲戰者、無附於水而迎客、視生處高、無迎水流、此處水上之軍也、
62 沼沢地(湿地帯)における軍の原則
【現代語訳】
沼沢地(湿地帯)を通るときは、なるべく速く通りすぎるようにし、そこに駐留してはならない。
もし沼沢地で敵と交戦せざるをえないときは、必ず水(飲料水)や草(飼料)のあるところに軍を配置し、多くの樹木があるところを背にすべきである。
これが沼沢地における軍の原則である。
【読み下し文】
斥沢(せきたく)(※)を絶(た)つには、惟(た)だ亟(すみや)かに去(さ)りて留(とど)まること無(な)かれ。若(も)し軍(ぐん)を斥沢(せきたく)の中(なか)に交(まじ)うれば、必(かなら)ず水草(すいそう)に依(よ)りて衆樹(しゅうじゅ)を背(はい)にせよ。此(こ)れ斥沢(せきたく)に処(お)るの軍(ぐん)なり。
(※)斥沢……沼沢地、湿地帯のこと。
【原文】
絕斥澤、惟亟去無留、若交軍於斥澤之中、必依水草、而背衆樹、此處斥澤之軍也、
63 平地における軍の原則
【現代語訳】
平地では行動しやすいところに軍を駐留させ、高地を右後方にする(ということは左前方が低地となり、有利となる)。こうして敵の死を前方、味方の生を後背地とする。これが平地における軍の原則である。
以上の四つの原則(山地、河川地、沼沢地、平地における原則)を使うことで黄帝は、四人の帝王に勝ったのである。
【読み下し文】
平陸(へいりく)には易(い)に処(お)りて、高(たか)きを右背(ゆうはい)にし(※)、死(し)を前(まえ)にして生(せい)を後(うしろ)にせよ。此(こ)れ平陸(へいりく)に処(お)るの軍(ぐん)なり。凡(およ)そ此(こ)の四軍(しぐん)の利(り)は、黄帝(こうてい)(※)の四帝(してい)(※)に勝(か)ちし所以(ゆえん)なり。
- (※)高きを右背にし……右後方を背にした場合、一般的に右利きの多い兵士による武器の力が増しやすい(左前方に攻撃を繰り出しやすい)とされている。
- (※)黄帝……名は軒轅(けんえん)。『史記』によると漢民族の祖とされ、文化の創始者とされる伝説上の帝王。
- (※)四帝……詳しいことはよくわかっていない。四人の帝王とは一般に、赤帝、青帝、黒帝、白帝といわれている。なお、一九七二年発見された竹簡本には、「黄帝伐赤帝篇」があってこの四帝との戦いのことが述べられている。
【原文】
平陸處易、而右背高、前死後生、此處平陸之軍也、凢此四軍之利、黄帝之所以勝四帝也、
【単行本好評発売中!】
この本を購入する
感想を書く