Facebook
Twitter
RSS
孫子コンプリート 全文完全対照版 野中根太郎 訳

第23回

64話~66話

2018.02.15更新

読了時間

【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら

本書を朗読したオーディオブックが発売!サンプル版(はじめに・第1章)の試聴はこちら↓

はじめに

第1章

オーディオブックのご購入はこちら(外部サイトへリンクします)。

64 兵士の健康や地形が勝利を左右する

【現代語訳】

およそ軍隊というのは、高い場所を好んで低い場所を嫌う。また、陽当たりのよい場所を尊んで、陽当たりの悪い場所を避ける。また、兵士の健康に留意して、物資の豊富な場所に駐留する。こうして軍隊にいろいろな病気が発生しないようにすれば、必勝の軍となれる。
また、丘陵や堤防のあるところでは、必ず陽当たりのよい場所に駐留して、丘陵や堤防が右後方になるようにする。これが軍事上の利益であり、地形の助けである。

【読み下し文】

凡(およ)そ軍(ぐん)は高(たか)きを好(この)みて下(ひく)きを悪(にく)み、陽(よう)を貴(たっと)びて陰(いん)を賤(いや)しみ、生(せい)を養(やしな)いて実(じつ)(※)に処(お)る。軍(ぐん)に百疾(ひゃくしつ)無(な)くんば、是(こ)れを必勝(ひっしょう)と謂(い)う。丘陵(きゅうりょう)堤防(ていぼう)には、必(かなら)ず其(そ)の陽(よう)に処(お)りて、これを右背(ゆうはい)にす(※)。此(こ)れ兵(へい)の利(り)、地(ち)の助(たす)けなり。

  • (※)実……「生を養いて」の次に来ているところから、兵士の健康に資する「物資の豊富なところ」を意味している。具体的には水や薪(まき)、そして軍馬を養うための飼料もこれに入ると思われる。
  • (※)必ず其の陽に処りて、これを右背にす……必ず陽当たりがよくて丘陵や堤防を右後方にするということは、東南向きの斜面に駐留せよということになる。

【原文】

凢軍好高而惡下、貴陽而賤陰、養生而處實、軍無百疾、是謂必勝、丘陵隄防、必處其陽而右背之、此兵之利、地之助也、

65 条件の悪い地形に注意する

【現代語訳】

上流に雨が降って、川の流れが激しくあわだっているとき、川を渡ろうと思うのなら、その流れが落ちつくまで待たなくてはならない。
およそ地形が、絶壁に挟まれた谷川(絶澗(ぜっかん))、井戸のような低地(天井(てんせい))、入り口以外は山に囲まれた牢獄のような地(天牢(てんろう))、荊(いばら)が多く通過しにくい地(天羅(てんら))、天然の落とし穴のような沼沢地(天陥(てんかん))、二つの山に挟まれた細い道(天隙(てんげき))などであれば、必ずすみやかにそこから離れ、近づいてはいけない。味方は近づかないようにして、敵には近づくようにさせるとよい。また、味方はそこに向かって攻撃をしかけるようにし、敵にはそこを背にさせるようにするとよい。
行軍しているときは、地形の険しいところ、池やくぼ地、葦(あし)の密生地、山林、草木の生い茂っているところなどを通る際、必ず何度も慎重に敵がいないか捜索(斥侯(せっこう))しなくてはいけない。こうしたところには、敵の伏兵や探察隊がいる可能性がある。

【読み下し文】

上(かみ)に雨(あめ)ふりて水沫(すいまつ)至(いた)らば、渉(わた)らんと欲(ほっ)する者(もの)は、其(そ)の定(さだ)まるを待(ま)て。凡(およ)そ地(ち)に絶澗(ぜっかん)、天井(てんせい)、天牢(てんろう)、天羅(てんら)、天陥(てんかん)、天隙(てんげき)有(あ)らば、必(かなら)ず亟(すみや)かにこれを去(さ)りて、近(ちか)づくこと勿(な)かれ。吾(わ)れはこれに遠(とお)ざかり、敵(てき)はこれに近(ちか)づかしめよ。吾(わ)れはこれを迎(むか)え、敵(てき)はこれに背(はい)せしめよ。軍行(ぐんこう)(※)に険阻(けんそ)、潢井(こうせい)(※)、葭葦(かい)(※)、山林(さんりん)、蘙薈(えいわい)(※)ある者(もの)は、必(かなら)ず謹(つつ)しんでこれを覆索(ふくさく)せよ。此(こ)れ伏姦(ふくかん)の処(お)る所(ところ)なり。

  • (※)軍行……これを「軍旁」とする説もある。そうすると「軍の旁(かたわら)に」と読み、「軍の近くに」と解することになる。
  • (※)潢井……「潢」は「ため池」、「井」は「くぼ地」の意。
  • (※)葭葦……葦のような水草。
  • (※)蘙薈……草木が生い茂っていて暗い感じの場所。

【原文】

上雨水沫至、欲涉者、待其定也、凢地有絕澗天井天牢天羅天陷天隙、必亟去之、勿近也、吾遠之敵近之、吾迎之敵背之、軍行有險阻潢井葭葦山林蘙薈者、必謹覆索之、此伏姦之所處也、

66 敵の動きを読む

【現代語訳】

敵がこちらの近くにいながら静まり返っているのは、陣を構えている場所の地形の険しさを頼みとしているからである。
敵が遠くにいながら戦いを挑んでくるのは、こちらの進撃を望んでいるからである。
敵が要害の地でなく平坦な場所で構えているのは、こちらに有利と見せかけて、何かをしかけようとしているからである。
多くの木々が揺れ動くのは、敵が進撃してくるからである。
多くの草が積んで重ねてあるのは、敵がそれを伏兵のように見せて、こちらを惑わしているのである。
鳥が飛び立つのは伏兵がいるからである。
獣が驚いて走り出すのは、敵が奇襲してくるからである。

【読み下し文】

敵(てき)、近(ちか)くして静(しず)かなるは、其(そ)の険(けん)を恃(たの)むなり。遠(とお)くして戦(たたか)いを挑(いど)むは、人(ひと)の進(すす)むを欲(ほっ)するなり。其(そ)の居(お)る所(ところ)の易(やす)きは、利(り)あるなり(※)。衆樹(しゅうじゅ)動(うご)くは、来(き)たるなり。衆草(しゅうそう)障(さわ)(※)り多(おお)きは、疑(ぎ)なり。鳥(とり)起(た)つは、伏(ふく)なり。獣(けもの)駭(おどろ)くは、覆(ふう)(※)なり。

  • (※)其の居る所の易きは、利あるなり……原文は「其所居易者、利也」であるが、これは「其所居者易利也」ではないかとする説もある。そうすると「其(そ)の居(お)る所(ところ)の者(もの)易利(いり)なればなり」と読み、「彼らのいる場所が平坦で有利だからである」と解することになる。
  • (※)障……「へだてる」「さえぎる」の意。ここでは覆いかぶせること。昔は、草を多く重ねて擬兵とした。
  • (※)覆……単に「ふ」とも読む。「くつがえす」の意。ここでは「伏兵」を意味している。

【原文】

敵近而靜者、恃其險也、遠而挑戰者、欲人之進也、其所居易者、利也、衆樹動者、來也、衆草多障者、疑也、鳥起者、伏也、獸駭者、覆也、

「目次」はこちら


【単行本好評発売中!】

この本を購入する
シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

矢印