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孫子コンプリート 全文完全対照版 野中根太郎 訳

第25回

70話~72話

2018.02.19更新

読了時間

【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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はじめに

第1章

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70 決して侮ってはいけない

【現代語訳】

戦争は兵士の数が多ければ必ず有利になるというものではない。
ただ猛進するのではなく、味方の兵力を集中し、敵情をよくはかって味方の兵力を結集していけば、敵を攻め取ることができるようになる。
逆によく考えもせずに敵を侮ってかかる者は、必ず敵の捕虜となってしまうだろう(必ず大きな失敗をする)。

【読み下し文】

兵(へい)は多(おお)きを益(えき)とするに非(あら)ざるなり。惟(た)だ武進(ぶしん)すること無(な)く、力(ちから)を併(あわ)せて敵(てき)を料(はか)らば、以(もっ)て人(ひと)を取(と)るに足(た)らんのみ。夫(そ)れ惟(た)だ慮(りょ)無(な)くして敵(てき)を易(あなど)る者(もの)は、必(かなら)ず人(ひと)に擒(とりこ)(※)にせらる。

(※)擒……捕虜になること。なお、ここから「必ず惨敗する」とか、「大失敗する」と解する説もある。

【原文】

兵非益多也、惟無武進、足以倂力料敵、取人而已、夫惟無慮而易敵者、必擒於人、

71 将軍と兵士の信頼関係が必勝のカギとなる

【現代語訳】

兵士がまだ将軍になれ親しんでいないのに懲罰を厳しく行うと、兵士はますます心服しなくなる。心服しないと、兵士は動かしにくい。
逆に兵士がすでに将軍になれ親しみ従っていても、必要な懲罰を行わないでいると、兵士を動かせなくなってしまう。
だから将軍は、徳(道義と愛情)をもって兵士と親しみ、法令をもって兵士を統制しなくてはならない。これができると必勝の軍の態勢ができあがる。
普段から法令を徹底させ、動員されたばかりの兵士をちゃんと教育すれば、兵士は服従するものである。普段から法令を徹底させないでおくと、動員されたばかりの兵士を教育しても、兵士は服従しない。
普段から法令が徹底していると、将軍と兵士は信頼関係で結ばれることになる。

【読み下し文】

卒(そつ)未(いま)だ親附(しんぷ)せずしてこれを罰(ばっ)すれば、則(すなわ)ち服(ふく)せず。服(ふく)せざれば則(すなわ)ち用(もち)い難(がた)きなり。卒(そつ)已(すで)に親附(しんぷ)せるに罰(ばっ)行(おこな)われざれば、則(すなわ)ち用(もち)うべからざるなり。故(ゆえ)にこれを令(れい)する(※)に文(ぶん)を以(もっ)てし、これを斉(ととの)うるに武(ぶ)を以(もっ)てす、是(これ)を必(かなら)ず取(と)ると謂(い)う。令(れい)素(もと)より行(おこな)われ(※)て以(もっ)て其(そ)の民(たみ)を教(おし)うれば、則(すなわ)ち民(たみ)服(ふく)す。令(れい)素(もと)より行(おこな)われずして以(もっ)て其(そ)の民(たみ)を教(おし)うれば、則(すなわ)ち民(たみ)服(ふく)せず。令(れい)素(もと)より行(おこな)う者(もの)は、衆(しゅう)と相(あい)得(う)るなり。

  • (※)令する……命じる。ここでは部下と接し、親しむこと。つづく「文」はここでは義と愛情、すなわち徳のこと。「武」はここでは法令のこと。なお、「令」は「合」であるとする説もある。
  • (※)令素より行われ……孫子は、国も軍隊も法令がきちんと施行され、守られるものでないと強くならないし、勝てないと何度も説いている。いわゆる情緒主義、権力権威主義は実は弱い。近代のアメリカや日本が強かったのもよくわかる内容だ。なお、江戸時代の思想家・山鹿素行(やまがそこう)の名もここからの引用である。

【原文】

卒未親附而罰之、則不服、不服則難用也、卒已親附而罰不行、則不可用也、故令之以文、齊之以武、是謂必取、令素行以敎其民、則民服、令不素行以敎其民、則民不服、令素行者、與衆相得也

第十章 地形篇

72 「通」の地形

【現代語訳】

孫子は言った。地形には、通、挂(かい)、支、隘、険、遠の六つがある。
通の地形とは、こちらも行けるし、敵も来ることができるような四方に通じる便利なところをいう。この場合、見通しがよく、陽当たりのよい高地を先に占拠し、食糧補給の道を確保しておくと有利に戦うことができる。

【読み下し文】

孫子(そんし)曰(いわ)く、地形(ちけい)に通(つう)なる者(もの)有(あ)り、挂(かい)なる者(もの)有(あ)り、支(し)なる者(もの)有(あ)り、隘(あい)なる者(もの)有(あ)り、険(けん)なる者(もの)有(あ)り、遠(えん)なる者(もの)有(あ)り。我(われ)以(もっ)て往(ゆ)くべく、彼(かれ)以(もっ)て来(き)たるべきを通(つう)と曰(い)う。通(つう)なる形(けい)には、先(ま)ず高陽(こうよう)に居(お)り、糧道(りょうどう)を利(り)して以(もっ)て戦(たたか)えば、即(すなわ)ち利(り)あり。

【原文】

孫子曰、地形、有通者、有挂者、有支者、有隘者、有險者、有遠者、我可以徃、彼可以來、曰通、通形者、先居高陽、利糧衜以戰則利、

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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