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孫子コンプリート 全文完全対照版 野中根太郎 訳

第6回

13話~15話

2018.01.22更新

読了時間

【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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はじめに

第1章

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13 敵に勝ってますます強くなる戦い方

【現代語訳】

敵を殺すのは奮い立つ心(戦意)であるが、敵の兵器や食糧などを奪い取るのは利益を考えてのことである。
だから戦車の戦いで、敵の戦車を十台以上捕獲したときには、最初に捕獲した者に賞を与えて、敵の旗印を味方のものに取り代えて、味方のものと一緒に使うようにし、投降してきた敵兵は優遇して養うようにする。
これが敵に勝ってますます強くなる戦い方である。

【読み下し文】

故(ゆえ)に敵(てき)を殺(ころ)す者(もの)は怒(ど)なり。敵(てき)の利(り)を取(と)る者(もの)は、貨(か)なり(※)。故(ゆえ)に車戦(しゃせん)に車(くるま)十乗(じゅうじょう)已上(いじょう)を得(え)れば、其(そ)の先(ま)ず得(え)たる者(もの)を賞(しょう)し、而(しこう)して其(そ)の旌旗(せいき)を更(あらた)め、車(くるま)は雑(まじ)えてこれに乗(の)らしめ、卒(そつ)は善(よ)くしてこれを養(やしな)わしむ。是(こ)れを敵(てき)に勝(か)ちて強(きょう)を益(ま)すと謂(い)う。

(※)敵の利を取る者は、貨なり……現代語訳に見るように、原文の「利」と「貨」は、間違えて逆に置かれてしまったのであろう。つまり、原文は「取敵之貨者利也」が本来の形だったと解される。

【原文】

故殺敵者怒也、取敵之利者貨也、故車戰得車十乘已上、賞其先得者、而更其旌旗、車雜而乘之、卒善而養之、是謂勝敵而益强、

14 将軍は国家と国民のゆくえを握る重要人物である

【現代語訳】

以上のように戦争は必ず勝つことが第一であるが、長く戦うのはよくないことだといえる。
だからこうした戦争のあり方をよく知る将軍は、国民の生死と運命を握り、国家の安泰と危険を左右する最も重要な人物である。

【読み下し文】

故(ゆえ)に兵(へい)は勝(か)つを貴(たっと)び、久(ひさ)しきを貴(たっと)ばず。故(ゆえ)に兵(へい)を知(し)るの将(しょう)は、生民(せいみん)の司命(しめい)(※)、国家(こっか)安危(あんき)の主(しゅ)なり(※)。

  • (※)司命……人の寿命をつかさどる神。生殺の権を持つもの。元来は人の生死をつかさどるとされた星座の名称ともいう。なお、「司命」を、ここでは、「国民の生命と運命」と解したが、よく意味が通りやすいと思われる。
  • (※)主なり……中心人物、主宰者、資格ある者など。ここでは最も重要な人物とするとよくわかる。

【原文】

故兵貴勝、不貴久、故知兵之將、生民之司命、國家安危之主也、

第三章 謀攻篇

15 敵を傷つけずに勝つのが上策である

【現代語訳】

孫子は言った。およそ戦争のあるべき原則としては、敵国を傷つけることなく、その国力を保全したまま勝つのが上策であり、敵国を破って勝つのはこれに次ぐものである。
敵の軍団を傷つけることなく保全したまま勝つのが上策であって、敵の軍団を破って勝つのはこれに次ぐものである。
敵の旅団を傷つけることなく保全したまま勝つのが上策であって、敵の旅団を破って勝つのはこれに次ぐものである。
敵の大隊を傷つけることなく保全したまま勝つのが上策であって、敵の大隊を破って勝つのはこれに次ぐものである。
敵の小隊を傷つけることなく保全したまま勝つのが上策であって、敵の小隊を破って勝つのはこれに次ぐものである。

【読み下し文】

孫子(そんし)曰(いわ)く、凡(およ)そ用兵(ようへい)の法(ほう)は、国(くに)を全(まっと)うする(※)を上(じょう)と為(な)し、国(くに)を破(やぶ)るはこれに次(つ)ぐ。軍(ぐん)(※)を全(まっと)うするを上(じょう)と為(な)し、軍(ぐん)を破(やぶ)るはこれに次(つ)ぐ。旅(りょ)(※)を全(まっと)うするを上(じょう)と為(な)し、旅(りょ)を破(やぶ)るはこれに次(つ)ぐ。卒(そつ)(※)を全(まっと)うするを上(じょう)と為(な)し、卒(そつ)を破(やぶ)るはこれに次(つ)ぐ。伍(ご)(※)を全(まっと)うするを上(じょう)と為(な)し、伍(ご)を破(やぶ)るはこれに次(つ)ぐ。

  • (※)国を全うする……本文のように「敵国を傷つけることなく」と解するのが一般的だが、「自国を傷つけず」と解釈する説もある。敵国を傷つけることなしに勝つのは現実的ではないからとする。その場合、あとに続く「軍」、「旅」、「卒」、「伍」も「味方のそれを傷つけることなく」と解釈する。なかなか筋の通った見解である。
  • (※)軍……当時の一軍は一万二千五百人の部隊とされた。
  • (※)旅……当時の旅は五百人の部隊とされた。
  • (※)卒……当時の卒は百人の部隊とされた。
  • (※)伍……当時の伍は五人の部隊とされた。

【原文】

孫子曰、凢用兵之法、全國爲上、破國次之、全軍爲上、破軍次之、全旅爲上、破旅次之、全卒爲上、破卒次之、全伍爲上、破伍次之、

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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