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第3回

自分の課題、他人の課題を区別する

2020.08.12更新

読了時間

  不安になったら、落ち込んだら、「ひとりになる勇気」をもってみよう。友だち関係で悩む中高生に絶対読んでほしい本が誕生!齋藤孝先生が伝授する、一生使える無敵の人間関係術!
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大人のつきあい方にみんなまだ不慣れ

 きみにはきみのいろいろな思い、感情があるように、相手にもみんなそれぞれの思いがあり、感情がある。
 人は自分の思いどおりのことはしてくれません。
 SNSで既読になっているのに、返信がなかなか来ない。「どうしてなんだろう?」とイライラしたり、不安になったりする。
 仲よしの親友だと思っていた相手がいきなり冷たくなり、自分の代わりに別の子と仲よくしているのを見て、さびしくなる。
 グループで一緒に遊びに行くときに一度行かなかったら、それから仲間はずれにされるようになっちゃった。用事があって行けないってちゃんと伝えたのに。
 ちょっとしたことで気持ちの行き違いが起きてしまう。心がザラつくようなことが起きる。
 そういう状況のなかで、自分の心をどうやって落ちつかせたらいいかわからない。
 大人の世界に足を踏み出したものの、みんなまだこの道の「初心者」です。
 自己と他者とのはざまで、どうするのがいいのか。
 人とのつきあい方にみんな未熟なんです。
 未熟な者同士が、不安定に揺れるそのときどきの感情を、そのまま相手にぶつけてしまうから、すぐ摩擦が起きる。
 未熟だから、相手の気持ちを考えられずに、不用意に傷つけてしまったりもする。
 不慣れな者同士だから、うまくいかないことも多いのです。

 不慣れというのは、経験値を積めばどんどん熟練していきます。
 スマートフォンやパソコン、ゲーム機の操作だって、楽器だって、初心者はみんな未熟ですが、ずっとさわっていると、慣/れて熟練していくでしょう?
 いろいろ工夫していると、慣れてうまくなっていく。
 友だちづきあい、人づきあいも同じです。
 初心者がいちばんやってはいけないこと、それは「失敗するのがイヤだから」と怖がって、慣れようという気持ちを失ってしまうことです。
 経験を積まなければ、慣れない。いつまでたっても未熟のままです。
 未熟でなくなるためには、不慣れな状況から早く脱却するしかないんですね。
 まわりもみんな同じように初心者でいるあいだに、どんどん練習して習熟しておいたほうがいいんですよ。
 
 大人になって、まわりはみんな大人の作法でコミュニケーションができるのに、ひとりだけ未熟なことをしていたら、嫌われますから。
 人は「いままでいったい何していたの?」とははっきり言いませんけどね。

 友だちとのあいだに不愉快なできごとが起きたら、
「経験値を上げるためのチャンスが来た!」
「これ、うまく乗り越えたらボーナスポイントつくんじゃない?」
 という感じで、あえて軽い感じでとらえるようにしてみたらどうかな?
 深刻に悩みすぎないほうがいいんです。
 相手も未熟だからやってしまっていることですから。
 経験値が増えると、ショックを受けたりすることが減ります。
「ああ、こういうこともあるよね」
 と思えるようになります。
「こういうときは、こう対処するといい」ということもわかるようになります。
 人間関係の基礎力がアップして、自分自身がラクになれます。
 もちろん、悪質ないじめのようなケースはまた別で、そういう場合は第三者の大人に助けてもらいながら対処すべきです。

自分の課題、他人の課題を区別する

「深刻に悩みすぎるなと言われても、やっぱり気になっちゃうんです」
 という人にお勧めしたいのが、心理学者アドラーの考え方です。
 『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健 ダイヤモンド社)という本がベストセラーになりましたが、あの本はアドラーの思想を、対話形式の物語に仕立てたものでした。
 専門書というのは、対話形式にすると具体的でわかりやすくなるのです。
 アドラーはこんなことを言っています。
「あらゆる対人関係のトラブルは、他者の課題に土足で踏み込むこと──あるいは自分の課題に土足で踏み込まれること──によって引き起こされる」
「他者の課題」とは、その人の問題であり、ほかの人がどうこうできないもの。
「自分の課題」とは、自分で工夫したり努力したりすることで、解決していくことができるもの。
 そこをしっかり切り分けて考えなさい、とアドラーは言い、これを「課題の分離」と名づけています。
 自分でコントロールできることとできないことを分けて、コントロールできないことには悩まない。これがコツです。

 たとえば、何も変わったことはしていないのに、仲よくしていた友だちが急に冷たくなったという場合。
 態度を変えたのは、相手です。これは「他者の課題」であって、いくら「わたしがなにか悪いことをした?」「どこがいけなかったんだろう?」と悩んでも、どうすることもできないことです。
 だから、「それはわたしがどうこうできることではない」と考えるべきです。
 きみが考えるべきことは、この状況に対して「自分はどうするか」ということです。「自分の課題」として何ができるかを考えてみる。
 少し距離をおいて、様子を見るというやり方もあるでしょう。
 相手の態度は冷たくなったけれども、自分にとって大事な友だちであることは変わらないから、「いままでどおり明るく『おはよう』ってあいさつしよう、無視されてもいいから」という考え方もあるかもしれません。
 または、その人だけにこだわるのでなく、ほかの友だちともっと話すようにしてみよう、という考え方もあります。
 きみはきみ自身の課題として、何をしようか考えて、それに集中すればいいんです。
 そうしたら、状況は必ず変わってきます。
 仲直りができるかもしれない。新しい友だちができるかもしれない。
 自分の課題のことだけを考え、行動する。「自分はどうしたいのか」という考えをもつことが大事なのです。

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著者

齋藤 孝

1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。『身体感覚を取り戻す』(NHK出版)で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』(草思社)で毎日出版文化賞特別賞を受賞。『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)などベストセラーも多数。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導。

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