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本当の「心の強さ」ってなんだろう?

第2回

弱さとは「感情の波に振りまわされている」状態

2021.08.06更新

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  勉強での失敗、友だちづきあい、コンプレックス、将来への不安・・・。学校では教えてくれない人生の逆境を乗り越える方法を伝授! 本書の刊行を記念して、本文の一部を公開いたします!
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第1章 心の強さ、弱さってなんだろう?

弱さとは「感情の波に振りまわされている」状態

「もっとメンタルが強くなりたい」
 こんな言葉をよく聞きます。
 心理的・精神的なありようを指す「メンタル(mental)」という言葉は日常のなかに定着し、普通に使われるようになりましたね。
 最近では小学生でも、
「メンタルを強くするにはどうすればいいか教えてください」
 と言ってくることがあります。ご両親が聞いてくるのでなく、小学生自身が言うのです。
 悩みやストレスで心身の調子をくずし、学校や仕事に行けなくなってしまう人もたいへん増えており、「メンタルヘルス(心の健康)」のケアが、社会的にも大きな課題となっています。
 精神的な強さを手に入れる方法、メンタルを調整する方法がものすごく求められている時代だと思います。

「心の強さ」を語る前に、まずは「弱さ」について考えてみましょう。
「心が弱い」とは心の何が弱いのかな?
 きみは、どんなときに「心が弱い、メンタルが弱い」と感じますか?
 たとえば──。

・学校の係や委員決めのとき、本当は「やりたい」と言いたいけれども、まわりの目が気になって名乗りをあげられない、とか。
・先生から注意されたことや、友だちから言われた言葉などにとても傷つきやすく、そのことがずっと頭から離れず、いつまでもクヨクヨしてしまう、とか。
・「今日こそ、テスト勉強をがんばる」つもりだったのに、全然集中できなくて「ちょっとだけ気分転換」とスマホを手にとったら、動画を見たりゲームに夢中になったりして、また勉強できなかった、とか。
・スポーツや音楽など、練習をがんばってうまくなったけれども、試合や本番になると緊張してミスをしてしまい、大事なところで力を出せない、とか。

「気弱で勇気がない」「繊細すぎて打たれ弱い」「意志が弱い」「プレッシャーに弱い」、たしかにどれも自分の精神的な弱さを感じてしまう場面です。
 ほかにも、
「根気がなくてつづかない、すぐあきらめてしまう」
「まわりの意見や考えに流されやすく、自分がない」
「ネガティブ(否定的)なことしか頭に浮かばない」
「キレやすい」
 なんていうのも、弱さを感じる部分かもしれません。

 いま挙げた例、それぞれちょっとずつ質の違うことのように思えますが、すべてに共通していることがあります。
 何かわかりますか?
「そのときどきの気分、気持ちに振りまわされてしまっている」ことです。
 その瞬間に心にわいてくる気分の波にのみ込まれ、心をかき乱されて、「こうありたい自分」の方向へと進んでいけない。
 心が弱いとは、「気分の波、感情の波をコントロールする力」が弱いのです。

心は「感情任せ」にしてはいけない

 そもそも、気分や感情とは波があるもの、揺れ動くものです。
 これはだれでも同じです。
 気分や感情というのは自分が意識的に生み出しているものではありません。外部からの刺激に脳が反応することで、「引き起こされている」のです。
 自分のうちから、自然とわいてくるものではないんです。
 みんな、朝起きて顔を洗うときに鏡を見ますね。髪型がうまく決まると、それだけでちょっと気分がいいでしょう? 逆に、寝ぐせが直らなかったりすると、モヤモヤした気分になる。
 寝ぐせは、きみが自分でつけようとしたわけではなく、寝ているときの姿勢でたまたまついてしまったもの。だから、寝ぐせも「外からの予期せぬ刺激」です。
 まあ、寝ぐせでそんなに動揺することはありません。「ちょっと憂鬱」なくらい。
 なんとか直して、好きな音楽を聴きながら登校しているうちに、次第に気分が上向きになっていきます。好きな音楽が心地よい刺激をもたらしてくれるので、気分が上がります。
 そこにスマホの着信メッセージがある。
 何かな? それを見ると、また気分が変わりますね。
 いい話、楽しい話なら気分はよくなり、イヤなことが書かれていると、腹が立ったり、悲しくなったり、傷ついたりする。

 感情は、できごとや人との関係性のなかで生じるもので、自分で意図的に「そうしよう」としているわけではありません。
 脳神経の専門医の先生によれば、感情とは「自分の意志とは無関係に動いてしまう動物を飼っているようなもの」なのだそうです。
 勝手に動きまわるその動物に引きずられ、制御できずにオロオロしているのが、感情に振りまわされている状態なのです。
 感情に振りまわされてしまうと、「自分はこうしたい」という姿勢が揺さぶられます。
 気分や感情は刺激によって移り変わるので、一貫性や連続性というものがないんです。
 自分という存在がおびやかされる。心が落ちつかない。
 悩んだり葛藤したりすることになります。疲れます。

「気分屋」と呼ばれる人がいますね。言うこと、やることが、そのときの気分次第でコロコロ変わる人。
「この間はこう言っていたじゃない、なのにどうしてこうなるの?」
 というようなことばかりする。気分だけで動くので、そこに一貫性、連続性がありません。
 気分屋の人は、つきあいにくいです。一緒にいて疲れます。
 感情に振りまわされている状態は、それと同じだと思えばいい。

 心とは感情の動きが中心のものだと思っていませんか?
 それは誤解です。
 心は、気分任せ、感情任せにしておいてはダメなのです。

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著者

齋藤 孝

1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。『身体感覚を取り戻す』(NHK出版)で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』(草思社)で毎日出版文化賞特別賞を受賞。『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)などベストセラーも多数。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導。

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