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第115回

118〜120話

2020.06.15更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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118 ほどよく忙しく、そして苦労しながら人生も楽しみたい


【現代語訳】
人生は暇がありすぎると余計な雑念が多くなり、良くないことも考えてしまうが、反対に忙しすぎると自分の本性は現れなくなる。だから士君子というのは、心身を高めていこうという問題意識を持つと同時に、風流の趣も理解し、人生を楽しむことを忘れてはならない。

【読み下し文】
人生(じんせい)太(はなは)だ間(かん)(※)なれば、則(すなわ)ち別念(べつねん)窃(ひそか)に生(しょう)じ、太(はなは)だ忙(ぼう)なれば、則(すなわ)ち真性(しんせい)現(あらわ)れず。故(ゆえ)に士君子(しくんし)は、身心(しんしん)をの憂(うれ)いを抱(いだ)かざるべからず、亦(ま)た風月(ふうげつ)の趣(おもむき)に耽(ふけ)らざるべからず。

(※)間……「閑」とするものもある。なお、『大学』には、「小人(しょうじん)間居(かんきょ)して不善(ふぜん)を為(な)す。至(いた)らざる所(ところ)無(な)し」とある。『論語』でも孔子は、「飽食(ほうしょく)して日(ひ)を終(お)え、心(こころ)を用(もち)うる所(ところ)無(な)し。難(かた)いかな」(陽化第十七)という。『養生訓』の貝原益軒は、「心(こころ)は常(つね)に楽(たの)しむべし、苦(くる)しむべからず、身(み)は常(つね)に労(ろう)すべし、やすめ過(す)ごすべからず」と言い、健康法としてもいつも楽しむことをすすめている。本書の後集95条にあったように、自分の生き方を最も尊重し、自分の本性をうまく出すためにも、人生を楽しむべきだとする『菜根譚』はすばらしい。『幸福論』で知られるアランも、「人間は意欲すること、そして創造することによってのみ幸福である」と述べている。後集2条も参照。

【原文】
人生太閒、則別念竊生、太恾、則眞性不現。故士君子、不可不抱身心之憂、亦不可不耽風月之趣。

 

119 一人静かに坐り、心を落ちつかせる


【現代語訳】
人の心の多くは、動揺しているときに真実を見失う。そこで、何も考えずに心を落ちつかせ、一人静かに坐ると良い。すると心は、雲が湧き出して浮かべばそれと一緒にゆったりと流れていくことができる。また、雨のしずくが心を冷やし清めてくれる。そして、鳥が鳴く声を聞くと心も楽しくなる。さらに花の散るのを見ると、ふと心に悟ることがある。このように、どこにいても真理があり、どんな物でもそれぞれに真理のはたらきを教えてくれるのである。

【読み下し文】
人心(じんしん)の多(おお)くは動処(どうしょ)(※)より真(しん)を失(うしな)う。若(も)し一念(いちねん)生(しょう)ぜず、澄然(ちょうぜん)(※)として静坐(せいざ)すれば、雲(くも)興(おこ)りて悠然(ゆうぜん)として共(とも)に逝(ゆ)き、雨(あめ)滴(したた)りて冷然(れいぜん)として俱(とも)に清(きよ)く、鳥(とり)啼(な)いて欣然(きんぜん)(※)として会(かい)する有(あ)り、花(はな)落(お)ちて瀟然(しょうぜん)(※)として自得(じとく)す。何(なん)の地(ち)か真境(しんきょう)に非(あら)ざらん。何(なに)の物(もの)か真機(しんき)(※) 無(な)からん。

(※)動処……動揺しているとき。
(※)澄然……一人静かに。
(※)欣然……本書の後集102条参照。
(※)瀟然……さっぱりとした。ふと。
(※)真機……真理のはたらき。

【原文】
人心多從動處失眞。若一念不生、澄然靜坐、雲興而悠然共逝、雨滴而冷然俱淸、鳥啼而欣然有會、芲落而瀟然自得。何地非眞境、何物無眞機。

 

120 順境も逆境も同じに考えて生きる


【現代語訳】
子どもが生まれるとき、母体には危険がある。お金が貯まると、泥棒が狙う。このように、どんな喜びであろうとも心配の種はある。また、貧しいと節約する。病気になると体に気をつけるようになる。このように、どんな心配事でも喜びになる種はある。こうしてみると、人生の達人というのは、順境も逆境も同じように見て、喜びも悲しみも忘れられる人をいうのである。

【読み下し文】
子(こ)生(う)まれて母(はは)危(あやう)く、鏹(きょう)積(つ)んで(※)盗(とう)窺(うかが)う。何(なん)の喜(よろこ)びか憂(うれ)いに非(あら)ざらん。貧(ひん)は以(もっ)て用(よう)を節(せつ)すべく、病(やまい)は以(もっ)て身(み)を保(たも)つべし。何(なん)の憂(うれ)いか喜(よろこ)びに非(あら)ざらん。故(ゆえ)に達人(たつじん)(※)は当(まさ)に順逆(じゅんぎゃく)一視(いっし)(※)して、欣戚(きんせき)(※)両(ふた)つながら忘(わす)るべし。

(※)鏹積んで……お金が貯まると。「鏹」は銭さしで貫いて一束にした銭、またはお金のことをいう。
(※)達人……『論語』は達人と単なる有名人とは違うとし、次のように述べる。「達(たつ)なる者(もの)は、質直(しっちょく)にして義(ぎ)を好(この)み、言(げん)を察(さっ)して色(いろ)を観(み)る。慮(おもんばか)りて以(もっ)て人(ひと)に下(くだ)る」(顔淵第十二)。つまり、本当によくできた人ということである。
(※)順逆一視……順境も逆境も同じように見る。なお、『老子』は、「禍(わざわ)いは福(ふく)の倚(よ)る所(ところ)、福(ふく)は禍(わざわ)いの伏(ふ)す所(ところ)。孰(た)れか其(そ)の極(きょく)を知(し)らん」(順化第五十八)とする。『老子』の影響の濃い『淮南子(えなんじ)』にも有名な「人間(じんかん)万事(ばんじ)塞翁(さいおう)が馬(うま)」の逸話がある。出光興産創業者の出光佐三は、「順境にして悲観し、逆境にて楽観する」とし、外資の石油メーカーのメジャーに一歩も引かなかった男として、逆境を前向きに生き抜いた。同時にそのなかで、絵画鑑賞の趣味を大事にしてきた、まさに〝菜根譚的人生〟を送った人だ。
(※)欣戚……喜びも悲しみも。

【原文】
子生而母危、鏹積而盜窺、何喜非憂也。貧可以節用、病可以保身、何憂非喜也。故逹人、當順逆一視、而欣戚兩忘。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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