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第118回

127〜129話

2020.06.18更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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127 正当な努力、行いに基づかない好運には十分気をつけたい


【現代語訳】
自分に合わない好運や理由のない授かりものは、天が人を釣り上げる餌(えさ)であるか、人の仕掛けたわなである。このことをよく自分に戒めてわからせておかないと、その術中にはまらない者は少ない。

【読み下し文】
分(ぶ)に非(あら)ざるの福(さいわい)、故(ゆえ)無(な)き獲(えもの)は、造物(ぞうぶつ)(※)の釣餌(ちょうじ)に非(あら)ざれば、即(すなわ)ち人世(じんせい)の機阱(きせい)(※)なり。此(こ)の処(ところ)、眼(め)を着(つ)くること高(たか)からざれば、彼(か)の術中(じゅつちゅう)の堕(お)ちざること鮮(すくな)し(※)。

(※)造物……天。
(※)機阱……わな。落とし穴。
(※)鮮し……少ない。まれである。なお、『論語』に「巧言(こうげん)令色(れいしょく)には鮮(すくな)し仁(じん)」(学而第一)の有名な文句がある。

【原文】
非分之福、無故之獲、非造物之釣餌、卽人世之機阱。此處着眼不高、鮮不墮彼術中矣。

128 自分の人生は自分で決める


【現代語訳】
人間は元来、一個の操り人形のようなものである。ただ、操つる根元のところは自分の手で握っておくようにすべきだ。そうすると、一本の乱れもなく巻くも伸ばすも自由自在に、自分の意で行うことができる。こうして他人の指図を受けなければ、もはや芝居を超越した存在となれる。

【読み下し文】
人生(じんせい)は原(もと)是(こ)れ一(いち)傀儡(かいらい)(※)なり。只(た)だ根蒂(こんてい)(※)の手(て)に在(あ)るを要(よう)し、一線(いっせん)乱(みだ)れず、巻舒(けんじょ)(※) 自由(じゆう)にして、行止(こうし)我(われ)に在(あ)り。一毫(いちごう)も他人(たにん)の提掇(ていてつ)(※)を受(う)けざれば、便(すなわ)ち此(こ)の場中(じょうちゅう)を超出(ちょうしゅつ)せん。

(※)傀儡……操り人形。
(※)根蒂……根元。つけね。
(※)巻舒……巻いたり伸ばしたり。
(※)提掇……指図する。干渉する。操縦する。なお、自分の人生は自分で決めて進むことについては、本書の前集90条、98条、181条、後集32条、49条、95条参照。なお、アメリカの電機機械の総合メーカー・GEの伝説的名経営者であるジャック・ウェルチも「自分の運命は自分でコントロールすべきだ。さもないと、誰かにコントロールされてしまう」と言っている。

【原文】
人生原是一傀儡。只要根蒂在手、一線不亂、卷舒自由、行止在我。一毫不受他人提掇、便超出此場中矣。

 

129 世のなかは事が何も起こらないのが幸せである


【現代語訳】
一つ事が起これば、良い事も起こるが同時に必ず弊害も起こる。だから世のなかは、事が何も起こらないのが幸せである。前人の詩を読むと次のようなものがある。一つは、「君に勧める。手柄を立てた人の立身出世した話をするのはやめてもらいたい。一人の将軍の英雄譚には、何万人もの骨となって戦場で枯れ朽ちてる人たちがいるのだから」である。もう一つは、「世のなかが平和で何も事が起きないなら、武器である私は千年でも箱のなかに入れられたままで使われなく、赤さびとなってしまっても本望である」である。これらを読むと、雄々しい心や勇猛心ある人でも、氷やあられが陽に溶けてしまうように、気が変わってしまうだろう。

【読み下し文】
一事(いちじ)起(お)これば則(すなわ)ち一害(いちがい)生(しょう)ず。故(ゆえ)に天下(てんか)は常(つね)に事(こと)無(な)きを以(もっ)て福(さいわい)と為(な)す。前人(ぜんじん)の詩(し)(※)を読(よ)むに云(い)う、「君(きみ)に勧(すす)む、話(かた)る莫(な)かれ封侯(ほうこう)の事(こと)を、一将(いつしょう)功(こう)成(な)って万骨(ばんこつ)枯(か)る」。又(また)云(い)う、「天下(てんか)常(つね)に万事(ばんじ)をして平(たい)らかならしむれば、匣中(こうちゅう)(※)、惜(お)しまず千年(せんねん)死(し)するを」。雄心(ゆうしん)猛気(もうき)有(あ)りと雖(いえど)も、覚(おぼ)えず化(か)して氷霰(ひょうさん)(※)と為(な)る。

(※)前人の詩……唐の曹松(そうしょう)の「己亥(きがい)の歳(とし)」という七絶の転句と結句。なお、本項は、『老子』の不戦の思想の影響もあると考える。例えば、『老子』は次のように述べている。「兵(へい)は不詳(ふしょう)の器(き)にして、君子(くんし)の器(き)に非(あら)ず」「勝(か)ちて而(しか)も美(び)ならず。而(しか)るに之(これ)を美(び)とする者(もの)は、是(こ)れ人(ひと)を殺(ころ)すを楽(たの)しむなり」(以上偃武第三十一)。また、「善(よ)く士(し)たる者(もの)は武(ぶ)ならず」(配天第六十八)とも言う。
(※)匣中……箱のなか。
(※)氷霰……氷やあられ。

【原文】
一事起則一害生。故天下常以無事爲福。讀歬人詩云、勸君莫話封侯事、一將功成萬骨枯。又云、天下常令萬事平、匣中不惜千年死。雖有雄心猛氣、不覺化爲氷霰矣。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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