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胎内記憶でわかった こどももママも幸せになる子育て 産婦人科医 池川明

第24回

お母さんを悲しませるために存在する子どもはいない

2017.12.11更新

読了時間

人間の神秘「胎内記憶」から子育てを考える。胎内記憶研究の第一人者の医師がたどり着いた境地とは? 親の論理ではなく「子どもの本音」に耳を傾けた、子どもの「才能=生きる力」を強くする胎教法と育児法を紹介。
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 現在、すべての妊娠のうち8~10パーセントが流産になり、そして、お産のうち2~3パーセントは死産になると言われています。

 先ほども紹介しましたが、流産や死産も意味があって起こっています。

 お母さんが流産をして3か月後に宿った子どもの話です。

「前にきた赤ちゃんはぼくだったんだよ。あのときどうして帰っちゃったかっていうと、パパとママを選んだんだけど、本当にこのパパとママでいいか、たしかめに来たんだ。それでだいじょうぶだと思ったから、次は本当に来たんだ」

 下見だったんですね。流産してしまったときの様子なども観察していたのでしょうか。それで、この両親なら大丈夫だと安心して、再度、やってきたんですね。下見ですから、生まれることなく帰っていくのは当然です。これは、その子の意志です。くれぐれも、お母さんは自分を責めないようにしてほしいと思います。私の経験からすれば、お母さんがちょっと無理をしたくらいで流産はしません。生まれるという意志をもった赤ちゃんは、どんなことがあっても生まれようとするものです。

 生まれる1週間前にお母さんのお腹の中で心臓が止まってしまった男の子がいました。医学的には原因不明でした。お腹の中の赤ちゃんやたましいともコミュニケーションができるたいわ士の方に、亡くなった赤ちゃんの思いを聞いてもらいました。すると、こんなメッセージを赤ちゃんがくれました。

「流産することも、早産になって死ぬこともできたし、生きて生まれてくるという選択もあったよ。でも、お母さんとお父さんにとっていちばんいいのが、予定日1週間前のこの時期に雲の上に帰ることだと思ったから、そうしたの」

 これを聞いて、お母さんははっとしました。そのころ、夫婦関係が非常に悪くなっていて、離婚寸前というところまで追い込まれていたのです。その上、3人の幼い子どもを抱えていましたので、イライラしたり怒ったり、精神的にもとても不安定でした。

 私のクリニックでは、お腹の中で赤ちゃんが亡くなったとき、お母さんが望み、医学的に見て問題がないなら、赤ちゃんが自然に外に出てくるのを待つことがあります。この子の場合も、みんなで自然に出るのを迎えようということになりました。促進剤も使いませんでした。にもかかわらず、8時間ほどで陣痛がきました。そして、生きている子の出産と同じように、助産師さんも赤ちゃんやお母さんに声をかけました。生まれてすぐに、その子は、お母さんの胸に抱かれました。悲しかったけれども、胸を打つ光景でした。

 亡くなっていることがわかってからお母さんの胸に抱かれるまで、その子は、お母さんにもまわりの人にも、いろいろなことを教えてくれました。生まれるというのはどういうことなのか、命とは何なのか、だれもが考えずにはいられませんでした。それが、その子の役割だったのです。

 妊娠・出産に命がけでのぞんでいるのはお母さんだけではありません。赤ちゃんも、同じように命をかけています。命をかけて届けてくれたメッセージ、大切に受け取り、行動で示していかないと、赤ちゃんに申し訳ないと思います。あるお母さんは、死産という悲しい体験をプラスに変えようと、命の大切さを伝える活動を始めました。きっと、空に帰った赤ちゃんは、うれしそうな顔をして、お母さんの活動を見守っていることでしょう。

 流産や死産は、お母さんにとっても、家族の人にとっても悲しい出来事です。でも、赤ちゃんは、お母さんや家族を悲しませようとか苦しめようとして、空へ帰ってしまったわけではありません。人間の感情を超えたもっと深い意味があって、彼らはそういう生き方、死に方を選択しているのです。悲しまないで、というのは無理な話ですが、少しでも余裕ができたときには、あの子の真意は何だったのだろうと、考えてみてください。

 流産、死産に限らず、元気に生まれてきた赤ちゃんも、大きなリスクと役割を背負って、この世にやってきてくれています。まだ、何も話せない赤ちゃんであっても、たまには、「この子は何のために生まれてきたのだろう?」と、考えてみてください。そう思ってくれるだけで、赤ちゃんは幸せを感じます。命がけで生まれてきた甲斐があったと、とても喜びます。

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著者

池川 明

1954年東京生まれ。帝京大学医学部大学院修了。医学博士。上尾中央総合病院産婦人科部長を経て、1989年に池川クリニックを開設。胎内記憶・誕生記憶について研究を進める産婦人科医としてマスコミ等に取り上げられることが多く、講演などでも活躍中。母と子の立場に立った医療を目指している。著書に『おぼえているよ。ママのおなかにいたときのこと』『ママのおなかをえらんできたよ。』(以上、二見書房)『笑うお産』(KADOKAWA)など多数。

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