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子どもの敏感さに困ったら 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方 長沼睦雄

第1回

【HSCの本】<敏感で繊細な子>との向き合い方

2017.05.07更新

読了時間

5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
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〈敏感で繊細な子〉との向き合い方


  私は北海道帯広市で精神科・児童精神科のクリニックをやっています。いろいろな症状を抱え、生きづらさを感じている方たちがやってきますが、最近増えているのが敏感さに苦しむ人たちです。

 2016年に出した『敏感すぎる自分を好きになれる本』(青春出版社)で、生まれつき刺激に対してとても敏感な人「HSP」について書いたところ、非常に反響が大きく、「これ、まるで自分のことのようです」という感想がたくさん寄せられました。そして、実際に敏感さに悩む方々が全国各地から問い合わせをされてきたり、遠路はるばるやってこられたりするケースが増えたのです。

 過剰な敏感さに困っている人が、やはりこんなにいるんだと実感する一方、私は「これは大人だけでなく、子どものHSPのことももっと知ってもらう必要があるなあ」という思いを強くしました。

 そんな私の思いに呼応するかのように「HSPの子どもたちのための本を書いてもらえませんか?」というお話が舞い込みました。それがこの『子どもの敏感さに困ったら読む本』です。

 子どもは自分の感覚をうまく言葉にして伝えることができないため、ある意味、大人以上につらさ、苦しさを抱えています。普通の感覚の人にとっては何でもないようなことも、大きな刺激や動揺のもとになり、疲れやすく、傷つきやすく、ストレスを感じやすいのです。

 みんな自分の意思で繊細になろうとしてなったわけではありません。自分の身体と心に戸惑いながら、降りかかってくる不愉快な刺激に困惑しているのです。それだけに、自分のことを理解してくれる人や、安心できる居場所を非常に強く求めています。

 周囲の大人たちはそんなセンシティブな子どもたちとどう向き合い、どう育てていったらいいのか、どう見守り、どう支えてやったらいいのか、そういうことを書きました。

 この本が、世の中の敏感で繊細な子どもたちを少しでも生きやすくするための手助けになればいいなと思っています。

 

私とHSPとの出会い


「HSP(Highly Sensitive Personハイリー・センシティブ・パーソン)」というのは、いまから約20年前に、アメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン博士が発表された概念です。その名のとおり、生まれつきとても敏感な感覚、感受性を持った人たちのことをいいます。

 アーロン博士は、自身も息子さんもたいへん敏感な気質でいろいろ苦労をされた経験から、人の持つ「高い敏感性」について心理学の見地から研究してみたいと考え、たくさんの調査を実施し、研究を重ね、『The Highly Sensitive Person』という本を出しました。

 1996年にアメリカで出版されたこの本は大ベストセラーになり、その後、世界各国で翻訳出版されています。日本では『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』(冨田香里訳 講談社)というタイトルで2000年に刊行され(現在はSB文庫に収録)、日本でもHSPという言葉が知られるようになりました。

 当時、小児専門の精神科医として、「発達障害(現在は神経発達症と呼ぶようになっています)」や発達性トラウマ、愛着障がいなどの診療に携わっていた私は、この本を読んでびっくりしました。私がそれまで漠然と感じていたことが、HSPという新たな概念によって非常にクリアに説明されていたからです。

 これまでの概念では説明しきれないことも、神経の過敏性が起因していたのだと考えると、腑に落ちることが多々あります。

 しかもこの概念がいいのは、「この敏感さは、病気でもない、障がいでもない、単に生まれ持った気質によるものなのだ」と喝破しているところでした。つまり、生まれつき足の速い人がいたり、手先の器用な人がいたり、いい声で歌える人がいるように、とても敏感な感受性という気質を持った人たちがいるだけ、という考え方です。

「これは、子どもたちの心の問題を解明するのにきっと役に立つぞ」

 そう確信を持った私は、早速、診断のチェックリストにこの概念を取り込み、臨床研究を行うようになったのです。

 そういう日々の中で「まさにHSPだ」と思うような人たちにたくさん会い、その人たちから「HSPとはこういうものだ」ということをいろいろ教えてもらうようになったのです。

(なお、「障害」の表記については、正式な書類に病名、診断名、専門用語として書きあらわす場合は漢字表記をすることになっているので、本書の表記もそれに準じます。ただし、私自身は「害」という字の持つマイナスイメージが好きではないので、一般的な用語については「障がい」と書きあらわしています)


HSCがいまひとつ知られていないワケ


 アーロン博士は、2002年に『The Highly Sensitive Child』というタイトルで、とても敏感な子どもたちの特徴や育て方を詳しく書いた本を出しました。その中でHSPの子ども版のことを「HSC(Highly Sensitive Childハイリー・センシティブ・チャイルド)」と呼びました。

 HSPに関心を寄せるようになっていた私は、すぐに英語版を取り寄せてむさぼるように読みました。しかし、なぜかいつまで経ってもこの本の翻訳版が出なかったのです。

 それが『ひといちばい敏感な子』(エレイン・N・アーロン著 明橋大二訳 一万年堂出版)として出版されたのは、2015年。アメリカで刊行されてから13年後のことでした。

 つまり、それまでHSCという言葉は日本に本格上陸を果たしていなかったのです。いまはネット時代ですから、知ろうとすれば英語の情報で知ることはできましたが、HSCという言葉が日本で一般的に知られるようになったのは、本当にここ2年ほどのことだといえます。HSCという言葉の認知度が低い背景には、そういうことがあります。

 片やHSPのほうは、当事者である方たちが自分たちの経験などをもとにHSPに関する本を出版されるようになり、じわりじわりと浸透してきています。

 HSPは生来のものなので、みんな赤ちゃん時代からずっと敏感だったわけですが、生育環境においてその気質がどう受けとめられてきたかで、その後の生きやすさ、生きにくさは大きく変わります。

 だからこそ、子どもの敏感さに目を向けることが大事だと私は思っているのです。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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