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KEEP MOVING 限界を作らない生き方  武藤将胤

第7回

自由にどこにでも行くことを決してあきらめない

2018.06.21更新

読了時間

【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
「目次」はこちら

Chapter 2 自由にどこにでも行くことを決してあきらめない

ワクワクして乗りたくなった、新しい乗り物「WHILL」との出合い

「これ、めちゃめちゃカッコいい!」
 次世代型電動車いす「WHILL(ウィル)」を知ったとき、僕は心がときめきました。
 とにかくデザインがスタイリッシュ。車いすというよりは、ユニバーサルデザインの新しい乗り物という感じです。僕はひと目で気に入りました。
 実際に乗ってみると、じつに快適。操作は手元のコントローラーだけで、誰にでも簡単に動かせます。手の動きがどんどん鈍っている僕でも、問題なく走行させられます。
 非常に小回りが利き、狭い場所での回転も自在にできます。
 その機能性は、4輪駆動の独特なタイヤにポイントがありました。24個の小さなタイヤで構成されている前輪が、優れた機能性と安定走行を実現させていて、普通の車いすでは対応できないような段差も、難なく乗り越えることができます。一般的な車いすだと4.5センチくらいの段差が精いっぱいなのに対し、WHILLは7.5センチ程度の段差もクリアできてしまうのです。それもガタつくことなく、じつに滑らかに。
 坂道にも、横の傾斜にも強い。細い路地だとか、砂利道、でこぼこ道、芝生なども気持ちよく走れます。
 僕はその製品コンセプトにも共感しました。WHILLは、どんな世代のどんな人でもカッコよく乗ることのできるパーソナルモビリティ。障害者だから、健常者だからと線引きして分けてとらえるのではなくて、どんな人が使ってもいいもの。誰が見ても「カッコいい」と思えるもの。
 WHILLは、まさに僕が思い描いている「ボーダーレス」を体現した乗り物でした。

© 阪本勇

車いすだってカッコよさが欲しい

 じつは、WHILLに出合うまで、僕の中にはいろいろな葛藤がありました。
 徐々に身体の自由が利かなくなっていき、歩きにくさを感じるようになっても、日常を車いすで生活することをすんなり受け入れられなかったのです。
 理由のひとつは、「自分はまだまだ歩ける」「車いすなんかまだ要らない」と思いたい気持ちがあったこと。同時に、「車いすに乗っている姿を人に見られたくない」という気持ちもありました。
 しかし、ちょっとしたことで転びやすくなったりしていることも事実でした。何でもないところでも、足がもつれて転んでしまう。「あっ!」と思っても、手も動かなくなっているので、とっさに手をつくことができません。そのまま倒れて、ガーンと顔面を強打する。階段から落ちてしまったこともありました。
 幸い、骨折などの大ケガにはなりませんでしたが、顔に擦り傷を作ったり、打ち身でどこかを傷めたり、前歯を欠けさせてしまったりすることがたび重なるようになると、車いすの導入を考えざるを得なくなっていきました。

 いざ車いすをリサーチしはじめてみて、最初はショックを受けました。自分が乗りたいと思えるような車いすが一台も無かったのです。正直、「この車いすで街中を走り、電車に乗り、仕事に行ったり、クラブに行ったりできるか!」と思うようなものばかり。
 車いすを使うのは高齢者の方が多いということもあるのかもしれませんが、病気や障害があり車いすが必要な人は、僕のような世代の人だって、子どもだってたくさんいるはずです。「これって、まずいことだな」と感じました。
 ほかに選択肢がないから仕方なく、消極的に乗るのではなく、デザイン的にカッコよくて、自分から進んで乗りたくなるような車いすがあれば、病気や障害のある人でも、外に出たくなります。行動範囲が拡がります。
 考えてみてください。自転車を買うときに、「動けばいいじゃないか」と思って選びますか? 自分の気に入ったデザインのものを選びたいと思いますよね。気に入ったものだからこそ、気持ちもはずんでさっそうとあちこちに出かけたくなります。愛着が湧いて大事にしたくなります。
 カッコよさへの配慮、デザイン性というものが、福祉や介護の世界では軽んじられているような気がしてしまいました。障害のある人間が、ユーザー視点で「こんなの、乗りたくないよ」と言わないと、いつまでたってもデザインがよくならないと思ったのです。
 だから、僕は声を大にして言おうと思いました。

制約をヒントに、カーシェアを始める

 また、公的支援のあり方についても考えさせられました。ALSについては、介護保険が適用されるのは40歳からです。ですから、車いすを購入しようと思っても、僕の年齢では介護保険という支援を受けることができません。すべて自己負担になってしまいます。
 自立支援制度を利用して行政からサポートしてもらうような方法もありますが、そのためには自分でさまざまな手続き、申請をし、行政と根気よく交渉をしなくてはなりません。
  つまり、若年の難病者、障害者は、車いすが必要になって購入しようとしても、自己負担が大きいという問題があるのです。
 値の張るものでも、一生ものだと思えば、思いきって買う気にもなります。長い間ずっと使えるのであれば、高くても入手を考えるでしょう。
 けれどもALSの場合、病気の進行によって状態がどんどん変わっていきます。そのときどきの身体的状況に応じて、車いすの形態も変える必要がある、乗り換えていくことになるので、高価なものは購入しにくいのです。
 介護保険が適用されない若年世代にとっては、なおさらです。

 WHILLを知った僕は、これに乗って行動する自分の姿や患者仲間の姿をワクワクした気分で思い描くことができました。
 機能性、走行性、デザイン性、安全性、すべてにおいて◎、コンセプトも◎、文句なしなのですが、ひとつ課題がありました。それだけよく考えて作られているものだけあって、購入するとなると値段が張るのです。
 WHILLは介護保険適用者であればレンタルも可能なのですが、僕らのような若年層の場合は、それも適応外です。
 費用という壁―。
 僕自身が実際に直面したこの課題から考えついたのが、「カーシェアサービス」でした。
 僕らが「WITH ALS」としてWHILLを複数台購入し、必要としている方にレンタルして使っていただくというプロジェクトです。
 介護保険の適用されない40歳未満の若年ALS患者さんに乗ってもらう目的で、2017年2月にこのコンセプトをクラウドファンディングで提案し、資金募集をしました。
 多くの方々が共感、賛同してくださって、目標金額を達成。
 さっそく3台のWHILLを購入し、17年4月から車いすのレンタルシェアサービスを開始することができました。現在は、4台のWHILLがフル稼働しています。

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一般社団法人WITH ALS
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著者

武藤将胤

1986年ロサンゼルス生まれ、東京育ち。難病ALS患者。一般社団法人WITH ALS 代表理事、コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。また、(株)REBORN にて、広告コミュニケーション領域における、クリエイティブディレクターを兼務。過去、(株)博報堂で「メディア×クリエイティブ」を武器に、さまざまな大手クライアントのコミュニケーション・マーケティングのプラン立案に従事。2013年26歳のときにALS を発症し、2014年27歳のときにALSと宣告を受ける。現在は、世界中にALSの認知・理解を高めるため「WITH ALS」を立ち上げテクノロジー×コミュニケーションの力を駆使した啓発活動を行う。本書『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』が初の著書となる。

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