第21回
行動し続けることが明るい未来を拓く道
2018.08.09更新
【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
「目次」はこちら
「アイスバケツ・チャレンジ」から約4年
突然ですがご紹介をさせてください。僕らが「WITH ALS」のキャラクターとして制作した「WITH ALS KID君」です。
このキャラクターを考えるにあたって、僕の心にはひとつのストーリーがありました。
「WITH ALS」のキャラクター「WITH ALS KID君」 © WITH ALS
*
KID君はやんちゃな男の子です。
ある日、倉庫の中でほこりをかぶった赤いバケツを見つけました。
「あっ、これは……」
眼をキラキラさせたKID君は、そのバケツをかぶってよたよたと倉庫を出てきました。
「何やってるの?」とママの声。
KID君は言いました。
「ぼく、このバケツ知ってるよ。パパが見せてくれた昔のYouTubeで、パパはこのバケツでお水かぶってた。だから、ぼくもこのバケツかぶることにしたんだ」
パパとママは思わず顔を見合わせました。
パパは4年前、「アイスバケツ・チャレンジ」をしました。そのときのバケツがこれでした。この間、古い映像を見返していたとき、KID君はパパがこのバケツで氷水をかぶって水びたしになったところを見て覚えていたのです。
その日から、KID君はずっとバケツをかぶり続けました。
「バケツかぶりはもういいかげんにしたらどうだ?」
なにげなくパパが言いました。
「どうして?いつも『一度始めたことは、最後まで続けなさい』って言うじゃないか。なのに、パパたちはもうバケツをかぶらない。続けなくていいの?そんなのおかしくない?大人は勝手だ!」
KID君の言葉に、パパもママもハッとしました。
「アイスバケツ・チャレンジ」が何の目的のものだったかを思い出したからです。
「そうだな、おまえの言うとおりだ。パパたちは大事なことを思い出したよ。忘れないように、ちゃんと書いておこう」
パパはそう言うと、KID君とふたりで、お気に入りの赤いバケツの前面に
「KEEP MOVING」
後ろの面に、
「OVERCOME ALS」
と大きく書きました。
KID君はこのバケツがますます好きになり、ずっとかぶり続けています。
僕らは、行動し続けていくことの大切さを、このキャラクターに込めたいと思いました。
今、自分にできる行動を続けること―それが明るい未来を築く力になると信じているからです。
© WITH ALS
行動し続けることが明るい未来を拓く道
2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」の盛り上がりは、本当にすごかったと思います。
日本での寄付も、2014年8月の2週間だけで2700万円を超えました。それまでの1年間の寄付の4倍相当の額だったといいます。賛否両論ありましたが、ALSという病気のことを世の中に広く知ってもらう大きなきっかけになったことは確かです。
ただ、僕が残念に思うのは、あれが一時のブームのようなかたちで終わってしまったことです。
ALSは、撲滅できる病気になったわけでは決してありません。今なお、治療法は見つからず、世界中で多くの患者さんたちが苦しんでいます。
しかし、ひとりが始めた行動が、大きなウェーブになることが「アイスバケツ・チャレンジ」では実証されました。
このように、一人ひとりが、それぞれ自分のできることの範囲で「KEEP MOVING」してほしい、行動し続けてほしい、僕にはそういう思いがあります。その歩みが、未来を変えるんです。
僕は今年、気管切開手術を受ける予定です。命の期限、延命の意味といったことを日々リアルに感じています。今年は、僕自身のテーマも「KEEP MOVING」です。ALSを治る病気にするために、今、自分にできる行動を続けていきたいと思っています。
あなたが医療関係者であったら、それは治療法や治療薬の研究・開発かもしれません。
あなたが看護や介護関係に携わる人だったら、それは看護・介護のあり方を考えることかもしれません。
あなたが技術者であったら、新たなテクノロジー開発の探求かもしれません。
あなたが役所勤めだったら、難病支援に対する知識や理解を深めることかもしれません。
あなたが難病とは何の接点もない日常を送っていたとしても、クラウドファンディングのプロジェクトに支援の手を差し伸べるとか、基金の趣旨に賛同してTシャツを購入するとか、一人ひとりにできることが何かあります。
長い人類の歴史の中で、意志ある人たちが「何か」行動し続けてきた結果、今のような世の中に変わってきたのです。
だから、今自分にできることを、少し勇気を出してやることで、きっと世の中はもっとよくなっていくのです。
僕が、行動し続けることの大切さを感じるようになったのは、スティーヴン・ホーキング博士の存在が大きいです。
ホーキング博士は、ALSという病気でありながら、いち早く視線入力や音声合成というテクノロジーを取り入れ、物理学、現代宇宙論の研究を50年以上続けられました。2018年3月14日に亡くなられましたが、どんな状況になっても行動し続け、76歳まで生きられました。
その姿勢は、多くのALS患者、いえハンディキャップを背負ったすべての人に、勇気と希望を与えてくれました。
「障害者を、孤独の中に閉じ込めるべきでない」
博士はそれを、身をもって実践されてきた方です。
生き続ければ、きっと明るい未来が待っていると思います。
僕は、ホーキング博士から偉大なバトンを受け取ったつもりで、いろいろなテクノロジーを駆使して、行動し続けていくことを自分の使命だと思っています。
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一般社団法人WITH ALS
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