第3回
ブリーフシステムが、人の選択や行動を決定する
2019.02.21更新
臆病、意地っ張り、せっかち…。あなたは自分の「性格」に苦労していませんか? 性格は変えられないというのはじつはウソ。性格とは、人が生きていく上で身に付けた「対人戦略」なのです。気鋭の認知科学者である苫米地英人博士が、性格の成り立ちや仕組み、変え方などを詳しく解説します。
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それではここで、「ブリーフシステム」という耳慣れない言葉について、詳しく説明しましょう。
ブリーフとは「belief」、つまり「信念」のことです。
「信念」という言葉は、一般的には「人は社会に貢献するべきである」「親は無条件に子を愛し、子は親を大事にするべきである」「人には優しくするべきである」「弱者は守られるべきである」といった、個人個人が信じる「人間のあるべき姿」「社会のあるべき姿」を示すものとして使われています。
しかし、ここでいう「信念」は、そのような道徳的で崇高なもの、世間から「好ましい」とみなされるものだけに限定されません。
「この世はお金がすべてである」「自分さえよければいい」「社会的弱者は差別されて当然だ」といった反社会的なもの、世間から「好ましくない」とみなされるものであっても、個人個人が強く信じて疑わない固定的な考えは、すべてその人の信念なのです。
ブリーフは、その人が物事を判断する際の基準となる「評価情報」である、ともいえるかもしれません。
そして、ブリーフをもとにできあがった「自分はどういう人間なのか」「人前でどのようにふるまうか」「社会に対して自分はどう働きかけるか」といった、その人にとっての認識のパターンや無意識の行動を決めるシステムが、ブリーフシステムです。
なお、「信念」といっても、それらは自分の自由意思で獲得したものではなく、過去の情動記憶(感情を伴った記憶)や、過去に自分が受け入れた外部の言葉によって作られます。
つまり、ブリーフシステムとは、生まれたときからの経験や、親や教師、友人、メディアからの情報などによって摺す り込まれた認識の集合体だといえるでしょう。
もし、あなたが子どものころ、「コーヒーは苦くてまずい」と感じたとすると、その情動記憶は脳にインプットされ、「コーヒーはまずいから飲みたくない」といったブリーフシステムが作られます。
あるいは子どものころ、「コーヒーは、カフェインが多いから、飲んではダメ」と両親から言われたり、そうした一文を本や雑誌で読んだりしたなら、「コーヒーはカフェインが多くて体に悪いから、飲みたくない」といったブリーフシステムが作られます。
作られたブリーフシステムは、人間の脳の中で最も新しく進化した、知性を司る部位である「前頭前野」に側頭葉の個別な記憶とは独立してパターン化されて蓄積され、人はそのブリーフシステムによって、無意識のうちに未来のことを予期・予想し、その予期・予想にしたがって、選択したり行動したりするのです。
たとえば、「コーヒーは飲みたくない」というブリーフシステムを持つ人が、レストランなどで「コーヒーにしますか? 紅茶にしますか?」と尋ねられたときには、無意識のうちにコーヒーを避け、紅茶を選びます。
あるいは、子どものころから親に「いい学校に進学し、一流企業の社員か公務員になりなさい」と言われ続けた人は、知らず知らずのうちに、それを人生の目標とするでしょう。
たとえその人に音楽の才能があり、一時的に「ミュージシャンになれたらなあ」と思うことがあったとしても、「音楽で食べていけるはずがない」「自分にはそこまでの才能はない」と自らあきらめてしまうかもしれません。
このように、みなさんが「自主的に選んでいる」もしくは「特に意識せず、自然に選んでいる」と思っている選択や行動はすべて、他者によって植えつけられた思考や好みから形成されたブリーフシステムに基づいています。
同様に、「物事は楽観的に考えた方がいい」「できるだけ笑っていた方がいい」というブリーフを持つ人は、物事を悲観的に考えたり、泣いたり怒ったりするよりも、楽観的に考え、笑うことを選ぶでしょう。
「人間は、真面目に生きるのが一番である」というブリーフを持つ人は、常に真面目にふるまうことを選び、「自分さえ良ければいい」というブリーフを持つ人は、他人と利害がぶつかったとき、何よりも自分の利益を優先させることを選ぶでしょう。
もうおわかりでしょうか。
もし、あなたが「自分は明るい性格だ」と思っているとしても、それはあなたが、
「自分は明るい人間である、というブリーフ、自己イメージを持っている」
「自分は明るい人間としてふるまわなければならない、というブリーフシステムを持っている」
ということでしかありません。
親や教師から「物事は楽観的に考えた方がいい」「できるだけ笑っていた方がいい」と言われたこと、友だちから「あなたは、誰とでもよく話すし明るいね」と言われたこと、周りの人と自分を比べて「自分の方が明るい」と思ったこと……。
過去にあなたが受け入れた、そうした情報によって、あなたの中に「明るい方が好かれやすい」あるいは「自分は明るい人間である」「自分は、他人から『明るい人間だ』と思われているに違いない」といったブリーフが作られ、かつ「明るい人間」にふさわしいふるまいをしている。
それが、あなたの「明るい性格」の正体であり、生まれながらにして持ち合わせた性質でもなければ、「絶対的なもの」「簡単には変わらないもの」でもないのです。
ちなみに、「性格は遺伝する」「性格は遺伝によって決まる」というのは、世の中に流布している、「性格」に関する誤った認識の一つです。
世の中で「性格」だと思われているもの、すなわち、その人の思考や行動の傾向を決定するのは、成長の過程で後天的に作られたブリーフシステムであり、当然のことながら、遺伝子には、その情報は搭載されていません。
もちろん、親の言葉や家庭内のルール・習慣はブリーフシステムに強い影響を与えますから、家族同士で思考や行動の傾向が似ることはしばしばありますが、性格が遺伝することは、まずありえないのです。
ほぼ同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でさえ、まったく異なる「性格」を持っていることを考えれば、おわかりいただけるのではないでしょうか。
■ ポイント
・ブリーフシステムとは、人が強く信じて疑わない固定的な考え。
・ 信念は、過去の情動記憶や、過去に自分が受け入れた、外部の言葉によって作られる。
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