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第4回

誰かの「性格」について話すことは、自己紹介にほかならない

2019.02.28更新

読了時間

臆病、意地っ張り、せっかち…。あなたは自分の「性格」に苦労していませんか? 性格は変えられないというのはじつはウソ。性格とは、人が生きていく上で身に付けた「対人戦略」なのです。気鋭の認知科学者である苫米地英人博士が、性格の成り立ちや仕組み、変え方などを詳しく解説します。
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 では次に、「『性格』に対する他人の評価」について考えてみましょう。

 身のまわりの人に関して、「あの人は明るい性格だ」「あの人は暗い性格だ」「あの人は真面目だ」「あの人は不真面目だ」といった評価を下す、というのは、誰にでも経験のあることだと思います。
 しかしそんなとき、私たちは決して、「性格」というものを絶対的かつ客観的な基準に基づいて評価しているわけではありません。
 私たちはただ、「ブリーフシステムに基づいて明るくふるまっている人」「暗くふるまっている人」「真面目にふるまっている人」「不真面目にふるまっている人」の行動を見ているだけなのです。
 しかも私たちは、その人のすべての行動を見ているわけではありません。

 人はそれぞれ、無数のブリーフシステムを持っており、中には、互いに矛盾するブリーフシステムもあります。
 たとえば、ある人が、以下の2つのブリーフシステムを、同時に持ち合わせていたとします。
 A 自分は優しい人間であり、人に辛い思い、悲しい思いをさせたくない
 B 自分は真面目な人間であり、与えられた仕事は、きちんと全まつとうしたい
 置かれている状況によっては、この2つのブリーフシステムは、特に矛盾することなく並び立つでしょう。
 おそらく周りの人は、AとBに基づく選択や行動の傾向から、この人を「優しく、仕事熱心な性格」と評価するはずです。

 ところが、もしこの人が「会社の業績回復のために、同僚をリストラする」という職務を与えられたら、どうでしょう。
 AとBの間に矛盾が生じ、この人は葛藤を抱えることになります。
 その結果、AよりもBを優先させ、心を鬼にしてリストラを断行した場合、この人は「仕事熱心だけれど非情な性格」と評価されるでしょう。
 逆に、BよりもAを優先させ、与えられた職務を放棄したら、この人は「優しいけれど無責任な性格」と評価されるかもしれません。
 複数のブリーフシステムのうち、どれが優先されるかによって、人の行動は変わりますし、周りの人が、その人のどの行動に注目するかによって、評価も変わるのです。

 そもそも、話している相手、一緒にいる相手が違えば、人のふるまいや行動も自おのずと変わります。
 みなさんも、家族や恋人の前で見せる顔と、仕事の場で見せる顔は違うでしょうし、家族が考えるあなたの「性格」と、会社の同僚が考えるあなたの「性格」は、当然異なるはずです。

 また、同じ人が同じような行動をとっていても、置かれている環境が変われば、評価も変わります。
 たとえば、どちらかといえばおとなしい人たちの中に、一人だけよく笑い、よく話す人がいれば、周りの人はその人を「明るい性格だ」「にぎやかな性格だ」と評価するでしょう。
 しかし、その人が、より明るくにぎやかな人たちと一緒にいれば、同じように笑ったり、話したりしていても「おとなしい性格だ」と評価するかもしれません。

「明るい」「にぎやか」「おとなしい」といった評価には、絶対的・客観的な基準がありません。
 ほかの人との比較によって、相対的に導き出されるだけなのです。

 さらに、ある行動に対してどのような評価を下すかは、人によってまったく異なります。
 たとえばAさんが、Bさん、Cさん、Dさんという3人の友人に、笑いながら次のような話をしたとします。

「いやあ、まいったよ。先週末、新聞の集金がうちに来てさ。いつも口座引き落としなのに、おかしいな……と思いながら4000円、払っちゃったんだけど、後で調べたら、詐欺だったんだよ」

 これを聞いた3人は、おそらくまったく異なる感想を抱くでしょう。
 Bさんは、「災難を笑い話にできるAさんは、大らかな人だ」と好感を持ち、Cさんは「騙されたのに、怒りもせずヘラヘラしているAさんは、お人よしだ」と憤慨し、Dさんは「まんまと騙され、それを恥ずかしげもなく話しているAさんは、なんて馬鹿なんだ」とあきれかえるかもしれません。

 人が他人を評価するとき、そこには必ず主観が入りますし、その人が持つブリーフも、大きく関わってきます。
「人は真面目であるべきだ」というブリーフを持っている人は、他人が真面目であるかどうかをとても気にするでしょう。
「美しくなければ価値がない」というブリーフを持っている人は、他人が美しいかどうかをとても気にするでしょう。

 この例で言えば、もしかしたらBさんは「細かいことを気にせず、大らかに生きたい」、Cさんは「許せないことがあったら、ちゃんと怒るべきだ」、Dさんは「騙されて損をするのは、愚かなことだ」といったブリーフを持っているかもしれません。

 つまり、誰かの「性格」について話すことは、「自分がどんなブリーフを持っているか」を提示すること、すなわち自己紹介にほかならないのです。

■ ポイント

・複数のブリーフシステムのうち、どれが優先されるかによって、人の行動は変わる。
・人の行動の評価は、置かれている環境によって変わる。
・人を評価するとき、自分のブリーフシステムが判断基準になっている。


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著者

苫米地 英人

1959年、東京都生まれ。認知科学者、計算機科学者、カーネギーメロン大学博士(Ph.D)、カーネギーメロン大学CyLab兼任フェロー。マサチューセッツ大学コミュニケーション学部を経て上智大学外国語学部卒業後、三菱地所にて2年間勤務し、イェール大学大学院計算機科学科並びに人工知能研究所にフルブライト留学。その後、コンピュータ科学の世界最高峰として知られるカーネギーメロン大学大学院に転入。哲学科計算言語学研究所並びに計算機科学部に所属。計算言語学で博士を取得。徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長、通商産業省情報処理振興審議会専門委員などを歴任。

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