第50回
貴生第五十
2019.02.15更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
「もくじ」はこちら
貴生第五十
50 「道」に従い、生に執着しすぎず、柔らかく生きる
【現代語訳】
人は根源たる「道」から生まれて、死んでいく。その中で寿命の長い生の徒が十分の三いる。逆に寿命の短い死の徒が十分の三いる。また、生に執着して、みだりに動いて死地に行ってしまう者が十分の三いる。それはなぜなのか。生に執着しすぎているからなのである。
聞くところによると、生命の養い方のうまい者は、陸地を歩いていてもサイや虎などの野獣に出会うことはなく、軍隊に入って敵と戦っても、武器で殺傷されることはない。サイも角で突けないし、虎も爪でひっかけられない。武器も刃を突き立てられない。それはいったいなぜなのか。生に執着しない死地にいないからである。
【読み下し文】
生(せい)に出(い)でて死(し)に入(い)る。生(せい)の徒(と)は十(じゅう)に三(さん)有(あ)り。死(し)の徒(と)も十(じゅう)に三(さん)有(あ)り。人(ひと)の生(せい)、動(うご)いて死地(しち)(※)に之(ゆ)くも、亦(ま)た十(じゅう)に三(さん)有(あ)り。夫(そ)れ何(なん)の故(ゆえ)ぞ。其(そ)の生(せい)を生(せい)とすることの厚(あつ)きを以(もっ)てなり。
蓋(けだし)聞(き)く、善(よ)く生(せい)を摂(せっ)する者(もの)は、陸(りく)を行(ゆ)きて兕虎(じこ)(※)に遭(あ)わず、軍(ぐん)に入(い)りて甲兵(こうへい)を被(こうむ)らず(※)。兕(じ)も其(そ)の角(つの)を投(とう)ずる所(ところ)無(な)く、虎(とら)も其(そ)の爪(つめ)を措(お)く所(ところ)無(な)く、兵(へい)も其(そ)の刃(やいば)を容(い)るる所(ところ)無(な)しと。夫(それ)何(なん)の故(ゆえ)ぞ。其(そ)の死地(しち)無(な)きを以(もっ)てなり。
- (※)死地……助かる見込みの少ない死に近いところ、窮地。生地に対するところで軍事用語。拙著『全文完全対照版 孫子コンプリート』九変篇参照。
- (※)兕虎……「兕」は水牛に似た一角獣。本書ではわかりやすくサイとした。「虎」はトラ。「兕虎」とは猛獣を指している。
- (※)軍に入りて甲兵を被らず……軍隊に入ったときも甲(よろい)や武器で身を固めないとする説もあるが、不自然なので本書では、敵と戦っても殺傷されることはないと解した。
【原文】
貴生第五十
出生入死。生之徒十有三、死之徒十有三。人之生、動之死地、亦十有三。夫何故、以其生生之厚。
蓋聞善攝生者、陸行不遇兕虎(※)、入軍不被甲兵。兕無所投其角、虎無所措其爪、兵無所容其刄。夫何故、以其無死地。
【単行本好評発売中!】
この本を購入する
感想を書く