第59回
守道第五十九
2019.02.28更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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守道第五十九
59 人や国を治めるには、慎ましく控えるに勝るものはない
【現代語訳】
人を治めて天に仕えるには、万事において慎ましく、控えることに勝ることはない。慎ましく控えていること、これを早服というのである。早くから「道」に従うことを、重ねて徳を積むというのだ。重ねて徳を積めば、勝てないものはない。勝てないものがなければ、その力は果てしない。その力が果てしなければ、国を保つことができる。国を治める根本(母)を保てば、いつまでも生きながらえることになる。根本を深く、固く張ることを、長生久視の道(いつまでも生きながらえる道)という。
【読み下し文】
人(ひと)を治(おさ)め天(てん)に事(つか)うるは、嗇(しょく)(※)に若(し)くは莫(な)し。夫(そ)れ唯(た)だ嗇(しょく)、是(こ)れを早服(そうふく)と謂(い)う(※)。早(はや)く服(ふく)する、これを重(かさ)ねて徳(とく)を積(つ)むと謂(い)う。重(かさ)ねて徳(と)くを積(つ)めば、則(すなわ)ち克(か)たざる無(な)し。克(か)たざる無(な)ければ、則(すなわ)ち其(そ)の極(きょ)くを知(し)る莫(な)し。其(そ)の極(きょく)を知(し)る莫(な)ければ、以(もっ)て国(くに)を有(たも)つべし。国(くに)の母(はは)を有(たも)てば(※)、以(もっ)て長久(ちょうきゅう)なるべし。是(こ)れを根(ね)を深(ふか)くして柢(てい)を固(かた)くし(※)、長生久視(ちょうせいきゅうし)(※)の道(みち)と謂(い)う。
- (※)嗇……慎ましくする。控える。節約する。ケチ。もともとは穀物を収穫し、収蔵することを意味した。そこから浪費を抑える、無駄をしない、慎ましくするの意味となった。なお、本章では、前章に続いて政治というのは人々に余計なことを細かく口出し、介入するものではないことを言っている。日本の江戸時代の享保の改革や寛政の改革などの節約を人々に強いるような介入策とは異なる。あくまでも為政者の心がけとしての節約である。もっとも老子自体も広く質素倹約の心がけをすすめているが(三寶第六十七など参照)。
- (※)早服と謂う……早く「道」に従うことをいう。なお、原文の「是謂早服」を「是以早服」とし、「是を以て早く服す」などと読む説もある。現代語訳は、「それだからこそ早くから『道』に従うのである」などとなる。本書の訳とそれほど大きく変わらないようだ。
- (※)国の母を有てば……我が国では江戸時代以来、「国を有つの母」と訓読されることが多い。原文を素直に読めば、「国の母を有てば」となるのではないか。「母」とは、国を治める根本のこと。
- (※)根を深くして柢を固くし……「根」も「柢」も木の根のこと。「根」は細い根のことで土中の養分を吸収する。「柢」は太い根のことで幹をしっかりと立たせる。こうして根を深くし、固く張ってと訳する。
- (※)長生久視……「視」は活の意味で生きること。すなわち「長生」も「久視」も、いつまでも生きながらえることをいう。
【原文】
守道第五十九
治人事天、莫若嗇。夫唯嗇、是謂早服。早服謂之重積德。重積德、則無不克。無不克、則莫知其極。莫知其極、可以有國。有國之母、可以長久。是謂深根固柢、長生久視之道。
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