第78回
任信第七十八
2019.03.28更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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任信第七十八
78 正言は反するがごとし
【現代語訳】
世のなかに、水よりも柔らかで弱々しいものはない。しかし、堅くて強いものを攻めるには、水より勝るものはない。水の性質を変えるものなどないからである。
弱々しいものがかえって強いものに勝ち、柔らかなものがかえって剛のものに勝つということは天下の誰もが知っているが、それを自分自身で実行するものはいない。
それゆえ「道」と一体となっている聖人は言う。「国の屈辱を自分の身に引き受ける人を、社稷(国)の主といい、国の災厄を自分の身に引き受ける人を天下の王という」と。本当に正しい言葉というのは、常識とは反対のように聞こえるものだ。
【読み下し文】
天下(てんか)に水(みず)より柔弱(じゅうじゃく)なるは莫(な)し。而(しか)も堅強(けんきょう)を攻(せ)むる者(もの)、これに能(よ)く勝(まさ)る莫(な)し。其(そ)の以(もっ)てこれを易(か)うる無(な)きを(※)以(もっ)てなり。
弱(じゃく)の強(きょう)に勝(か)ち、柔(じゅう)の剛(ごう)に勝(か)つは、天下(てんか)知(し)らざる莫(な)きも、能(よ)く行(おこな)う莫(な)し。
是(ここ)を以(もっ)て聖人(せいじん)は云(い)う、国(くに)の垢(あか)(※)を受(う)く、是(こ)れを社稷(しゃしょく)(※)の主(しゅ)と謂(い)い、国(くに)の不祥(ふしょう)(※)を受(う)く、是(こ)れを天下(てんか)の王(おう)と謂(い)う、と。正言(せいげん)は反(はん)するが若(ごと)し。
- (※)これを易(か)うる無きを……これを「これに易(か)わるもの無きを」と読み、「水に代わるものなどない」と解釈する説もある。
- (※)垢……あか、けがれ、よごれ。
- (※)社稷……「社」は土地の神、「稷」は五穀の神をいう。その祭祀が重要であったことから、国を意味するようになった。
- (※)不祥……災厄、不吉の意味。
【原文】
任信第七十八
天下莫柔弱於水、而攻堅強者莫之能勝、其無以易之。
弱之勝強、柔之勝剛、天下莫不知、莫能行。
是以聖人云、受國之垢、是謂社稷主、受國之不祥、是謂天下王。正言若反。
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