第45回
130〜132話
2020.03.02更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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130 自分が正しいと考える意見は持ち続ける
【現代語訳】
多くの人が違う意見だからといって、自分が正しいとする考えを変えてはいけない。だからといって、自分だけの意見に固執しすぎて、他人の意見を無視してはいけない。また、つまらない打算から大局を見誤ってはならない。さらに、世論(公論)の多さをうまく利用して、自分の腹いせをしてはならない。
【読み下し文】
群疑(ぐんぎ)に因(よ)りて独見(どくけん)(※)を阻(はば)むこと毋(な)かれ。己(おのれ)が意(い)に任(まか)せて人(にん)の言(げん)を廃(はい)すること毋(な)かれ。小恵(しょうけい)を私(わたくし)して大体(だいたい)(※)を傷(やぶ)ること毋(な)かれ。公論(こうろん)を借(か)りて(※)以(もっ)て私情(しじょう)を快(こころよ)くすること毋(な)かれ。
(※)独見……自分が正しいと信ずる意見。ただし、多くの正論のなかで私情による反対意見を言ってはならないことについては、本書の前集111条参照。
(※)大体……大局。
(※)借りて……利用して。
【原文】
毋因群疑而阻獨見。毋任己意而廢人言。毋私小惠而傷大體。毋借公論以快私情。
131 うかつに人をほめたり、悪口を言ったりしない
【現代語訳】
たとえ善人であっても、まだその人と親しくなっていないときに、うかつにほめてはいけない。なぜなら悪い人がいて、二人が仲良くなるのを面白くないと感じて、仲をさく告げ口がなされることもあるからである。また、悪人であっても、まだ簡単には関係を絶たないうちは、うかつに悪口はいってはならない。なぜなら悪人のほうから、ワナを仕掛けられて被害をもたらすことになるからである。
【読み下し文】
善人(ぜんにん)、未(いま)だ急(きゅう)に親(した)しむこと能(あた)わざれば、宜(よろ)しく預(あらかじ)め揚(あ)ぐ(※)べからず。恐(おそ)らくは讒譖(ざんしん)の奸(かん)(※)を来(きた)さん。悪人(あくにん)、未(いま)だ軽(かるがる)しく去(さ)ること能(あた)わざれば、宜(よろ)しく先(ま)ず発(はっ)すべからず。恐(おそ)らくは媒孽(ばいげつ)(※)の禍(わざわ)いを招(まね)かん。
(※)預め揚ぐ……前もってほめる。うかつにほめる。
(※)讒譖の奸……仲をさく告げ口をする悪人。ざんげんをする奸人。
(※)媒孽……ワナを仕掛けられる。陥れる罪をつくり出す。
【原文】
善人未能急親、不宜預揚。恐來讒譖之奸。惡人未能輕去、不宜先發。恐招媒孽之禍。
132 地道な日ごろの修業と仕事こそがすばらしい結果を生む
【現代語訳】
青空に輝くような堂々としたすばらしい節操や道義というものは、人目のつかない暗い部屋で地道に努力するところから生まれてくる。また、天地を動かし変えるような国の施策は、細心の注意と綿密な計画から生まれてくる。
【読み下し文】
青天白日(せいてんはくじつ)の節義(せつぎ)は、暗室屋漏(あんしつおくろう)(※)中(ちゅう)より培(つちか)い来(き)たる。旋乾転坤(せんけんてんこん)(※)の経綸(けいりん)(※)は、臨深履薄(りんしんりはく)(※)の処(ところ)より操(と)り出(いだ)す。
(※)屋漏……家のなかで最も奥深いところにある暗い部屋。人目につかないところにある密かに修養するところ。読書人、修養人でもあった西郷隆盛も「己(おの)れに克(か)つに、事々物々(じじぶつぶつ)時(とき)に臨(のぞ)みて克(か)つ様(よう)にては克(か)ち得(え)られぬなり。兼(かね)て気象(きしょう)を以(もっ)て克(か)ち居(お)れよとなり」(『西郷南洲翁遺訓』)と述べている。やはり、地道な日ごろの修行がないとだめなことを述べている。
(※)旋乾転坤……天地を動かす。天地を一新する。「乾」は天、「坤」は地で、「乾坤一擲(けんこんいってき)」とは、天地を動かすほどの大勝負。すべてを賭けた戦い。
(※)経綸……国家を治める、国の施策。
(※)臨深履薄……細心の注意と綿密な計画。細心綿密な工夫と為る行動。もとは『詩経』の表現(本書の前集109条参照)。
【原文】
靑天白日的節義、自暗室屋漏中培來。旋乾轉坤的經綸、自臨深履薄處操出。
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