第55回
160〜162話
2020.03.16更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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160 心が広く温かい人のもとでは、すべてが成長する
【現代語訳】
心が広く寛大な人は、すべてが良く育つ春風のようなもので、そういう人のもとでは万物がすくすくと成長する。これに対して、心が酷薄で残忍な人は、すべてを凍りつかせてしまう北地の雪のようなもので、そういう人のもとでは万物が死んでしまう(だから人も何も育つわけがない)。
【読み下し文】
念頭(ねんとう)の寛厚(かんこう)なる的(もの)は、春風(しゅんぷう)の煦育(くいく)(※)するが如(ごと)く、万物(ばんぶつ)之(これ)に遭(あ)いて生(しょう)ず。念頭(ねんとう)の忌刻(きこく)(※)なる的(もの)は、朔雪(さくせつ)(※)の陰凝(いんぎょう)(※)するが如(ごと)く、万物(ばんぶつ)之(これ)に遭(あ)いて死(し)す。
(※)煦育……あたため育つ。あたたかくてすくすく育つ。
(※)忌刻……残忍。本書の前集72条参照。
(※)朔雪……北地の雪。「朔」は北を意味する。
(※)陰凝……陰気で凝り固まる。凍りついてしまうこと。
【原文】
念頭寛厚的、如春風煦育、萬物遭之而生。念頭忌刻的、如朔雪隱凝、萬物遭之而死。
161 善をなしている者には、いずれ必ず良い結果がもたらされる
【現代語訳】
善いことをしていても、その成果は目に見えないように思える。しかし、これはちょうど草のなかに隠れて成長している瓜(うり)のようなもので、人には見えなくても必ず実を結んでいくのである。また、悪いことをしていても、その結果は見えないように思える。しかし、これはちょうど庭先に積もった春の雪が、いつの間にか消えていくようなもので、いずれ必ず身を滅ぼしていく。
【読み下し文】
善(ぜん)を為(な)して其(そ)の益(えき)を見(み)ざるも、草裡(そうり)の東瓜(とうか)(※)の如(ごと)く、自(おの)ずから応(まさ)に暗(あん)に長(ちょう)ずべし。悪(あく)を為(な)して其(そ)の損(そん)を見(み)ざるも、庭前(ていぜん)の春雪(しゅんせつ)(※)の如(ごと)く、当(まさ)に必(かなら)ず潜(ひそか)に消(き)ゆべし。
(※)東瓜……冬瓜のことであろうと思われる。冬瓜やかぼちゃは、草むらのなかでわからないようでも良く育つものである。なお、『老子』には、「天道(てんどう)は親(しん)無(な)し、常(つね)に善人(ぜんにん)に与(くみ)す」(任契第七十九)とある。善人は最後に勝つに決まっているということである。なお、本書の前集91条参照。
(※)春雪……春の雪。いわゆる根雪にならずに、そのうちに消える雪。
【原文】
爲善不見其益、如草裡東瓜、自應暗長。爲惡不見其損、如庭歬春雪、當必潛消。
162 こういう人になりたい三つのこと
【現代語訳】
昔からの友人とは、ますます気持ちを新たにして、親しく付き合うようにしたい。人目につかない隠しごとの処理は、ますます心がけを公明正大にしてやるべきだ。年老いた人と接するときは、ますます恩恵と礼儀を盛んにするべきである。
【読み下し文】
故旧(こきゅう)(※)の交(まじ)わりに遇(あ)いては、意気(いき)愈(いよいよ)(新(あらた)なるを要(よう)す。隠微(いんび)(※)の事(こと)に処(しょ)しては、心迹(しんせき)(※)宜(よろ)しく愈(いよいよ)顕(あき)らかなるべし。衰朽(すいきゅう)の人(ひと)(※)を待(ま)つには、恩礼(おんれい)当(まさ)に愈(いよいよ)隆(さか)んなるべし。
(※)故旧……昔からの友人。知り合い。幼なじみ。本書の前集110条を参照。
(※)隠微……人目につかない。隠しごと。なお、『中庸』の第一章では、「隠(かく)れたるより見(あらわ)るるは莫(な)く」とし、だからこそ「君子(くんし)は其(そ)の独(どく)を慎(つつし)む」と本項と同じ趣旨のことを述べている。
(※)心迹……やるときの心持ち。心がけ。
(※)衰朽の人……衰えた老後の人。くだり坂の人。なお、『論語』で、子路が孔子の志を聞いた面白い箇所がある。そこで孔子は言った。「老者(ろうしゃ)は之(これ)を安(やす)んじ、朋友(ほうゆう)は之(これ)を信(しん)じ、少者(しょうしゃ)は之(これ)を懐(なつ)けん」(公冶長第五)と。これは本項にも通じる。
【原文】
遇故舊之交、意氣要愈新。處隱微之事、心迹宜愈顯。待衰朽之人、恩禮當愈隆。
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