第62回
181〜183話
2020.03.26更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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181 心の主体性を確立しておく
【現代語訳】
忙しいときでも自分の心に余裕を持ちたいと思うなら、日ごろから暇のときに心の置きどころを尋ねておくべきである。騒がしいなかでも静かな心を持ちたいと思うなら、まず静かなところで心の主体性を確立しておくべきである。そうでないと、まわりの環境に振りまわされ、起こる事態になびくことになってしまう。
【読み下し文】
忙裡(ぼうり)に閒(かん)を偸(ぬす)まんと要(よう)せば、須(すべか)らく先(ま)ず閒時(かんじ)に向(む)かって、個(こ)の欛柄(はへい)(※)を討(たず)ぬべし。閙中(とうちゅう)(※)に静(せい)を取(と)らんことを要(よう)せば、須(すべか)らく先(ま)ず静処(せいしょ)より、個(こ)の主宰(しゅさい)を立(た)つ(※)べし。然(しか)らざれば、未(いま)だ境(きょう)に因(よ)りて遷(うつ)り、事(こと)に随(したが)って靡(なび)かざる者(もの)有(あ)らず。
(※)欛柄……心の置きどころ。刀のつか。
(※)閙中……騒がしいなか。
(※)主宰を立つ……心の主体性を確立する。本項の解釈については、本書の後集95条、128条も参照。
【原文】
恾裡要偸閒、須先向閒時、討個欛柄。閙中要取靜、須先從靜處、立個主宰。不然、未有不因境而迁、隨事而靡者。
182 自分だけ良ければいいという考えは間違っている
【現代語訳】
自分の心を物欲で曇らせない。人の情にすがりきらない。どんな物でも使い果たさない。この三つの心がけがあれば、天地の心にかない、人々の生活を安定させ、子孫のために福を残すことになる。
【読み下し文】
己(おのれ)の心(こころ)を昧(くら)まさず、人(ひと)の情(じょう)を尽(つ)くさず、物(もの)の力(ちから)を竭(つ)くさず(※)。三者(さんしゃ)、以(もっ)て天地(てんち)の為(ため)に心(こころ)を立(た)て、生民(せいみん)の為(ため)に命(めい)を立(た)て(※)、子孫(しそん)の為(ため)に福(ふく)を造(な)すべし。
(※)竭くさず……酷使しない。使い果たさない。前集13条参照。
(※)命を立て……生活を安定させること。
【原文】
不昧己心、不盡人情、不竭物力。三者、可以爲天地立心、爲生民立命、爲子孫造福。
183 役人は「公平」と「清廉(せいれん)」、家庭は「恕(じょ)」と「倹(けん)」でつくられる
【現代語訳】
役人であるときの(仕事をするときの)、心得が二つある。一つは、公平でありさえすれば、正しい業務ができる。もう一つは、清廉でありさえすれば、威厳が生まれる、というものである。家庭生活においても心得が二つある。一つは、思いやりさえあれば円満となる。もう一つは、倹約していれば、お金に不足することはない、というものである。
【読み下し文】
官(かん)に居(お)るに二語(にご)有(あ)り。曰(いわ)く、「惟(た)だ公(こう)なれば則(すなわ)ち明(めい)(※)を生(しょう)じ、惟(た)だ廉(れん)(※)なれば則(すなわ)ち威(い)(※)を生(しょう)ず」。家(いえ)に居(お)るに二語(にご)有(あ)り。曰(いわ)く「惟(た)だ恕(じょ)(※)なれば則(すなわ)ち情(じょう)平(たい)らに、惟(た)だ倹(けん)(※)なれば則(すなわ)ち用(よう)足(た)る」。
(※)明……正しい業務。明朗。
(※)廉……清廉。法の適用を誠実に行う。
(※)威……威厳。なお、「威厳」については、本書の前集167条参照。
(※)恕……思いやり。なお、「思いやり」の解釈は、本書の前集165条参照。「家庭生活」については、本書の前集21条、96条、133条参照。
(※)倹……倹約。この語句については、本書の前集37条、163条参照。
【原文】
居官有二語。曰、惟公則生明、惟廉則生威。居家有二語。曰、惟恕則情平、惟儉則用足。
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