第63回
184〜186話
2020.03.27更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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184 絶好調は続くものではなく、また誰もが歳を取ることをよく知っておく
【現代語訳】
財産と地位があるときには、いつそれがなくなるかわからないのだから、財産と地位がない者の苦労をよく知っておきたい。若くて元気の良いときには、将来必ず自分も歳老いていき、弱ってしまうことのつらさを思っておくべきである。
【読み下し文】
富貴(ふうき)の地(ち)に処(しょ)しては、貧賤(ひんせん)の痛癢(つうよう)(※)を知(し)らんことを要(よう)す。少壮(しょうそう)の時(とき)に当(あ)たりては、須(すべか)らく衰老(すいろう)(※)の辛酸(しんさん)を念(おも)うべし。
(※)痛癢……苦労、苦痛。「癢」はかゆみ。
(※)衰老……年を取って、弱ること。なお、「老い」については、本書の前集158条の注釈にある佐藤一斎の言葉参照。また、一斎は『言志四録』のなかで、知っておくだけではなく、先を見据えて備えておけば患いはなくなるとし、「予楽(よらく)」をすすめている。すなわち「予」も「楽」と同じ楽しむという意味があり、将来に備えることを楽しみながらやろうと『菜根譚』全体が言いたいののではないかと述べている(前集6条参照)。
【原文】
處富貴之地、要知貧賤的痛癢。當少壯之時、須念衰老的辛酸。
185 いろいろな人と付き合える度量が必要
【現代語訳】
世間をうまく渡り歩くには、あまりに潔癖すぎる態度はとるべきでない。一切の汚れやけがれをすべて腹に納める度量が必要である。人間関係においては、あまり好き嫌いをはっきりさせないようにすべきである。世のなかには善人、悪人、賢者、愚者といろいろいて、そのことをわかった上で、広く包み込む器量の大きさが必要である。
【読み下し文】
身(み)を持(じ)するは、太(はなは)だ皎潔(こうけつ)(※)なるべからず。一切(いっさい)の汚辱垢穢(おじょくこうあい)(※)も、茹納(じょのう)(※)し得(え)んことを要(よう)す。人(ひと)に与(くみ)する(※)は、太(はなは)だ分明(ぶんめい)なるべからず。一切(いっさい)の善悪(ぜんあく)賢愚(けんぐ)をも、包容(ほうよう)し得(え)んことを要(よう)す。
(※)皎潔……潔癖。けがれなく清い。なお、清濁併せ飲める度量を持つことについては、本書の前集76条参照。
(※)垢穢……よごれやけがれ。
(※)茹納……腹に納める。のみ込む。
(※)人に与する……人間関係を持つ。人と交際する。『論語』は、「君子(くんし)は周(しゅう)して比(ひ)せず」(為政第二)という。つまり、君子は広く交わるものでつき合い方が偏ることはない。これに反し、「小人(しょうじん)は比(ひ)して周(しゅう)せず」であり、一定の人と群れてしまい、広く人と交わらない、と本項に合う趣旨のことを述べている。本項の解釈については、本書の前集194条も参照。
【原文】
持身、不可太皎洯。一切汚辱垢穢、要茹納得。與人、不可太分明。一切善惡賢愚、要包容得。
186 つまらない小人とケンカするのはばかげている
【現代語訳】
つまらない小人とケンカするのはばかげている。そんなつまらない小人たちには、同じ小人という、ふさわしいケンカ相手がいる。立派な人格者の君子にこびへつらってはいけない。なぜなら君子はもとから、えこひいきなどしないからである。
【読み下し文】
小人(しょうじん)と仇讐(きゅうしゅう)(※)することを休(や)めよ。小人(しょうじん)は自(みずか)ら対頭(たいとう)(※) 有(あ)り。君子(くんし)に向(む)かって謟媚(てんび)(※)することを休(やす)めよ、君子(くんし)は原(もと)より私惠(しけい)(※) 無(な)し。
(※)仇讐……ケンカ。仇(あだ)、敵(かたき)。
(※)対頭……ふさわしい相手。相方。
(※)謟媚……こびへつらう。
(※)私恵……えこひいき。私的な恩恵。なお、『論語』にも、「君子(くんし)は事(つか)え易(やす)くして説(よろこ)ばし難(がた)きなり。之(これ)を説(よろこ)ばしむるに道(みち)を以(もっ)てせざれば、説(よろこ)ばざるなり」(子路第十三)とある。
【原文】
休與小人仇讐、小人自有對頭。休向君子謟媚、君子原無私惠。
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