第73回
214〜216話
2020.04.10更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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214 本当にわかるときの自分の姿
【現代語訳】
書を読み、著者の言っていることが本当にわかって自分のためになることが身につき始めると、喜びのあまり手が舞い、足が地を踏み、小躍りする。こうして、初めて文字の細かい解釈などにとらわれることなく理解もよく進む。物事を観察し、考えて本質がわかってくると、その対象と自分の心が見事に融合し、一体化するまでになっていく。こうして、初めて表面的なことにとらわれることなく真実が見えてくる。
【読み下し文】
善(よ)く書(しょ)を読(よ)む者(もの)は、手(て)の舞(ま)い足(あし)の蹈(ふ)む(※)処(ところ)に読(よ)み到(いた)らんことを要(よう)して、方(はじ)めて筌蹄(せんてい)(※)に落(お)ちず。善(よ)く物(もの)を観(み)る者(もの)は、心(こころ)融(と)け神(かみ)洽(やわら)ぐ(※)の時(とき)に観(み)到(いた)らんことを要(よう)して、方(はじ)めて迹象(せきしょう)(※)の泥(なず)まず。
(※)手の舞い足の蹈む……喜びのあまり手が舞い、足が地を踏み、小躍りする。なお、『孟子』に「足(あし)のこれを踏(ふ)み、手(て)のこれを舞(ま)うことを知(し)らず」(離婁上篇)とある。これは良い音楽に小躍りするのを述べているものである。
(※)筌蹄……文字の細かい解釈などにとらわれることなく。「筌」は魚を捕らえるために竹で編んだ道具。「蹄」はウサギを捕らえるワナ。
(※)心融け神洽ぐ……対象と自分の心が見事に癒合し一体化すること。
(※)迹象……物の表面的な様子。
【原文】
善讀書者、要讀到手舞足蹈處、方不落筌蹄。善觀物者、要觀到心融神洽時、方不泥迹象。
215 才能と財産は世のなかに役立たせるためにある
【現代語訳】
天が選んで一人に才能をいっぱい与えたのは、その人が他の人を教え導き、世のなかに役立つことをするためである。ところが、その才能を自分のためだけに使い、かえって人の短所を暴き、馬鹿にする。天が選んで一人に富を与えたのは、他の人の苦しみを救うためである。ところが、その富を独(ひと)り占めにし、そしておごって、貧しい者を苦しめている。こういう人たちは、天の罰を受けるべき大罪人である。
【読み下し文】
天(てん)は一人(いちにん)を賢(けん)にして、以(もっ)て衆人(しゅうじん)の愚(ぐ)を誨(おし)う。而(しか)して世(よ)は反(かえ)って長(ちょう)ずる所(ところ)を逞(たくま)しくして、以(もっ)て人(ひと)の短(たん)を形(あらわ)す。天(てん)は一人(いちにん)を富(と)まして、以(もっ)て衆人(しゅうじん)の困(くる)しみを済(すく)う。而(しか)して世(よ)は反(かえ)って有(ゆう)する所(ところ)を挟(さしはさ)んで(※)、以(もっ)て人(ひと)の貧(ひん)を凌(しの)ぐ(※)。真(まこと)に天(てん)の戮民(りくみん)(※)なるかな。
(※)挟んで……おごって。なお、『孟子』には「長(ちょう)を挟)さしはさ)まず、貴(き)を挟(さしはさ)まず、兄弟(けいてい)を挟(さしはさ)まず、而(しか)して友(ゆう)たり」(万章章句下)とある。意味は「自分が年長であることを得意にしてはならないし、自分の身分の高いことをおごって自慢してはならないし、兄弟がいいといばってはならない。しかし友である」とし、続いて有名な「友(とも)とする者(もの)は其(そ)の徳(とく)を友(とも)とするなり」と続く。
(※)貧を凌ぐ……貧しい者を苦しめる。
(※)天の戮民……天の犯罪人。天に殺されるべき罪人。
【原文】
天賢一人、以誨衆人之愚。而世反逞所長、以形人之短。天富一人、以濟衆人之困。而世反挾所有、以凌人之貧。眞天之戮民哉。
216 中途半端に知識と知恵を身に付けている人には注意したい
【現代語訳】
悟った人は、何のわだかまりも偏見もない。一方、愚かな人は、初めから知識、知恵は何も考えるところはない。だからこういう悟った人たちとは、一緒に学問もできるし、仕事もできる。ところが愚かで中途半端に知識と知恵を身につけている人は、素直さがなくなり、一通りのものから憶測を働かせ、疑い深くもなることが多い。こういう人たちと一緒に物事をやるのは難しい。
【読み下し文】
至人(しじん)(※)は何(なに)をか思(おも)い何(なに)をか慮(おもんば)からん。愚人(ぐじん)は不識(ふしき)不知(ふち)なり。与(とも)に学(がく)を論(ろん)ずべく、亦(ま)た与(ともに)功(こう)を建(た)つべし。唯(た)だ中才(ちゅうさい)の人(ひと)(※)のみ、一番(いちばん)の(※) 思慮(しりょ)知識(ちしき)多(おお)ければ、便(すなわ)ち一番(いちばん)の億度(おくたく)(※)猜疑(さいぎ)多(おお)し。事事(じじ)与(とも)に手(て)を下(くだ)し難(がた)し。
(※)至人……悟った人。
(※)中才の人……中途半端に知識と知恵を身に付けている人。なお、『論語』では「中行」の人を理想的な人物と見る(中庸の人と同じ)。そういう人は得難いから「狂狷(きょうけん)」の人を得て、ともに歩きたいという。「狂狷」とはまだ行いは伴わないが志の高い人であり、「狷者(けんしゃ)」とはまだ知識が足りないが節操の高い人である。このように「中行」と「中才」ではまったく意味が違う。
(※)一番の……一通りの。
(※)億度……憶測を働かせる。推し量る。
【原文】
至人何思何慮。愚人不識不知。可與論學、亦可與建功。唯中才的人、多一番思慮知識、便多一番億度猜疑。事事難與下手。
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