第2回
身体は動かなくても、行動しつづけることはできる
2018.06.06更新
【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
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好きだったものが奪われていく……
自分自身がALS患者という立場になって感じたのは、「これまで当たり前にできていたことができなくなっていくのは、自分らしさを失っていくような不安や寂しさ、歯がゆさをともなう」ということでした。
たとえば、僕は自転車愛好者で風を切って街中を疾走するのが大好きでしたが、愛用のバイクに乗れなくなりました。
自分の部屋にDJブースを設けてしまうくらい、好きな音楽にひたった生活をしていたのに、手でDJプレイができなくなりました。
お気に入りのシャツのボタンが留められない、大好きなデニムがはけない、好きな服もどんどん着られなくなっていきます。
自分から好きなものが次々と奪われていく、それは「僕らしさ」が次々と失われていってしまうような感覚でした。
そんな中で考えたのは、「どうしたら、この状況のなかでも自分らしさを損ねずに笑顔になれるのだろうか」ということでした。
ふと、これはALSという病気に限らず、さまざまな病気や障害によって「普通の生活」ができなくなった人すべてに通じることなのかもしれない、と思いました。みんな僕と同じように日常から好きなものが奪われていき、そのことに寂しさや不安やストレスを抱えているけれど、患者側の立場からはなかなかそういうことを発信できないまま、悶々としているのではないだろうか。
僕自身、自分がこういう状況になったことで、障害を抱える人の生きづらさを初めて実感として味わいました。難病患者になったからこそ、今の僕の立場だからこそ、言えることやわかることがあります。そういう視点で、ALSをはじめ、いろいろな病気や障害をもつ方たちが、どうしたらもっと生きやすくしていくことができるのか、「QOL(Quality of Life ―生活の質)」の向上のために、この状況を変えていく活動ができるのではないか、そう考えるようになったのです。
神様という存在がいるのであれば、「おまえ、この分野にイノベーションの風を起こせよ!」と僕に使命を与えたんじゃないか、僕が20代の若さでこの病気を発症したのは、ひょっとしたらそのためなのかもしれない、そんな気すらしてきました。
僕は、ALSという病気を憎んだり、こんな境遇になった自分の人生に希望を失ってしまったりするのではなく、「ALSと共に生きる」ことにしたのです。
さまざまな制約はあるけれど、僕が僕らしくいるために、そしてハンディキャップを抱える人がその人らしく生きられるようにするために、新たなアイディアを考え、制約というカベを超える挑戦をしていこう―。そういう思いで「WITH ALS」という団体を立ち上げたのです。
© WITH ALS
身体は動かなくても、行動しつづけることはできる
僕自身の身体的制約は、日々増しています。
声を出すことも、かなり苦しくなってきました。呼吸障害も少しずつ起き、気管切開手術をして人工呼吸器を装着するかどうかという選択を迫られる段階になりました。
気管切開とは、肺に空気を送ったり、痰を吸引したりするための穴をのどぼとけの下に開けることです。気管切開して人工呼吸器を装着することで呼吸が維持できると、差し当たって命の危険を遠ざけることができます。ただその場合、自分の声で話すことが難しくなります。人とコミュニケーションをとる方法が減っていく中で、声を失うのは大きな不安材料です。
しかし、僕はそれを受ける決断をしました。
できなくなってしまったことは山ほどありますが、それを嘆くのではなく、残されている機能をどれだけ最大化させていけるか、そこを大切にしたいと僕は思っています。
今、手は指先だけがやっと動かせる状態ですが、電動車いすのスティックをいじったり、スマホを操作したりすることができるので、毎日、電動車いすであちこちに出かけ、人と会い、忙しく働きつづけています。
滑舌がどんどん悪くなっていますが、ラジオパーソナリティもやっていますし、手が動かなくても、イベントやフェスでDJ、VJをやってライブ活動をしています。
それが可能なのは、僕が多くの「サポーター」に助けてもらっているからです。家族、仲間、介護や医療関係のスタッフといった周囲の人たちのおかげはもちろんですが、僕のサポーターは「人」だけではありません。さまざまな「テクノロジー」の進化もまた、僕を強力に支えてくれています。
人と人とのコミュニケーション、先進のテクノロジー、このふたつの力を駆使して、障害を抱えた人も、そうでない人も、もっと生きやすくしていく。これが僕の描いているボーダーレスな社会の未来像です。
僕は、ALSという難病が治せるようになる日を、一日でも早く迎えたいと心から願っています。その日はけっして遠くないはずだとも信じています。その日を迎えるために、今自分にできることを、日々全力でやっています。
「ALSを治せる未来」が必ず来る、必ず創れると信じている僕の頭の中を、この本で覗いてみてください。
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