第4回
どうしたら今の僕にも音楽表現ができるか? ヒントになったメガネのこと
2018.06.12更新
【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
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どうしたら今の僕にも音楽表現ができるか? ヒントになったメガネのこと
僕は音楽が大好きです。高校時代には、仲間とバンドを組んで自主ライブをやっていました。大学時代には、立ち上げた学生団体で音楽イベントを企画・運営したりしていました。
社会人になってからもずっと音楽と関わっていきたいという思いで、DJ活動をやるようになっていたところに、ALSを発症しました。
手足の自由が徐々に奪われていって、昨日までできていたことが今日はできなくなるという怖さと日々闘うなかで、「どうしたら、これからも音楽と関わりつづけられるだろうか」と僕は考えました。
ALSは、まだ原因もよくわかっていないため、判明していないことがいろいろありますが、病気が進行しても眼の動きは比較的最後まで残るといわれています。そのため、視線入力装置を用いて意思伝達を日常的に行っている方たちが多くいます。
僕自身ALSになってから、たくさんの患者さんにお会いしてきました。
50代以上の方が圧倒的に多いのですが、60代、70代の方でも、みなさん視線入力装置を巧みに使ってコミュニケーションをとっています。手も動かない、言葉も発せない、それでも眼で言いたいことを伝え、メールなどもバンバンやりとりしているのです。
その姿を初めて見たときは、「わあ、なんてハイテクな方たちなんだろう!」と驚きました。同時に、僕自身もそこに大きな希望を見出すことができたのです。
僕は、視線入力についていろいろ調べるようになりました。
そんななかで知ったのが、メガネメーカーのJINS(株式会社ジェイアイエヌ)さんが発表した「JINS-MEME(ジンズ・ミーム)」というメガネ型のウェアラブルデバイスです。
眼の動きを検知する「眼電位センサー」と、カラダの動きをとらえるセンサーを搭載したメガネ型ウェアラブルデバイスで、眼の動きで自分の健康状態をチェックすることができるというものです。
© 阪本勇
可能性を感じて関心をもった僕は、すぐにフラッグシップストアに出向いてそのメガネの着用体験をさせてもらいました。
第一印象は、とにかく軽くて、いい意味で「普通のメガネみたいだ」ということでした。視線を計測できる「アイトラッキング装置」を搭載したデバイスも最近はけっこういろいろ出てきていますが、ごついメカという感じのものがほとんどです。しかし、ジェイアイエヌさんの作ったデバイスは、ぱっと見には完全に普通のメガネと変わりありません。その「いかにも障害者向け」なテイストがないところがすごくいい、と僕は感じました。
この「JINS MEME」を活用して、眼の動きを使って電子機器をコントロールするようなものができないだろうか―。僕はジェイアイエヌさんに提案しました。
そして、僕らWITH ALSとのコラボレーションが始まったのです。
視線で電子機器を操作するしくみ
眼の動きで電子機器の操作をするとはどういうことなのか。
簡単に言うと、人間が眼を動かすときには、微弱な電気が発生します。それを感知するのが「眼電位センサー」です。センサーが、瞬きをしたり、視線を動かしたりするときの電気信号をキャッチして、電子機器に操作指令を出すわけです。
そのしくみを利用して、「JINS MEME」で 電子機器の操作が手軽にできれば、僕は手が動かなくてもDJとかVJができる。理論的にはそういうことになります。そういうことがしたいんだと最初にジェイアイエヌさんにお話ししたとき、「理論的にはわかるのですが、そんなことができるんですか?」と驚かれました。そういった使い道は思いもかけていなかったというのです。
僕らWITH ALSのメンバーには、技術的な専門家はいません。ただ、「こんなものがあったらいいよね」とか「こんなふうにしたらできないかな?」というアイディアはたくさん湧いてきます。それを実現化させ得るテクノロジーをもつ専門家と僕らがタッグを組むことで、まだ世の中にはないものがきっとできる、僕はそう思っていました。
眼の動きだけで電子機器操作をするなんて、ものすごく難しいことのような気がします。でも、ゲーム機のジョイスティックと決定ボタンをイメージしてみてください。決定ボタンを押すことを瞬きで、ジョイスティックを上下、左右、斜め4方向に動かすのを視線移動でやれれば、眼で電子機器を操作することってできますよね。
何かものすごいものを「発明」しなくても、すでに世の中にあるものを工夫して、活用、改良していくことで、できはしないだろうか。専門的なことを知らないからこそ、僕らは自由に発想することができます。
僕自身が実験台となって、眼の動きで電子機器を操作をするアプリケーション、DJとVJができるシステムを作るチャレンジを始めました。
一般的には、DJを行う人とVJを行う人はそれぞれ別です。眼の動きでDJをやるということ自体が突拍子もないことなのに、「眼だけでDJもVJもやりたいんだ」というのは、かなり無謀なアイディアであることは僕だってわかっていました。
でも、手の動かなくなった僕がひとりで両方できたら、ALSによって身体に障害が出る前よりも、僕は進化することになります。言い換えれば、制約を自分の武器にしてしまえる、障害をアドバンテージにできる、ということなんです。
無茶は承知でしたが、こんなワクワクするチャレンジを思いついてしまったら、もう挑まずにはいられません。「クレイジーにやろうぜ!」なのです。
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