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マンガでわかる歌舞伎 あらすじ、登場人物のキャラがひと目で理解できる 監修:漆澤その子

第1回

【歌舞伎を見る前に】1.演目の種類を知ろう

2017.09.24更新

読了時間

歌舞伎を見る前に知っておきたい基礎知識として演目の種類や独特な演出の仕方から、上演頻度の高い人気演目のあらすじと鑑賞ポイントを、マンガでじっくりと解説します。
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内容で分類

歌舞伎のジャンルは、時代物、世話物、舞踊の三つに大きく分けられるにゃん
へぇー。で、時代物は? 時代物は江戸時代より古い時代を描いた話。それに対する世話物は江戸時代の町人や庶民の世界を描いた話だにゃん 舞踏の説明とか、詳しくは下でね。

1.時代物

江戸時代以前、厳密には織田信長より前の時代の公家や武家社会を描いたもの。格式のある歌舞伎の様式を堪能できるのが魅力でもある。

主な演目:『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』『仮名手本忠臣蔵(かなてほんちゅうしんぐら)』『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』など。

・江戸の出来事なのに時代物?

江戸時代の人から見た、同時代の武家社会に起こった事件をそのまま劇化することは、幕府に禁じられていた。そこで、古い時代に置き換えて作品が作られた。例えば、赤穂浪士の討ち入り事件を題材にした『仮名名手本忠臣蔵』は足利時代、仙台藩のお家騒動を題材にした『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』は鎌倉時代に置き換え、法の目をくぐって上演された。

2.世話物

江戸の町人や庶民の世界を描いたもの。江戸時代の現代劇なので、ストーリーやセリフが分かりやすい。
侠客(きょうかく)や遊女(ゆうじょ)など当時の風俗が分かるのも面白さの一つ。元禄期に活躍した近松門左衛門以降、心中事件のような世間を騒がせた実際の事件を劇化することも増えていく。

主な演目:『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)』『四谷怪談』『白浪五人男(しらなみごにんおとこ)』など。

3.舞踊

踊りを主体にしたもので、歌舞伎舞踊は、舞踊の要素を独立させて発展してきた。演劇と踊りを様式した美しさが魅力。

主な演目:『鏡獅子(かがみじし)』『鷺娘(さぎむすめ)』『藤娘(ふじむすめ)』『紅葉狩(もみじがり)』『娘道成寺(むすめどうじょうじ)』など。

作られた経緯で分類

人形浄瑠璃(※1)義太夫節(※1)の演奏で演じられるんだけと、人形浄瑠璃作品を歌舞伎にするとき、内容だけでなく義太夫節も取り入れたにゃん
義太夫節を作ったのは元禄期に活躍した竹本義太夫という人で、その人と近松門左衛門が組んで次々とヒットを出したにゃん
人形浄瑠璃って人形だよね。それを人間が演じる歌舞伎に移せるのかにゃ? ほぉ、いいところに気がついた 人形浄瑠璃の人形は動きだけで、セリフも状況描写も義太夫節で語られる
だけど歌舞伎では、登場人物の心情とか状況描写は義太夫節が語るけど、たいていのセリフは役者がしゃべるようにしたにゃんよ 義太夫節の演奏と役者の演技がからみ合う演出が、義太夫狂言のおもしろさでもあるにゃん
義太夫狂言に対して、歌舞伎オリジナル作品は「純歌舞伎」と言うこともあるにゃん 例えば、義太夫節には時代物があれば世話物もある。歌舞伎オリジナルの純歌舞伎にも時代物があれば世話物もある、ということかにゃ?

1.義太夫狂言(ぎだゆうきょうげん)

人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)の作品を歌舞伎化したもので丸本物(まるほんもの)とも言う。

主な演目:『仮名手本忠臣蔵(かなてほんちゅうしんぐら)』『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』など。

・人形浄瑠璃 ※1

太夫(語り手)・三味線・人形遣つかいで成り立っている伝統芸能の一つ。竹本義太夫(たけもとぎだゆう)による義太夫節(ぎだゆうぶし)と近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)の作品のコラボレーションで、人形浄瑠璃は大人気に。近松門左衛門死後の18世紀半ば、全盛期を迎えた。その後衰退し、明治時代、大阪の文楽座(ぶんらくざ)が唯一の人形浄瑠璃の劇場となり、「文楽」が人形浄瑠璃の代名詞のようになった。

・義太夫節※2

浄瑠璃(三味線を伴奏楽器として太夫が語る音曲)の一種で、人形芝居と結びついた劇音楽ともなっている。竹本義太夫の名を取り「義太夫節」と呼ばれる。

・義太夫節を演奏する「竹本(たけもと)」

歌舞伎では義太夫節を演奏する人を「竹本」と呼ぶ。義太夫狂言では、登場人物のセリフは俳優自身が語るが、状況説明などは竹本が担当。

2.純歌舞

歌舞伎のために作られた作品。古くは歌舞伎十八番のような作品から、幕末の河竹黙阿弥による白浪物(盗賊を主人公にした作品)と呼ばれる作品群まで多様にある。

主な演目:『助六(すけろく)』『暫(しばらく)』『四谷怪談』『桜姫』『切られ与三(よさ) 』『白浪五人男』など。

ジャンルでは時代物と世話物が代表的だけど、さらに作品の特徴などで分けた「~物」と呼ばれるジャンルが他にもあるにゃん

  • 王朝物(おうちょうもの) 時代物の中でも平安時代までの歴史物語を題材にした作品は、「王朝物(おうちょうもの)」または「王代物(おうだいもの)」と呼ばれる場合がある。主な演目:『吉野川(よしのがわ)』『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』
  • 曾我物(そがもの) 鎌倉時代に曾我兄弟が父の敵・工藤祐経(くどうすけつね)を討った仇討ち事件を題材にした作品。江戸時代の江戸では、正月に曾我物を上演するのが慣わしだった。主な演目:『対面(たいめん)』『矢の根(やのね)』『外郎売(ういろううり)』『助六(すけろく)』
  • 松羽目物(まつばめもの) 松羽目は、能舞台をまねて舞台の正面に老松(おいまつ)を描いた舞台装置のこと。能や狂言をもとにした舞踊に使われる舞踊のことを松羽目物と呼ぶ。主な演目:『勧進帳(かんじんちょう)『船弁慶(ふなべんけい)』『土蜘(つちぐも)』『身替座禅(みがわりざぜん)』
  • 心中物(しんじゅうもの) 心中や情死を題材にしたジャンル。近松門左衛門の作品で知られる。主な演目:『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)』『心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)』(近松門左衛門)
  • 生世話物(きぜわもの) 世話物の中でも特に、写実的な演技や演出が特徴で、当時の庶民の生活がリアルに描写されている。鶴屋南北(つるやなんぼく)や河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)が作りあげた。主な演目:『四谷怪談』『桜姫』(鶴屋南北)、『三人吉三(さんにんきちさ)』『切られ与三(きられよさ)』(河竹黙阿弥)
  • 白浪物(しらなみもの) 盗賊のことを白浪と言うことから、盗賊を主人公とした作品を白浪物と呼ぶ。幕末期に流行し、河竹黙阿弥の作品で知られる。主な演目:『白浪五人男(しらなみごにんおとこ)』『三人吉三(河竹黙阿弥)』
  • 「新歌舞伎」と呼ばれるジャンル 明治26年に河竹黙阿弥が亡くなると、歌舞伎専門の有力な作者が現れなかったため、小説家などが作品を手掛けるようになった。 主な演目:『修禅寺物語(しゅぜんじものがたり)』(岡本綺堂(おかもときどう))、『桐一葉(きりひとは)』(坪内逍遙(つぼうちしょうよう)、『一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)』(長谷川伸(はせがわしん))、『番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき)』『元禄忠臣蔵(げんろくちゅうしんぐら)』(真山青果(まやませいか))

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著者

漆澤その子

1970年東京都生まれ。1993年筑波大学第一学群人文学類卒業。1999年筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。2001年博士(文学)。現在、武蔵大学人文学部教授。主な著書『歌舞伎の衣装鑑賞入門』(共著・東京美術)、『明治歌舞伎の成立と展開』(慶友社)など。

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