第1回
「アイスバケツ・チャレンジ」を覚えていますか?
2018.06.01更新
【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
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Introduction
「アイスバケツ・チャレンジ」を覚えていますか?
みなさん、こんにちは。武藤将胤(むとうまさたね)と申します。
1986年生まれ、現在31歳。僕は27歳のときに難病「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」を発症しました。
ALSと聞いて、あなたは何が頭に浮かびますか?
「車いすの天才科学者」、スティーヴン・ホーキング博士?
博士は、おそらく世界でもっとも有名なALS患者さんです。電動車いすに乗り、音声合成によるコミュニケーションで研究活動を続けられる博士の姿は、多くの人の脳裏に刻まれているでしょう。2018年3月に惜しくも亡くなられてしまいましたが、ALSという病気を広く世の中に知らしめた最大の功労者といえます。
アメリカでは、ALSはメジャーリーグの往年の名選手、ルー・ゲーリッグを引退にいたらせた病気として知られ、「ゲーリッグ病」などとも呼ばれています。
漫画『宇宙兄弟』を思い浮かべる方もいるかもしれません。あのストーリーの中にも、ALSで父を亡くした経験をもち、医師から転身した女性宇宙飛行士や、ALSを患う天文学者が登場します。
あるいは「アイスバケツ・チャレンジ」を思い出す方もいるのではないでしょうか。著名な政財界人やエンターテイナーたちも氷水をかぶって、大いに話題を呼んだあれです。2014年の夏、アメリカで始まったムーブメントは、FacebookなどのSNSやYouTubeを通じて、一気に世界中に広まりました。
アイスバケツ・チャレンジは、「まだ治療法の確立されていないALSの治療法の研究開発を支援しよう」という目的で始められたチャリティ・キャンペーンでした。SNSで拡散する、動画で誰もが見ることができる、という時代のツールとの相性がよかったこともあり、たいへん盛り上がりました。
アイスバケツ・チャレンジによってALSの知名度は一躍世界中に広まり、多額の支援金が寄せられました。そのおかげで、ALS治療薬の研究にも希望の光が見えてきたといわれています。しかし残念ながら、今もALSの画期的治療法の確立はされていないのが現状です。
© WITH ALS
ALSの宣告
世の中がアイスバケツ・チャレンジに湧いた2014年の夏、僕は「ALSの疑いがある」と言われて、不安の真っただ中にいました。普段の僕は世の中を変えていく活動には積極的に関わりたがるほうですが、あのときは自分自身が氷水をかぶる心境にはとてもなれませんでした。
その年の秋、2014年10月27日、僕はALSであると宣告を受けました。
「筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis 略称ALS)」は、身体を動かす運動神経が変性し、徐々に壊れてしまう疾患です。手足をはじめ身体中の筋肉が少しずつ動かなくなっていき、声を出すこと、食べ物を飲み込むことなども難しくなり、やがては呼吸機能も侵されてしまいます。
現在、世界で約35万人、日本では約1万人の患者さんがいるといわれています。しかし、いまだ原因もはっきりとわからず、有益な治療法も見つかっていません。一般的には50~70歳代に発症するケースが多く、僕のように20代の若さで発症するのは稀なのだそうです。
進行のスピードや症状の出方には、かなり個人差があります。ただ、いずれにしても進行が進むと呼吸障害を引き起こしてしまうので、命の危険が生じます。発症してからの平均余命が3年~5年という厳しいデータもあります。
ALSのさらに大きな問題点は、身体が動かせなくなり、声も出せなくなり、顔の表情筋を動かすことも、瞬きすらもままならなくなっていくことは、他者とコミュニケーションをとる方法が失われてしまう、という点です。病気によって衰えるのはいわゆる運動機能だけで、意識や感覚、知性など、いわば知能の働きは健常なときと変わらないのに、外界とまったくコンタクトできなくなって「閉じ込められ状態」になってしまうのです。
なぜそんな病気に、僕は選ばれてしまったのか。しかも20代の若さで。
秋の深まりと共に、アイスバケツ・チャレンジの話題は少しずつ人の口端にのぼらなくなっていきましたが、僕にとってALSは、これからずっと闘っていかなくてはならないもの、僕の生命を揺るがす脅威として、目の前に立ちはだかっていました。
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