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KEEP MOVING 限界を作らない生き方  武藤将胤

第11回

「好き」を突き詰めていくところに無駄なことはない

2018.07.05更新

読了時間

【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
「目次」はこちら

BORDERLESS WEAR「01」立ち上げ

「何を着るか」は、その人の生き方を左右するほど重要だと僕は考えています。
 障害者と健常者という垣根を取り払いたいという気持ちから、障害者用の衣服という観念にとらわれないものを作り出したいと強く意識するようになりました。そのため、ハンディキャップを背負った方にも、背負っていない方にも、男性にも、女性にも、すべての人に快適でカッコいいと喜んで着ていただける衣服を目指して、「01(ゼロワン)」というファッションブランドを立ち上げました。デザイン性と機能性を追求したボーダーレスウェアです。
 何もないところから、行動を起こすことで小さな何かを生み出していくことができる、つまり「0から1を生み出す」ことで世界を変えていく一歩が踏み出せる、そんな思いから「01」というブランドの名前を決めました。
 まず、スウェット素材のノーカラージャケット・パンツのセットアップを作りました。
 スウェット素材を選んだのは、伸縮性があり、柔らかな触感だからです。ひと口にスウェット素材といっても、生地の質はさまざまです。選択を間違えると、だらしなく見えてしまったり、寝間着のように見えてしまったりします。
 どんなシチュエーションで着てもカッコよく、きちんとした印象に見えるよう、目の細かい上質なスウェット素材を探しました。
 ボタンが留められなくなった僕自身の経験をもとに、上着の合わせはボタンでなくマグネットを採用しています。
 右腕にはICカードを入れられるポケットを付け、いちいちカードを出さなくても改札や自販機を利用しやすいように配慮しました。
 病気や障害があっても、仕事もしていれば、大事な席に出席しなければならないこともあります。僕はこのセットアップを着て結婚式なんかも出ていますが、フォーマルな場でもまったく違和感はなく、とても重宝しています。

学生時代にやっていたことが活きた

「洋服ブランドって、そんなに簡単に立ち上げられるもの? 何か仕掛けがあるんじゃないの?」と思われる方もいるかもしれませんね。
 仕掛けがあるといえばあります。これが可能になったのは、学生時代に僕が「将来はアパレル関係の仕事に携わりたい」と考えていたときに、いろいろなところで学んだことが活きたからです。
 いくら洋服が好きだからといって、それを職業にしてもうまくやっていけるかどうかはわかりませんよね。僕もそれはわかっていたので、大学に入ってから、実際に服飾関係で働く経験をしてみることにしました。
 まず、大学1年のときにやったのが、セレクトショップのユナイテッドアローズでのアルバイトです。販売の経験をしましたが、面白かったですね。
 当時は、洋服もネットで購入する人たちが増えていたタイミングでした。そのため大学2年のときからは、ファッションのショッピングサイトを運営するITベンチャー企業でインターンを経験してみたいと考えました。日本にいながら世界中の商品を購入できるソーシャルショッピングサイト「BUYMA(バイマ)」を運営する会社エニグモです。
 インターンの期間が終わるときに、
「これからメンズ部門を立ち上げるから、アルバイトとしてやらないか」
 と誘っていただき、メンズ部門立ち上げに携わらせてもらうことができました。
 その頃は、本当にアパレル業界に進む気満々だったのです。

 学生時代に培ったそういったアパレルに関する知識が、いろいろな面で役立ちました。
 僕にとって「ないんだったら、自分たちで0から作ろう」という発想は、唐突なものではありませんでした。
「今度、ボーダーレスウェアのブランドを立ち上げようと思うんだ」
「01」のコンセプトを固めてそれを学生時代の友だちに話したときに、みんなは、
「そうか。おまえ昔から自分の店持ちたいとか、自分のブランド作りたいとか言ってたもんな」
 という反応でした。
「マサ、またひとつ夢をかなえたね」
 と言ってくれたヤツもいました。
 この病気になったこと自体は、今もとても悔しいです。納得なんかできていません。
 しかし、この病気になったから、僕という人間が世に送り出すにふさわしい洋服のコンセプトがはっきりと定まったこともまた事実なのです。
 それは、「EYE VDJ」にしても、車いすの「カーシェアサービス」にしても、同じことです。
 ALSになり、「自分の持ち時間は有限なんだ」ということを強く感じるようになりました。それによって、自分が本当にやりたいこと、やるべきことは何なのかが、どんどん絞り込まれて見えてきた、僕は今、そんな実感をもっています。

「好き」を突き詰めていくところに無駄なことはない

 Chapter1で「Think different.」というCM映像の話をしましたが、僕にあれを教えてくれたのは、大学時代にインターン、アルバイトをしていたエニグモの人でした。
 洋服の販路としてウェブの世界を知りたいと思って入った僕ですが、ITベンチャーの熱気ある雰囲気に触れているうちに、ITの世界への興味や、人と人とをつなぐコミュニケーション手段としての広告の世界への興味が深まっていきました。
 洋服は好きだけれど、もっと幅広く、不特定多数の人たちとコミュニケーションをとり、つながっていけることのほうがより面白そうだ、と感じるようになったのです。
 それに気づけたのも、実際にアパレル関連の経験を積んだからこそです。

 好きなことに関しては「もっといろいろ知りたい」と積極的に動くことができます。だから、自分の好きなことをとことん突き詰めていくことって、すごく大事なことだと思います。そうやって夢中になって取り組んだこと、そこで得たものは、絶対に無駄になりません。自分の経験からもそう言いきれます。
 ショップで実際にお客さんと向き合い、販売をしてみたからこそ、「最近増えてきたネットショッピングの動向はどうなんだろう」という視点をもつことができた。そこから、ITが築くコミュニケーションのあり方に関心をもつようになった。いくつもの刺激的な出会いをすることで、僕自身、生きる姿勢がどんどん変わっていったのです。
 高校生の頃に思い描いていた未来とは違う方向に舵を切ったけれど、そしてALSという病気によって人生の大転換を余儀なくされたけれど、僕にとって好きで夢中になったことは、何ひとつ無駄になってはいません。
 だから伝えたいんです。何かをやる前に「できっこない」「こんなの無理に決まってる」なんてあきらめてはダメだ、って。
 好きという自分の気持ちを大切にして、どっぷりとそこに浸かってみるんです。そうやって夢中になってやったことは、絶対に自分の人生を豊かなものにしてくれます。
 あの時の一歩が、今こうして確かにつながっていると心から思えるのです。

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一般社団法人WITH ALS
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著者

武藤将胤

1986年ロサンゼルス生まれ、東京育ち。難病ALS患者。一般社団法人WITH ALS 代表理事、コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。また、(株)REBORN にて、広告コミュニケーション領域における、クリエイティブディレクターを兼務。過去、(株)博報堂で「メディア×クリエイティブ」を武器に、さまざまな大手クライアントのコミュニケーション・マーケティングのプラン立案に従事。2013年26歳のときにALS を発症し、2014年27歳のときにALSと宣告を受ける。現在は、世界中にALSの認知・理解を高めるため「WITH ALS」を立ち上げテクノロジー×コミュニケーションの力を駆使した啓発活動を行う。本書『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』が初の著書となる。

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