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KEEP MOVING 限界を作らない生き方  武藤将胤

第12回

2018年4月―朝の日課

2018.07.10更新

読了時間

【 この連載は… 】「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!

ALSと共に 1――診断、宣告、そして今

2018年4月―朝の日課

 朝、目が覚めていちばん最初にすること。
 昨夜まで動いていた部位が、まだ動くかを確認する。
 まぶたを開けたり閉じたりできるか。
 眼を動かして、四方八方を眺めまわせるか。
 指先は、スマホをいじれる程度に動くか。
 首は、テーブルの上のストローを差した飲み物に届く程度に動くか。
 そして、声は出るか。
「まだ動く、大丈夫だ」―その確認ができると、少しホッとする。
 今日を生き抜く勇気が出る。
 その次に、すでに動かなくなってしまった筋肉が意外にもまた動いたりはしないかと、ダメもとで動かしてみようとする。
 手に、脚に意識を集中させる。
 身体を起き上がらせようとしてみる。
「……今日もこれはダメか」
 この試みがうれしい結果をもたらしたことはまだない。

 妻か、毎朝代わるがわる来てくれるヘルパーさんかが抱え起こしてくれるまで、僕はじっとベッドに横たわったままだ。
 起こしてもらったら、身支度開始。
 まずは、夜寝るときに装着している「BiPAP(バイパップ)」という酸素吸入器を外す。自力で呼吸する力が弱まっているので、酸素吸入の補助器具を使うことで呼吸のサポートをしている。これを付ける時間も、日に日に、少しずつ延びている。酸素吸入器で補助しても自力呼吸が苦しくなるようだと、いよいよ気管切開して人工呼吸器を装着、ということになる。その日は刻々と近づいている。
 顔を拭いてもらい、歯を磨いてもらい、ヒゲをそってもらい、ヘアスタイルを整えてもらい、トイレに行かせてもらい、着替えさせてもらい、飲み物を飲ませてもらい……何から何までやってもらわなければならない。
 自分自身、こういう状況に慣れるまで、どれくらい時間がかかっただろう。
 最初の頃は、いちばん心を許せていちばん愛しい人、すなわち妻にしかこんな姿は見せられないと思っていた。でも、「妻にしか任せられない」と僕が望むことは、妻だけに介護を依存することになり、妻をものすごく疲弊させてしまうことになる。
 それは僕のわがままだ、と気づいた。
 今は、朝の身の回りの世話に関しては、全面的にヘルパーさんにお願いしている。
 ALSという難病と共に生きるには、プライバシーの尊重などと言っていられない。すべてを他人にさらして生きていかなければならない。

障害程度区分6、もっとも支援を必要とする重度障害者

 外で見せているいつもの「武藤将胤」の姿が整ったら、午前中にまず行くのは病院だ。だいたい月の半分以上は病院に通っている。
 ALSを治せる薬はまだない。
 だが、進行を抑制する作用があるといわれている薬がある。ラジカット(一般名・エダラボン)という薬で、その点滴をするために月に10日は病院に行く。10日間連続で点滴を受け続け2週間空ける、これを繰り返している。
 これを投与していても、「身体の動きがいい」といった実感が劇的にあるわけではないが、ALSの進行スピードが比較的に遅いのは効き目のひとつなのかもしれない。
 週に2回、リハビリテーションも行う。
 リハビリは、専門領域によって理学療法士、作業療法士、言語療法士と担当が分かれている。それぞれ30分程度、筋力や関節の動き、呼吸機能などの低下を予防し、今ある機能をできるだけ維持するためのリハビリを行う。
 手足の筋肉がずっと動かないままになっていると固まってしまうので、身体をほぐすようなストレッチをし、身体の可動域をなるべく狭めないようにする。ただ、ALSの場合、無理なトレーニングのようなことをやると、筋肉に負担がかかることは良くないと言われているので、過度の負荷をかけることはしない。
 また、週に1度は訪問のリハビリ療法士の方に自宅に来てもらっている。

 それを終えたら、仕事に行く。
 自宅と仕事場は近いので、愛用の電動車いす「WHILL(ウィル)」で移動する。
 少し前まではひとりで動いていたが、障害程度区分6と介護の必要度が高くなったため、重度訪問介護の支援が受けられるようになり、今はヘルパーの方に付き添ってもらって、日常的な介助サポートをしてもらうことができるようになった。もっともそれには、時間制限がある。
 僕は、たいてい夜遅くまで仕事をしている。だから、ヘルパーの方が帰った後は、仕事仲間が僕の世話もしてくれることになる。
 僕がとっとと引き上げたほうが、仲間も楽かもしれないと、いつも考えてしまう。しかし、今のうちに進めておきたい、声が出るうちにできるだけ話しておきたい、と思うことがいろいろあるものだから、つい連日遅くまでやってしまう。
 重度障害者の身だというのに、相変わらずワーカホリックぎみだ。仕事をすること、自分にやるべきことがあることが、僕の生きがいにもなっている。

『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』特設サイトはこちら

一般社団法人WITH ALS
ホームページ http://withals.com/
facebook https://www.facebook.com/project.withals/
Instagram https://www.instagram.com/withals_masa/

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著者

武藤将胤

1986年ロサンゼルス生まれ、東京育ち。難病ALS患者。一般社団法人WITH ALS 代表理事、コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。また、(株)REBORN にて、広告コミュニケーション領域における、クリエイティブディレクターを兼務。過去、(株)博報堂で「メディア×クリエイティブ」を武器に、さまざまな大手クライアントのコミュニケーション・マーケティングのプラン立案に従事。2013年26歳のときにALS を発症し、2014年27歳のときにALSと宣告を受ける。現在は、世界中にALSの認知・理解を高めるため「WITH ALS」を立ち上げテクノロジー×コミュニケーションの力を駆使した啓発活動を行う。本書『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』が初の著書となる。

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