第75回
211話~212話
2016.11.09更新
211 いろいろなことに手を出す必要はない。やるべきことをしっかりやること
【現代語訳】
大宰(たいさい)(※)という地位にある官の人が、弟子の一人子(し)貢(こう)に言った。「孔子先生はまさに聖人ですね。だから多能で何でもできるのでしょう」。
子貢は言った。「確かに天は先生をどんどん伸ばし、聖人の域までに至らせようとしています。そのうえでさらに先生は多能であられる」。
先生は後にこの話を聞いて言われた。「その大宰は、私のことを知っているのだろうか。私は若いころ貧しく、下積みで苦労した。だから何でもやらされて多能になったのだ。君子は、多能ではなくてはならないのか。そうではないだろう」。
また、後に弟子の牢(ろう)(子(し)張(ちょう))は言った。「先生がこう言われたことがある。『私は若いころ社会で認められず、用いられることもなかった。だから何でもできるようになった』と」。
(※)大宰……官名。大官だったとされている。
【読み下し文】
大宰(たいさい)、子(し)貢(こう)に問(と)うて曰(いわ)く、夫子(ふうし)は聖者(せいじゃ)なるか。何(なん)ぞ其(そ)れ多能(たのう)なるや、と。子(し)貢(こう)曰(いわ)く、固(もと)より天(てん)、これを縦(ゆる)して聖(せい)を将(おこな)わしめ、又(また)能(のう)多(おお)からしむるなり。子(し)、これを聞(き)きて曰(いわ)く、大宰(たいさい)は我(われ)を知(し)るか。吾(わ)れ少(わか)くして賤(いや)し。故(ゆえ)に鄙事(ひじ)(※)に多能(たのう)なり。君子(くんし)は多(おお)からんや。多(おお)からざるなり。牢(ろう)(※)曰(いわ)く、子(し)云(い)えることあり、吾(わ)れ試(もち)いられず、故(ゆえ)に藝(げい)あり、と。
(※)鄙事……つまらないこと。何でも。
(※)牢……姓は琴。名は牢。字は子開または子張。孔子の門人。
【原文】
大宰問於子貢曰、夫子聖者與、何其多能也、子貢曰、固天縦之將聖、又多能也、子聞之曰、大宰知我者乎、吾少也賤、故多能鄙事、君子多乎哉、不多也、
212 自分は物知りでないが、今知っていることを全力で伝えていく
【現代語訳】
孔子先生は言われた。「私のことを物知りだという人があるが、そんなことはない。知らないことがいっぱいだ。しかし、もし無知な人が誠実にものごとをたずねてきたとしたら、今の私にあるすべてのものを出しきって、全力で教えるだけだ」。
【読み下し文】
子(し)曰(いわ)く、吾(われ)に知(ち)あらんや。知(ち)なきなり。鄙夫(ひふ)(※)ありて我(われ)に問(と)うに、空空如(こうこうじょ)(※)たり。我(われ)は其(そ)の両端(りょうたん)を叩(たた)いてこれを竭(つく)す。
(※)鄙夫……つまらない人。無知な人。
(※)空空如……バカ正直。愚直。
【原文】
子曰、吾有知乎哉、無知也、有鄙夫、來問於我、空空如也、我叩其兩端而竭焉、
*211話は長文のため、今回は2話のみの掲載となります。
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