第3回
安民第三
2018.12.06更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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安民第三
3 政治は人々に干渉しないのがいい
【現代語訳】
人の賢愚は相対的なものであって一つに決めつけることはできない。それなのに為政者の都合で賢を決めつけてしまいがちだが、ある一方の面での賢を重視しなければ、人々は争わなくなる。同じく手に入れにくい財宝などの品も、それを貴(たっと)ばなければ、人々は盗みなどしなくなる。欲望を見せなくすれば、人々は心を乱すことはなくなる。
こうして「道」と一体となっている聖人が政治を行うときは、人々の心をつまらない考え、知識で満たされないように空(から)っぽにさせ、腹いっぱいに食べさせ、人々の志がつまらない欲にとらわれないように弱め、身体を健康で強くするのである。いつも人々がつまらない欲と知識をもたない状態にさせ、いわゆる知者たちが人々をたぶらかさないようにするのである。このように、無為の政治をしていれば、うまく治まっていくのだ。
【読み下し文】
賢(けん)を尚(たっと)ばざれば(※)、民(たみ)をして争(あらそ)わざらしむ。得難(えがた)きの貨(か)を貴(たっと)ばざれば、民(たみ)をして盗(ぬす)みを為(な)さざらしむ。欲(ほっ)すべきを見(しめ)さざれば、民(たみ)の心(こころ)をして乱(みだ)れざらしむ。
是(ここ)を以(もっ)て聖人(せいじん)の治(ち)は、其(そ)の心(こころ)を虚(むな)しくして其(そ)の腹(はら)を実(み)たし、其(そ)の志(こころざし)を弱(よわ)くして其(そ)の骨(ほね)を強(つよ)くす。常(つね)に民(たみ)をして無知無欲(むちむよく)ならしめ、夫(か)の知者(ちしゃ)をして敢(あ)えて為(な)さざらしむ。無為(むい)を為(な)せば、則(すなわ)ち治(おさ)まらざる無(な)し。
- (※)賢を尚ばざれば……賢を文字通り賢いとするのでなく、老子の考えは、賢愚というものは相対的であって決めつけると世の中は間違ってしまうと見ていると思われる。確かにペーパーテストでの上位者が世の中すべてを動かしたとしても、果たして正しい政治が行われるのか疑問である。老子の問題提起は鋭い。よって、本章を愚民政策の論と決めつける説には賛成できない。
【原文】
安民第三
不尙賢、使民不爭。不貴難得之貨、使民不爲盜。不見可欲、使民心不亂。
是以聖人治、虛其心、實其腹。弱其志、強其骨、常使民無知無欲、使夫知者不敢爲也。爲無爲、則無不治。
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