第36回
微明第三十六
2019.01.25更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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微明第三十六
36 先に与え続けておけば、いずれ得られる
【現代語訳】
もしそれを縮めたいのなら、必ずしばらく拡張させるのがいい。もしそれを弱くしたいのなら、必ずしばらくそれを強くさせておくのがいい。もしそれをだめにして廃させたいのなら、必ずそれをしばらく繁栄させるのがいい。もしそれを奪い取って自分のものにしたいのなら、必ずこちらからしばらく与えるのがいい。
これを微明(微妙に隠されている奥深い明智)という。柔弱なものは、剛強なものにかえって勝つことになるのだ。
魚は淵から離れてはいけない(危なくなる)。同じように、国を治め、守る利器(鋭い道具や英知)は、むやみに人に示してはいけない。
【読み下し文】
将(まさ)にこれを歙(ちぢ)(※)めんと欲(ほっ)すれば、必(かなら)ず固(しばら)くこれを張(は)れ。将(まさ)にこれを弱(よわ)めんと欲(ほっ)すれば、必(かなら)ず固(しばら)くこれを強(つよ)くせよ。将(まさ)にこれを廃(はい)せんと欲(ほっ)すれば、必(かなら)ず固(しばら)くこれを興(おこ)せ。将(まさ)にこれ奪(うば)わんと欲(ほっ)すれば、必(かなら)ず固(しばら)くこれを与(あた)えよ。
是(こ)れを微明(びめい)(※)と謂(い)う。柔弱(じゅうじゃく)は剛強(ごうきょう)に勝(か)つ。
魚(さかな)は淵(ふち)より脱(だっ)すべからず。国(くに)の利器(りき)(※)は以(もっ)て人(ひと)に示(しめ)すべからず。
- (※)歙……収縮、収れん。
- (※)微明……「明」は歸根第十六にあったように「常」(恒常不変の真理)を知ることである。それは奥深い明智であり、微妙に隠されている。
- (※)国の利器……これについてはいろいろ解釈できる。国家権力による賞罰から聖人の英知までいろいろの主張がある。現代では、自国の武力を他国に示しては(わからせては)いけないというものまである。老子の全体の趣旨からして、本文の訳のように聖人の英知に近いものであったと解される。
【原文】
微明第三十六
將欲歙之、必固張之。將欲弱之。必固強之。將欲廢之、必固興之。將欲奪之、必固與之。
是謂微明、柔弱勝剛強。
魚不可脫於淵、國之利器不可以示人。
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