第56回
玄德第五十六
2019.02.25更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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玄德第五十六
56 知ったかぶりする人は本当の知者ではない
【現代語訳】
本当の知者はあれこれと言わない。逆によく話す人は(知ったかぶりする人は)本当の知者ではない。本当の知者は目や耳などの穴をふさいで、余計な知識や欲望が入らないように門を閉ざして、すべての鋭をやわらかくし、すべてのもつれを解きほぐし、すべての光をやわらげ、すべての塵と一つになる。これを玄同という。
だからこうした玄同の人に対しては、親しむことはできず、かといって疎遠にすることもできない。利益を与えることもできなければ、損害を与えることもできない。貴んで位をつけることもできず、かといって賤しくすることもできない。それゆえ、天下の貴い存在となるのである。
【読み下し文】
知(し)る者(もの)は言(い)わず、言(い)う者(もの)は知(し)らず。其(そ)の兌(あな)を塞(ふさ)ぎて(※)、其(そ)の門(もん)を閉(と)ざし、其(そ)の鋭(えい)を挫(くじ)いて(※)、其(そ)の分(ふん)(※)を解(と)き、其(そ)の光(ひかり)(※)を和(やわ)らげて、其(そ)の塵(じん)に同(どう)ず。是(こ)れを玄同(げんどう)(※)と謂(い)う。
故(ゆえ)に得(え)て親(した)しむべからず、得(え)て疎(うと)んずべからず。得(え)て利(り)すべからず、得(え)て害(がい)すべからず。得(え)て貴(たっと)くすべからず。得(え)て賤(いや)しくすべからず。故(ゆえ)に天下(てんか)の貴(とうと)きものと為(な)る。
- (※)其の兌を塞ぎて……「其の兌」とは欲望を誘い出す感覚器官。歸元第五十二に同じ表現がある。
- (※)其の鋭を挫いて……無源第四に同じ文章がある。無源第四の「和光同塵」参照。
- (※)分……余計な知恵によって起こされる煩わしさ、もつれ。
- (※)光……ここでいう「光」は、英知や知恵の輝きを指す。
- (※)玄同……玄妙で不可思議な合一。
【原文】
玄德第五十六
知者不言、言者不知。塞其兌、閉其門、挫其銳、解其分、和其光、同其塵、是謂玄同。
故不可得而親、不可得而踈。不可得而利、不可得而害。不可得而貴、不可得而賤。故爲天下貴。
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