第58回
順化第五十八
2019.02.27更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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順化第五十八
58 政治がしっかりと細かなところまで行き届くと、人々はずる賢くなる
【現代語訳】
政治が大まかでぼんやりしたものであると、人々は純朴でのんびりとしている。政治がしっかりと細かなところまで行き届いていると、人々は余裕がなくなってずる賢くなる。
禍いは、福が寄りそっており(すぐ近くにあり)、福には禍いが隠れている(すぐ近くにある)。誰がこの極みを知ることができようか。そもそも正しいことなんて本当はわからないのだ。正と見えることはまた奇怪となり、善と見えることもまた怪しいものとなるのである。人がこのことに迷い始めてから、とても久しい。
それゆえ「道」と一体となっている聖人は、自分は方正であるとしても、人を裁いて自分に従わせようとはさせず、自分は廉潔であっても、人に廉潔さを求めて傷つけたりせず、自分はまっすぐであっても、それをどこまでも押し通さず、自分は英知の光を有していても、それを人目に引いて光り輝かすようなことはしないのである。
【読み下し文】
其(そ)の政(まつりごと)悶悶(もんもん)たれば(※)、其(そ)の民(たみ)は淳淳(じゅんじゅん)(※)たり。其(そ)の政(まつりごと)察察(さつさつ)たれば(※)、其(そ)の民(たみ)は欠欠(けつけつ)たり。
禍(わざわい)は福(ふく)の倚(よ)る所(ところ)、福(ふく)は禍(わざわい)の伏(ふ)す所(ところ)。孰(たれ)か其(そ)の極(きょく)(※)を知(し)らん。其(そ)れ正(せい)無(な)し。正(せい)は復(ま)た奇(き)と為(な)り、善(ぜん)は復(ま)た妖(よう)と為(な)る。人(ひと)の迷(まよ)えるや、其(そ)の日(ひ)固(もと)より久(ひさ)し。
是(ここ)を以(もっ)て聖人(せいじん)は、方(ほう)にして而(しか)も割(さ)かず、簾(れん)にして而(しか)も劌(そこな)(※)わず、直(ちょく)なるも而(しか)も肆(し)(※)ならず、光(ひかり)(※)あるも而(しか)も耀(かがや)かさず。
- (※)悶悶たれば……政治が大まかでぼおーっとしたり、ぼんやりと暗いものであればの意。淳風第五十七の「無事」や「無為」の政治と同じ趣旨。
- (※)淳淳……純朴でのんびりとしていること。
- (※)政察察たれば……政治がしっかりと細かなところまで行き届いていればの意。先の「政悶悶たれば」の反対。なお、「悶悶」と「察察」とは異俗第二十にも見える。
- (※)極……きわみ、果て。最後の行く先。
- (※)劌……傷つけること。
- (※)肆……どこまでも伸びること。押し通すこと。
- (※)光……英知や知恵の輝き。玄德第五十六参照。
【原文】
順化第五十八
其政悶悶、其民淳淳。其政察察、其民缺缺。
禍兮福之所倚、福兮禍之所伏。孰知其極。其無正、正復爲奇、善復爲妖。人之迷、其日固久。
是以聖人方而不割、廉而不劌、直而不肆、光而不耀。
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