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第103回

82〜84話

2020.05.28更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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82 無の境地に至るコツ


【現代語訳】
今の人は、一生懸命に無念の境地になることを目指しているが、なかなか難しいようだ。ただ、過去のことを思いわずらうことなく忘れ去り、未来のことをわざわざこちらから迎えて思い悩むことをしないで、ただ、現在、目の前に起こっていることを淡々と片づけていけば、自然に無の境地に入っていけるだろう。

【読み下し文】
今人(こんじん)専(もっぱ)ら念(ねん)無(な)きを求(もと)めて、而(しか)も念(ねん)終(つい)に無(な)かるべからず。只(た)だ是(こ)れ前念(ぜんねん)滞(とどこお)らず、後念(こうねん)迎(むか)えず、但(た)だ現在(げんざい)の随縁(ずいえん)(※)を将(もっ)て、打発(だはつ)(※)し得(え)去(さ)れば、自然(しぜん)に漸漸(ぜんぜん)に無(む)に入(い)らん。

(※)現在の隨縁……現在、目の前に起こっていること。
(※)打発……片づける。処置する。

【原文】
今人專求無念、而念終不可無。只是歬念不滯、後念不迎、但將現在的隨綠、打發得去、自然漸漸入無。

 

83 自然であることに真の良さがある


【現代語訳】
たまたま自分の心にぴたっとかなったところに真の良さ、すばらしさがある。何も人の手が加わっていないそのままの自然こそが、真のはたらきである。もし、そこにほんの少しでも人の介入があると、味わいも減っていく。白楽天は言った。「心は何もなさないところに快適さがあり、風は自然に吹くものが気持ち良い」。なんと味わいのある言葉であろう。

【読み下し文】
意(い)の偶会(ぐうかい)(※)する所(ところ)、便(すなわ)ち佳境(かきょう)を成(な)し、物(もの)は天然(てんねん)に出(い)でて、纔(わず)かに真機(しんき)(※)を見(み)る。若(も)し一分(いちぶ)の調停布置(ちょうていふち)(※)を加(くわ)うれば、趣味(しゅみ)は便(すなわ)ち減(げん)ぜん。白氏(はくし)(※)云(い)う、「意(い)は無事(むじ)(※)に随(したが)って適(かな)い、風(かぜ)は自然(しぜん)を逐(お)うて清(きよ)し」。味(あじ)わい有(あ)るかな、其(そ)の之(これ)を言(い)うや。

(※)偶会……たまたま自分の心にぴたっとかなうこと。
(※)真機……真の良さ、すばらしさ。
(※)調停布置……順序や位置などに人が介入すること。手が加わること。
(※)白氏……中唐の詩人、白居易を指す。字は楽天。
(※)無事……何もなさない。何も起きない。

【原文】
意所偶會、便成佳境、物出天然、纔見眞機。若加一分調停布置、趣味便減矣。白氏云、意隨無事適、風逐自然淸。有味哉、其言之也。

 

84 本性、本心が清く澄んでいれば身心は健康である


【現代語訳】
本性、本心が清く澄んでいれば、たとえ腹がすいたら飯を食べ、のどが渇けば水を飲むという質素で貧しい生活をしていても、身心は健康を保つことができる。心が暗く沈んで迷っていれば、いくら禅を論じ、偈(げ)のようなおまじないを唱えても、それはすべて精神や魂をもてあそぶだけのものになってしまうだろう。

【読み下し文】
性天(せいてん)澄徹(ちょうてつ)(※)せば、即(すなわ)ち饑(う)えて喰(くら)い渇(かつ)して飲(の)むも、身心(しんしん)を康済(こうさい)(※)するに非(あら)ざるは無(な)し。心地(しんち)沈迷(ちんめい)せば、縦(たと)い禅(ぜん)を談(だん)じ偈(げ)(※)を演(の)ぶるも、総(すべ)て是(こ)れ精魂(せいこん)を播弄(はろう)せん。

(※)澄徹……清く澄んでいる。
(※)康済……健康。安んじ助ける。「病は気から」と言われているが、本項の述べるように、本性や本心が清く澄んでいれば健康でありやすいようだ。貝原益軒の『養生訓(ようじょうくん)』も、「養生(ようじょう)の術(じゅつ)は先(ま)ず心気(しんき)を養(やしな)うべし」としている。と同時に、現代では食べ物にも気を使うべきだとも述べている。また、洪自誠とほぼ同時代人である徳川家康も「惣(そう)じて、人(ひと)は、朝(あさ)夕(ゆう)吞(の)み喰(く)うものが大事(だいじ)なるぞ」と言っている(『岩淵夜話』)。家康の食べ物、健康への気遣いは広く知られるところである。益軒の養生訓には、『老子』の言葉として「人(ひと)の命(いのち)は我(われ)にあり、天(てん)にあらず」が紹介されている。本当に『老子』がそう言ったかはわからないが、心気のみならず飲食もよく考えておかねばならないのは確かである。なお、孔子は七十四歳まで生きたが、一番見込んでいた優秀な弟子の顔回は四十歳そこそこで死んだとされる。『論語』には、顔回が路地裏暮らしで、飲食も極端に質素で構わずに、勉学に励んでいることをほめているところがある(雍也第六)。一方、孔子の食事についても述べられている箇所があるが、かなり気を使っていたのがわかる(郷党第十)。先の老子の言葉ではないが、やはり食べ物にも気を使わないと寿命という点で異なってくる。だからといって、ぜいたくな美食はかえって命を縮める。この点も先の『養生訓』は、「例(たと)えば草木(くさき)に水(みず)と肥(こえ)との養(よう)を過(か)せば、かじけて枯(か)るるがごとし」とわかりやすく説明している。要するに健康においても『菜根譚』の主張である「何事もほど良いことが大切である」が当てはまることになろう。
(※)偈……この語句については、本書の後集47条参照。

【原文】
性天澄徹、卽饑喰渴飮、無非康濟身心。心地沈迷、縱談禪演偈、總是播弄精魂。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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