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第110回

103〜105話

2020.06.08更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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103 偉い人の考えでも自分自身で検討して考えてみる


【現代語訳】
心のなかにそもそも妄念がなければ、何もあらためて心を観ずる必要はない。それなのに釈尊が心を観ぜよというのは、かえって妄念を増すことになるのではないか。また、万物はもともと一体であるから、何もわざわざ万物を斉(ひと)しくする必要はない。それなのに荘子が万物を斉しくせよというのは、かえって一体であるものを強引に自分から分解することにはならないだろうか。

【読み下し文】
心(こころ)に其(そ)の心(こころ)無(な)くば(※)、何(なん)ぞ観(かん)に有(あ)らん。釈氏(しゃくし)の心(こころ)を観(かん)ぜよと曰(い)うは、重(かさ)ねて其(そ)の障(しょう)を増(ま)すなり。物(もの)は本(もと)一物(いちぶつ)、何(なん)ぞ斉(ひと)しくするに待(ま)たん。荘生(そうせい)(※)の物(もの)を斉(ひと)しくせよと曰(い)うは、自(みずか)ら其(そ)の同(どう)を剖(さ)くなり。

(※)其の心無くば……そもそも妄念がなければ。
(※)荘生……荘子。荘周。なお、万物が一体であることおよび
「斉物論」については、本書の前集103条、後集61条参照。本項は珍しく著者・洪自誠の腹の虫が良くないときだったのだろうか。ただ、どんなに偉い人の説でも批判的に考え、自分の意見を持つことは大切であろう。

【原文】
心無其心、何有於觀。釋氏曰觀心者、重增其障。物本一物、何待於齊。莊生曰齊物者、自剖其同。

 

104 引き上げどきを間違えない


【現代語訳】
宴もたけなわになったころ、自分から立ち上がってその場から引き上げて去っていく。こうした達人を見ていると、まるで手放しで絶壁の上を歩いているようで、うらやましい。一方、時刻が過ぎて夜も更けてしまったのに、まだふらふらと夜の外をさまようのをやめない。こうした俗人を見ていると、まるで我が身を苦海に沈めてしまっているようで情けない。

【読み下し文】
笙歌(しょうか)正(まさ)に濃(こま)やかなる処(ところ)(※)、便(すなわ)ち自(みずか)ら衣(い)を払(はら)って長(なが)く往(ゆ)く。達人(たつじん)の手(て)を懸崕(けんがい)(※)に撒(さっ)するを羨(うらや)む。更漏(こうろう)(※)已(すで)に残(のこ)る時(とき)、猶然(ゆうぜん)(※)として夜(よる)行(ゆ)きて休(や)まず。俗士(ぞくし)の身(み)を苦海(くかい)に沈(しず)むるを咲(わら)う。

(※)笙歌正に濃やかなる処……宴もたけなわになったころ。笙という楽器を吹き、歌を唄って盛り上がったころ。宴会の楽しさと難しさについては、本書の後集10条参照。
(※)懸崕……絶壁。
(※)更漏……時刻。
(※)猶然……ふらふらとさまようさま。

【原文】
笙歌正濃處、便自拂衣長徃。羨逹人撒手懸崕。更漏已殘時、猶然夜行不休。咲俗士沈身苦海。

 

105 不動心が確立する前に欲望を刺激するものは見ないようにする


【現代語訳】
人間修養ができて、良い悪いの判断が確立し、自分をコントロールできないうちは、俗世間のなかに入り込まないほうが良い。自分の心の欲望を刺激するものを見ないようにして、それによって本心を澄ませて不動心を確立していくのである。この不動心が確立できたなら、いよいよ俗世間のまっただなかに入っていろいろと交わると良い。そして自分の心が、欲望を刺激するものを見ても乱されないようにしながらも、世のなかとうまく付き合って人格のまるみを身につけていきたい。

【読み下し文】
把握(はあく)未(いま)だ定(さだ)まらざれば、宜(よろ)しく迹(あと)を塵囂(じんごう)(※)に絶(た)つべく、此(こ)の心(こころ)をして欲(ほっ)すべきを見(み)ずして乱(みだ)れざらしめ、以(もっ)て吾(わ)が静体(せいたい)(※)を澄(す)ます。操持(そうじ)既(すで)に堅(かた)ければ、又(また)当(まさ)に迹(あと)を風塵(ふうじん)(※)に混(こん)ずべく、此(こ)の心(こころ)をして欲(ほっ)すべきを見(み)て亦(ま)た乱(みだ)れざらしめ、以(もっ)て吾(わ)が円機(えんき)(※)を養(やしな)う。

(※)塵囂……俗世間。
(※)静体……静かな心の本体。本心。
(※)風塵……俗世間のまっただなか。土風塵界の意。
(※)円機……人格のまるみ。円転滑脱のはたらき。

【原文】
把握未定、宜絕迹塵囂、使此心不見可欲而不亂、以澄吾靜體。操持旣堅、又當混迹風塵、使此心見可欲而亦不亂、以養吾圓機。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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