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第109回

100〜102話

2020.06.05更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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100 人生すべてかくの如し。富貴を求めても意味がない


【現代語訳】
俳優は白粉(おしろい)をつけ紅(べに)をひいて化粧をし、美人や醜婦をはけの先で自由につくり出す。しかし、やがて歌が終わり舞台の幕が降りると、先ほどの美人や醜婦はどこにいるのだろうか。また、碁を打っている人は、先手後手と争い、勝敗を競っているが、やがて対局が終わり碁石を片付けると、先ほど一生懸命に争っていた勝敗はどこにあるのだろうか。

【読み下し文】
優人(ゆうじん)(※)、粉(ふん)を傅(つ)け殊(しゅ)を調(ととの)え、姸醜(けんしゅう)(※)を毫端(ごうたん)(※)に効(いた)すも、俄(にわか)にして歌(うた)残(のこ)り場(ば)罷(や)めば、姸醜(けんしゅう)何(なん)ぞ存(そん)せん。奕者(えきしゃ)(※)、先(せん)を争(あらそ)い後(ご)を競(きそ)い、雌雄(しゆう)(※)を着子(ちゃくし)に較(くら)ぶるも、俄(にわか)にして局(きょく)尽(つ)き子(し)(※)収(おさ)むれば、雌雄(しゆう)安(いずく)にか在(あ)らん。

(※)優人……俳優。
(※)姸醜……美しい人、醜い人。
(※)毫端……はけの先。
(※)奕者……碁を打ち勝敗を争う人。
(※)雌雄……勝敗。
(※)子……碁石のこと。

【原文】
優人傅粉調硃、効姸醜於毫端、俄而歌殘場罷、妍醜何存。奕者爭先競後、較雌雄於着子、俄而局盡子収、雌雄安在。

 

101 自然の美しさを感じられる心を持つ


【現代語訳】
気持ち良い風や、咲く花のさっぱりとした清らかさや、雪景色を照らす月のひろびろと澄みきったすばらしさは、ただ静かで感受性ある人のみが楽しむことができる。また、水の流れや草木の変化、竹や石のたたずまいの移り変わりを観賞できるのは、心のどかでゆとりのある人だけである。

【読み下し文】
風化(ふうか)の瀟洒(しょうしゃ)(※)、雪月(せつげつ)の空清(くうせい)(※)、唯(た)だ静(せい)なる者(もの)のみ、之(これ)が主(しゅ)と為(な)る。水木(すいぼく)の栄枯(えいこ)、竹石(ちくせき)の消長(しょうちょう)、独(ひと)り間(かん)なる者(もの)のみ其(そ)の権(けん)を操(と)る(※)。

(※)瀟洒……さっぱりとした清らかさ、美しさ。
(※)空清……ひろびろとして澄みきったすばらしさ。
(※)権を操る……権利を手にする。

【原文】
風芲之瀟洒、雪月之空淸、唯靜者爲之主。水木之榮枯、竹石之消長、獨閒者操其權。

 

102 質素な生活が人生第一の幸せな境地である


【現代語訳】
田舎の素朴な農民は、おいしい鶏(にわとり)の肉や普段飲んでいるにごり酒の話をすれば、うれしそうに語るが、貴人たちが食べるごちそうについて聞くと、まったく知らない。また、普段着ている質素な服を話題にすると盛り上がって話すが、貴人の礼服について聞くと、これも知らないし関心がない。これはいわゆる天性というものが少しも損なわれていないためであり、そのため欲も淡白なのである。こういう生き方こそ人生第一の幸せな境地である。

【読み下し文】
田父野叟(でんぷやそう)(※)は、語(かた)るに黄鶏(おうけい)(※)白酒(はくしゅ)を以(もっ)てすれば、則(すなわ)ち欣然(きんぜん)(※)として喜(よろこ)び、問(と)うに鼎養(ていよう)(※)を以(もっ)てすれば、則(すなわ)ち知(し)らず。語(かた)るに縕袍裋褐(おんぼうじゅかつ)(※)を以(もっ)てすれば、則(すなわ)ち油然(ゆうぜん)(※)として楽(たの)しみ、問(と)うに袞服(こんふく)(※)を以(もっ)てすれば、則(すなわ)ち識(し)らず。其(そ)の天(てん)全(まった)し。故(ゆえ)に其(そ)の欲(よく)淡(あわ)し。此(これ)は是(こ)れ人生(じんせい)第一個(だいいっこ)の境界(きょうかい)なり。

(※)田父野叟……田舎の素朴な農民。著者の洪自誠は官僚の世界で嫌なことをたくさん経験してきたこともあってか、この人たちを天性の損なわれていない理想の人間と見ているところがある。
(※)黄鶏……おいしいとされる鶏の肉。白色でなく茶色とか赤っぽい色の羽をしている鶏。
(※)欣然……喜ぶさま。なお、本書前集6条の「欣欣」参照。
(※)鼎養……貴人のごちそう。
(※)縕袍裋褐……どてらと丈の短い粗末な衣服。普段着ている質素な服。
(※)油然……盛り上がる。盛んに湧き出るさま。
(※)袞服……貴人の礼服。高位高官の礼服。本書の後集40条参照。

【原文】
田父野叟、語以黃鷄白酒、則欣然喜、問以鼎養、則不知。語以縕袍裋褐、則油然樂、問以衮服、則不識。其天全、故其欲淡。此是人生第一個境界。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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