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第15回

40〜42話

2020.01.16更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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40 欲望に身を任せず、正しい生き方を心がける


【現代語訳】
欲望上のことは、手軽で簡単に楽しめるからといってうかつに手を染めてはいけない。一度手を染めると深みにはまってしまい、ついには谷底にまで落ちてしまう。道理上(自分の信じる正しい生き方)のことは、それを貫くことが難しいからといって、わずかでも譲るようなことをしてはならない。一度譲ると千山のように遠く離れてしまい、もう追いつけなくなってしまう(正しい生き方に戻るのが難しくなる)。

【読み下し文】
欲(よく)路上(ろじょう)の事(こと)は、其(そ)の便(べん)を楽(たの)しみて、姑(しばら)くも(※)染指(せんし)(※)を為(な)すこと毋(な)かれ。一(ひと)たび染指(せんし)せば、便(すなわ)ち深(ふか)く万仞(ばんじん)に入(い)らん。理路上(りろじょう)(※)の事(こと)は、其(そ)の難(なん)を憚(はばか)りて稍(やや)も退歩(たいほ)を為(な)すこと毋(な)かれ。一(ひと)たび退歩(たいほ)せば、便(すなわ)ち遠(とお)く千山(せんざん)を隔(へだ)てん。

(※)姑くも……うかつに。かりそめにも。ほんの少しでも。
(※)染指……食指を染める。手を出す。
(※)理路上……道理にかなうこと。自分の信じる正しい生き方。なお、『孟子』も「自(みずか)ら反(はん)して縮(なお)ければ、千万人(せんまんにん)と雖(いえど)も吾(われ)往(ゆ)かん」(公孫丑上篇)と述べている。

【原文】
欲路上事、毋樂其便而姑爲染指。一染指、便深入萬仞。理路上事、毋憚其難而稍爲退步。一退步、便遠隔千山。

41 何事もほどほどが良い


【現代語訳】
心が細やかな人は、自分についても手厚く考えすぎてしまうが、他人のことでも手厚く考えすぎてしまう。このように万事において考えすぎる嫌いがある。これに対して心があっさりしていて大ざっぱな人は、自分についてもあっさりとしていていい加減になりやすく、他人のことでもあっさりとしていていい加減になりやすい。このように、万事においてあっさりといい加減となりやすい。だから君子の普段の態度としては、考えすぎることもなく、またあっさりすぎることもない、ほど良いところを目指すべきである。

【読み下し文】
念頭(ねんとう)(※)の濃(こま)やかなる者(もの)は、自(みずか)ら待(ま)つこと厚(あつ)く、人(ひと)を待(ま)つことも亦(ま)た厚(あつ)く、処処(しょしょ)皆(みな)濃(こま)やかなり。念頭(ねんとう)の淡(あわ)き者(もの)は、自(みずか)ら待(ま)つこと薄(うす)く、人(ひと)を待(ま)つことも亦(ま)た薄(うす)く、事事(じじ)皆(みな)淡(あわ)し。故(ゆえ)に君子(くんし)の居常(きょじょう)(※)の嗜好(しこう)は太(はなは)だ濃艶(のうえん)なるべからず、亦(ま)た宜(よろ)しく(※)太(はなは)だ枯寂(こせき)(※)なるべからず。

(※)念頭……心で思うこと。考えること。
(※)居常……普段。日常。
(※)宜しく……ほど良い。いわゆる「中庸」のすすめである。中庸は『論語』の孔子も孟子も重視している。なお、同時に『論語』では、自分に対しては慎み深くしていながら、他人に対しては「簡」(大まかであって、こせこせとしない)をすすめている。「敬(けい)に居(お)りて簡(かん)を行(おこな)い、以(もっ)て其(そ)の民(たみ)に臨(のぞ)むは、亦(ま)た可(か)ならずや」(雍也第六)。
(※)枯寂…… 枯淡寂寞(こたんせきばく)のことで淡白すぎて殺風景で何もないこと。あっさりとしていること。

【原文】
念頭濃者、自待厚、待人亦厚、處處皆濃。念頭淡者、自待薄、待人亦薄、事事皆淡。故君子、居常嗜好、不可太濃艷、亦不宜太枯寂。

42 仁者に敵なし


【現代語訳】
相手がお金の力でくるなら、こちらは仁で対抗する。相手が名誉や地位の高さでくるなら、こちらは義で対抗する。君子はもとより相手が君主や宰相のような上級者であろうとも、意のままに動くものではない。人は仁義の生き方が定まっているのなら天にすら勝てるし、志が専一になっていれば気を率いて万物をも動かせるのである。こうして君子は、天や神でさえ型にはめることができない存在となるのだ。

【読み下し文】
彼(かれ)は富(とみ)ならば我(われ)は仁(じん)(※)、彼(かれ)は爵(しゃく)ならば我(われ)は義(ぎ)(※)なり。君子(くんし)は固(もと)より君相(くんしょう)の牢籠(ろうろう)(※)する所(ところ)とならず。人(ひと)定(さだ)まれば天(てん)に勝(か)ち、志(こころざし)一(いつ)なれば(※) 気(き)を動(うご)かす。君子(くんし)は亦(ま)た造物(ぞうぶつ)の陶鋳(とうちゅう)(※)を受(う)けず。

(※)仁……孔子に始まる儒教が大切にする概念。『論語』においては、孔子はいろいろな角度から仁を論じており、孔子の教える最高の人格が仁である。強いて短く言えば、相手への適切な思いやり、愛情ということになろう。なお、『孟子』には「彼(かれ)その富(とみ)を以(もっ)てせば我(われ)は吾(わ)が仁(じん)を以(もっ)てす。彼(かれ)その爵(しゃく)を以(もっ)てせば我(われ)は吾(わ)が義(ぎ)を以(もっ)てす」(公孫丑下篇)とあり、本項もこれを参考にしているようである。さらに孟子の言葉には有名な「仁者(じんしゃ)に敵(てき)無(な)し」(梁恵王上篇)がある。吉田松陰もこの言葉を多用した。本項全体に『孟子』の影響が強いようである。
(※)義……孟子が仁とならんで強調した。人として守るべき正しい道、生き方。
(※)牢籠……意のままとなる。牢獄やかごにとじ込めて思い通りにする。
(※)志一なれば……志が専一になっていれば。なお、『孟子』には「志(こころざし)は気(き)を帥(ひき)いるものなり。気(き)は体(たい)を充(す)ぶものなり」、「志(こころざし)壱(もっぱら)なれば則(すなわ)ち気(き)を動(うご)かし」(公孫丑上篇)とある。
(※)陶鋳……型にはめること。

【原文】
彼富我仁、彼𣝣我義。君子固不爲君相所牢籠。人定勝天、志一動氣。君子亦不受造物之陶鑄。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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