Facebook
Twitter
RSS

第64回

187〜189話

2020.03.30更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら

187 理屈にこり固まった人を変えるのは難しい


【現代語訳】
欲にこり固まったのを直すことはできる。しかし、理屈にこり固まった人を直し変えるのは難しい。物の障害は取り除くことができる。しかし、道理上の思い込みによる障害を取り除くのは難しい。

【読み下し文】
縦欲(しょうよく)(※)の病(やまい)は医(いや)すべし、而(しか)して執理(しゅうり)の(※)病(やまい)は医(いや)し難(がた)し。事物(じぶつ)の障(さわ)りは除(のぞ)くべし、而(しか)して義理(ぎり)(※)の障(さわ)りは除(のぞ)き難(がた)し。

(※)縦欲……欲にこり固まった。欲でいっぱい。
(※)執理……理屈にこり固まる。理屈に執着する。
(※)義理……自分の考える道理。自分の思う正しい道。自分が考える人の行うべきこと。道理、道学上の頑固な思い込みに対する批判については、本書の前集175条参照。

【原文】
縱欲之病可醫、而執理之病難醫。事物之障可除、而義理之障難除。

 

188 自分を磨き育てるには繰り返してじっくりとやる


【現代語訳】
自分を磨き育てるなら、金を精練するときのようにじっくりとやらなくてはならない。速成でつくろうとすると、良いものはできあがらない。事業を始めるときは、重くて強い弓を放つときのように、慎重にやるべきである。慌(あわ)てて始めると、うまくいかない。

【読み下し文】
磨礪(まれい)(※)は当(まさ)に百煉(ひゃくれん)(※)の金(きん)の如(ごと)くすべし、急就(きゅうしゅう)の者(もの)は𨗉養(すいよう)(※)に非(あら)ず。施為(しい)は宜(よろ)しく千鈞(せんきん)(※)の弩(ど)に似(に)たるべし。軽発(けいはつ)の者(もの)は宏功(こうこう)(※) 無(な)し。

(※)磨礪……磨き育てる。錬磨。修養。「切磋琢磨(せっさたくま)」も同じ意味。なお、『論語』には子貢が「詩(し)に云(い)う、切(せつ)するが如(ごと)く磋(さ)するが如(ごと)く、琢(たく)するが如(ごと)く磨(ま)するが如(ごと)し」(学而第一)と言い、孔子にほめられるところがある。
(※)百煉……繰り返してじっくりと鍛える。
(※)𨗉養……良いもの。深い修養。
(※)千鈞……重い。
(※)宏功……うまくいく。大きな成果。

【原文】
磨礪當如百煉之金、急就者非𨗉養。施爲宜似千鈞之弩、輕發者無宏功。

 

189 小人からは悪口を言われてもいいが、君子からは𠮟責されるほうが良い


【現代語訳】
つまらない小人には嫌われ悪口を言われてもいいが、小人の気に入るところとなり、ご機嫌でもとられたら大変である。立派な人格者の君子には厳しく見られ、怒られるくらいが良い。君子にだめな人間と温かく見られ、包容されるようではいけない。

【読み下し文】
寧(むし)ろ小人(しょうじん)の忌毀(きき)(※)する所(ところ)と為(な)るも、小人(しょうじん)の媚悦(びえつ)(※)する所(ところ)と為(な)る毋(な)かれ。寧(むし)ろ君子(くんし)の責修(せきしゅう)(※)する所(ところ)と為(な)るも、君子(くんし)の包容(ほうよう)する所(ところ)と為(な)る毋(な)かれ。

(※)忌毀……嫌われ悪口を言われること。なお、『論語』では有名な「唯(た)だ女子(じょし)と小人(しょうじん)とは養(やしな)い難(がた)しと為(な)すなり。之(これ)を近(ちか)づくれば則(すなわ)ち不孫(ふそん)。之(これ)を遠(とお)ざくれば則(すなわ)ち怨(うら)む」(陽貨第十七)がある。孔子でも小人との付き合い方は難儀したようだ。もっとも後に福沢諭吉は、『学問のすゝめ』の十三編で、この孔子の言葉を批判し、「徒(いたず)らに愚痴(ぐち)をこぼすとは余(あま)り頼(たの)母(も)しからぬ話(はなし)なり」とした。福沢は差別社会と教育が悪かったためと言う。しかし、本項で言いたかったことは、『論語』や、『菜根譚』の「小人」のように、いつの時代においても自分の目先の小さな利益しか考えないつまらない人物はいるものであり、その付き合い方は注意が必要であるというものであろう。
(※)媚悦……ご機嫌をとる。おべっかを言う。
(※)責修……責めて正される。正そうと怒られる。

【原文】
寧爲小人所忌毀、毋爲小人所媚悅。寧爲君子所責修、毋爲君子所包容。

「目次」はこちら

【単行本好評発売中!】 
この本を購入する

シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

矢印