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第77回

4〜6話

2020.04.16更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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4 天地自然をじっくり楽しめる人生でありたい


【現代語訳】
歳月というのは、もともと長久のものである。しかし、時間がないと忙しぶっている人間は、これを自ら短くしてしまっている。天地は、もともと広いものだ。しかし、心の卑しいけちな人間は、これを自ら狭いものにしている。風花雪月すなわち四季の美しさは、もともとのどかで心も楽しませてくれるものである。しかし、心狭い、世事にあくせくして、ゆとりのない人間は、自らこれをわずらわしいものにしてしまっている。

【読み下し文】
歳月(さいげつ)は本(もと)長(なが)くして(※)、忙(いそが)しき者(もの)自(みずか)ら促(うなが)す(※)。天地(てんち)は本(もと)寛(ひろ)し、而(しか)して、鄙(いや)しき者(もの)自(みすか)ら隘(せま)くす。風花雪月(ふうかせつげつ)(※)は本(もと)間(かん)(※)なり、而(しか)して労攘(ろうじょう)(※)の者(もの)自(みずか)ら冗(わず)らわしくす。

(※)長くして……長久の。なお、『老子』は「天(てん)は長(なが)く地(ち)は久(ひさ)し」(韜光第七)と述べている。
(※)促す……せかす。短くする。
(※)風花雪月……春の花、夏の風、秋の月、冬の雪。四季の美しいこと。
(※)間……のどか。閑と同義。
(※)労攘……あくせくしてゆとりのない。

【原文】
歲月本長、而恾者自促。天地本寛、而鄙者自隘。風芲雪月本閒、而勞攘者自冗。

 

5 身近なたたずまいのなかにも趣や風流がある


【現代語訳】
趣を得るには、特別に何かで飾りたてる必要はない。おぼんのように小さい池や、こぶしほどの石を並べた小さな庭にも風月はあるものだ。美しい景色に会うために、わざわざ遠くまで出かける必要はない。よもぎの草が生い茂っている窓や竹屋根のあばら家にも風月はあり、これものどかで良いものである。

【読み下し文】
趣(おもむき)を得(う)るは多(おお)きに在(あ)らず、盆池(ぼんち)拳石(けんせき)(※)の間(あいだ)にも、煙霞(えんか)(※)は具足(ぐそく)す。景(けい)に会(あ)うは遠(とお)きに在(あ)らず、蓬窓(ほうそう)竹屋(ちくおく)(※)の下(もと)にも、風月(ふうげつ)は自(おの)ずから賖(はる)か(※)なり。

(※)盆池拳石……おぼんのような小さな池、こぶしほどの石を並べた小さな庭。盆石や箱庭の意。
(※)煙霞……かすみたなびく風景。
(※)蓬窓竹屋……よもぎの生い茂った窓や竹屋根のあばら家。
(※)賖か……遠いこと。のどかなこと。

【原文】
得趣不在多、盆池拳石閒、𤇆霞具足。會景不在遠、蓬窓竹屋下、風月自賖。

 

6 人生は夢のようなものである


【現代語訳】
静かな夜に鐘の音を聴くと、夢のなかで見ていた夢が覚め、水の澄んだ深い淵に映る月影を見ていると、我が肉体はこの月影のような仮身で、真実の身は肉体の外にあることを、うかがい知ることができる。

【読み下し文】
静夜(せいや)の鐘声(しょうせい)を聴(き)いては、夢中(むちゅう)の夢(ゆめ)(※)を喚(よ)び醒(さ)まし、澄潭(ちょうたん)の月影(げつえい)を観(み)ては、身外(しんがい)の身(み)(※)を窺(うかが)い見(み)る。

(※)夢中の夢……夢のなかで見る夢。人生は夢のようなものと見る『荘子』の言葉。次のように言う。「其(そ)の夢(ゆめ)みるに方(あた)りては、其(そ)の夢(ゆめ)なるを知(し)らざるなり。夢(ゆめ)の中(なか)に又(また)其(そ)の夢(ゆめ)を占(うらな)う。覚(さ)めて後(のち)に其(そ)の夢(ゆめ)なるを知(し)る。且(か)つ大覚(だいかく)有(あ)りて而(しか)る後(のち)に、此(こ)れ其(そ)の大夢(たいむ)なるを知(し)るなり」(斉物論篇)。ここで『菜根譚』が夢のなかで見ていた夢を覚ますというのは、しょせん人生は夢のようなものであり、そのなかで夢を見る出世や名誉や財産を得ることなど夢のなかの夢であり、そんなものは意味のないもので、目を覚ますべきものだということを言っているのである。豊臣秀吉の有名な辞世の句の「露(つゆ)と落(お)ち露(つゆ)と消(き)えにし我(わ)が身(み)かな浪速(なにわ)のことも夢(ゆめ)のまた夢(ゆめ)」にある、「夢のまた夢」も「夢中の夢」と同じ意味であろう。
(※)身外の身……現実の世の身の外にある真実の身。


【原文】
聽靜夜之鐘聲、喚醒夢中之夢、觀澄潭之月影、窺見身外之身。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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