Facebook
Twitter
RSS

第79回

10〜12話

2020.04.20更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら

10 楽しみというものは目的や時間の長さを考えたほうが良い


【現代語訳】
お客や友人、仲間が大勢集まってのにぎやかな宴会、パーティーは楽しいものだ。したたかに飲み、大いに騒ぐ。しかし、夜もふけて、宴も終わりに近づくと、灯火もわずかになり、香炉の煙もなくなり、お茶も冷えてしまう。そのころになるとわけのわからない人も出てきて、泣き出す人まで出てくる。人々は興ざめ、先ほどまでの楽しさもつまらないものになってくる。世のなかの楽しみごとは、大抵このようなものである。人は、どうしてちょうど良いときに切り上げることを考えないのであろうか。

【読み下し文】
賓朋雲集(ひんぼううんしゅう)し(※)、劇飲(げきいん)(※)淋漓(りんり)(※)として楽(たの)しめり。俄(にわか)にして漏(ろう)尽(つ)き(※)燭(しょく)残(のこ)り、香(こう)銷(き)え茗(めい)(※) 冷(ひ)ややかにして、覚(おぼ)えず反(かえ)って嘔咽(おうえつ)を成(な)し、人(ひと)をして索然(さくぜん)(※)として味(あじ)無(な)からしむ。天下(てんか)の事(こと)は率(おおむ)ね此(これ)に類(るい)す。人(ひと)、奈何(いかん)ぞ早(はや)く頭(こうべ)を回(めぐ)らさざるや(※)。

(※)賓朋雲集し……賓客、朋友が大勢集まる。「雲集」は楽しみのために雲のごとく、いっぱいの人がやってくるニュアンスがある。なお、『論語』の学而第一にある「朋(とも)有(あ)り遠方(えんぽう)より来(き)たる。亦(ま)た楽(たの)しからずや」は、学問を志す友、仲間、同志が勉強向上の刺激を求めて集まってくるニュアンスである。それが、いかにも楽しく、喜びが深いかをよく表現している。「雲集」との違いがそこにはある。
(※)劇飲……したたかに酒を飲む。日本人の場合、酒に弱い人も多く、酔っ払って問題を起こすことがある。そのため昔から大酒飲みはするなという教訓を述べる人もけっこういた。例えば、豊臣秀吉である。『名将言行録』(岡谷繁実)によると、「大酒(おおざけ)飲(の)みべからず」と言い、また「酔狂(すいきょう)人(ひと)には道(みち)をよくべし」とも言ったという。なお、良い酒については、本書の後集17条、123条参照。
(※)淋漓……ずるずると長く続くさま。
(※)漏尽き……夜も更ける。漏は漏刻で水時計。
(※)茗……お茶。
(※)索然……興ざめするさま。
(※)頭を回らさざるや……気がつかないのか。考えないのか。ここで『菜根譚』は宴会を早く切り上げないのかということと、やはり『論語』の最初の文(学而第一)にあるように学問の同志のような友人、仲間が集まり刺激し合う楽しさと、こうした宴会、パーティーの楽しさとは違うことを気づくべきだという二つの点について「頭を回らす」べきと言いたいのではないかと推測する。

【原文】
賓朋雲集、劇飮淋漓樂矣。俄而漏盡燭殘、香銷茗冷、不覺反成嘔咽、令人索然無味。天下事卛類此。人奈何不早回頭也。

 

11 物事の本質、天のからくり(法則)を見抜くように心がける


【現代語訳】
一つの物事の本質がわかれば、例えば中国古代の五湖の風景でさえ、心のなかに入れて観賞することができる。また、眼前の一個の現象について、その天のからくり(法則)がわかれば、大昔の英雄の行動と原因も手に取るようにわかる。

【読み下し文】
個中(こちゅう)の趣(おもむき)(※)を会(え)し得(う)れば、五湖(ごこ)の煙月(えんげつ)(※)も、尽(ことごと)く寸裡(すんり)(※)に入(い)る。眼前(がんぜん)の機(き)(※)を破(やぶ)り得(う)れば、千古(せんこ)の英雄(えいゆう)も、尽(ことごと)く掌握(しょうあく)に帰(き)す。

(※)個中の趣……一つの物事のなかにある本質、真実な趣。
(※)五湖の煙月……中国古代の五湖の風景。五湖については鄱陽湖(はようこ)、丹陽湖(たんようこ)、青草湖(せいそうこ)、洞庭湖(どうていこ)、太湖(たいこ)の五湖といわれている。また、五湖とは太湖の別名という説もある。
(※)寸裡……心のなか。
(※)機……天のからくり(法則)。

【原文】
會得個中趣、五湖之𤇆月、盡入寸裡。破得眼歬機、千古之英雄、盡歸掌握。

 

12 地位、名誉、財産がはかないものと理解するには、最上の知恵が必要である 


【現代語訳】
大自然の山河や大地でさえ、やがて形を変え、微塵となっていく。ましてや、とてもちっぽけな人間なんてものは、塵のなかの塵である。その肉体は、水の泡や物の影のようにはかなく消える。ましてや、その人間のさらに影でしかない地位、名誉、財産などは、もっとはかない存在でしかない。しかし、この当たり前のことは、よほどの知恵がないと、悟れないものである。

【読み下し文】
山河(さんが)大地(だいち)も、已(すで)に微塵(みじん)(※)に属(ぞく)す。而(しか)るを況(いわ)んや塵中(じんちゅう)の塵(じん)(※)をや。血肉(けつにく)身軀(しんく)も、且(か)つ泡影(ほうえい)に帰(き)す。而(しか)るを況(いわ)んや影外(えいがい)の影(えい)(※)をや。上上(じょうじょう)の智(ち)に非(あら)ざれば、了了(りょうりょう)の心(こころ)(※) 無(な)し。

(※)微塵……みじん。極めて小さい物。
(※)塵中の塵……微塵の中で最も小さい物。すなわち人間を指している。
(※)影外の影……人間の存在を影のようにはかないものと見て、さらにその影をいう。功名富貴の類を指している。
(※)了了の心……よく悟った心。

【原文】
山河大地、已屬微塵。而況塵中之塵。血肉身軀、且歸泡影。而況影外之影。非上上智、無了了心。

「目次」はこちら

【単行本好評発売中!】 
この本を購入する

シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

矢印