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第91回

46〜48話

2020.05.12更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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46 春も良いが、秋はなおいっそう良い


【現代語訳】
春の日は、万物が華やかに育ち景色も美しくて、人の気持ちをのどかでのんびりとしたものにしてくれる。秋の日は、雲は白く風は清く、蘭は香り、木犀(もくせい)も良いにおいをさせる。さらに、昼は水も空も同じく青く澄み、夜は空に見事な月がかかり水にはその影が映って、人の身も心も清らかにしてくれる。これは春の日がとうてい及ばないところである。

【読み下し文】
春日(しゅんじつ)は気象(きしょう)繁華(はんか)(※)にして、人(ひと)をして心神(しんしん)駘蕩(たいとう)(※)たらしむるも、秋日(しゅうじつ)の雲(くも)白(しろ)く風(かぜ)清(きよ)く、蘭(らん)芳(かんば)しく桂(けい)馥(にお)い、水天(すいてん)一色(いっしょく)、上下空明(じょうげくうめい)(※)にして、人(ひと)をして神骨(しんこつ)俱(とも)に清(きよ)らかならしむるに若(し)かざるなり。

(※)気象繁華……万物が華やかに育ち景色も美しい。景色が華やかで美しい。なお、日本人は四季をすべて愛する傾向がある。例えば、清少納言の『枕草子』では、「春は曙(あけぼの)」「夏は夜(よる)」「秋は夕暮(ゆうぐ)れ」「冬は早朝(つとめて)」と言っている。
(※)駘蕩……のどかでのんびりとしている。
(※)上下空明……空には見事な月がかかり、水にはその影が映る。

【原文】
春日氣象繁華、令人心神駘蕩、不若秋日雲白風淸、蘭芳桂馥、水天一色、上下空明、使人神骨俱淸也。

 

47 詩の心と禅の心(物事は心が大事である)


【現代語訳】
たとえ一字もわからなくても、詩の心を解する者であれば、詩の面白さがよく理解できる。また、禅の教理を説いた「偈(げ)」を一つも習っていないのに、禅の妙味(禅の目指しているもの)が心でわかる者は、禅の極意を悟ることができる。

【読み下し文】
一字(いちじ)をも識(し)らずして、而(しか)も詩意(しい)有(あ)る者(もの)は、詩家(しか)の真趣(しんしゅ)を得(う)。一偈(いちげ)(※)にも参(さん)せずして、而(しか)も禅味(ぜんみ)有(あ)る者(もの)は、禅教(ぜんきょう)の玄機(げんき)(※)を悟(さと)る。

(※)偈……漢詩の形式を使って禅の悟りの境地を述べた言葉。「偈頌(げじゅ)」ともいう。
(※)玄機……極意。奥義。玄妙なはたらき。

【原文】
一字不識、而有詩意者、得詩家眞趣。一偈不參、而有禪味者、悟禪敎玄機

 

48 疑心暗鬼は心をくもらす


【現代語訳】
心が動揺して疑心暗鬼になっていると、弓の影を見ても蛇(へび)かさそりと疑い、草のなかにある石を見ても虎が隠れているのかと思ってしまう。こういう人は、見る物すべてが殺気ある物に思える。一方、心が落ちついて素直に物が見える人は、石虎のような暴虐な王も海のかもめのように柔順にさせ、蛙(かえる)のうるさい鳴き声も鼓(つづみ)や笛の音のような美しい音楽に聞こえる。こういう人は、触れるものすべての真実の姿を見ることができる。

【読み下し文】
機(き)動(うご)く的(もの)は、弓影(きゅうえい)も疑(うたが)いて(※) 蛇蝎(だかつ)(※)と為(な)し、寝石(しんせき)も視(み)て(※)伏虎(ふくこ)と為(な)す。此(こ)の中(うち)、渾(すべ)て是(こ)れ殺気(さっき)なり。念(ねん)息(や)む的(もの)は、石虎(せきこ)も海鷗(かいおう)と作(な)す(※)べく、蛙声(あせい)も鼓吹(こすい)に当(あ)つ(※)べし。触(ふ)るる処(ところ)俱(とも)に真機(しんき)(※)を見(み)る。

(※)弓影も疑いて……弓の影を見ても疑う。晋の楽広(がくこう)のもとに来た客人が、壁にかかっている弓の影が杯のなかに映っているのを見て蛇と勘違いして、これを飲んで病気になったという故事(『晋書』楽広伝)からの引用。
(※)蛇蝎……蛇とさそり。
(※)寝石も視て……草のなかにある石を見て。漢の将軍李広(りこう)は、草のなかの石を見て虎と思い、矢を射ったところ、その矢は石を貫いたという故事(『史記』李将軍伝)からの引用。なお、この語句の解釈については、本書の前集101条も参照。
(※)石虎も海鷗と作す……石虎のような暴虐な王も海のかもめのように柔順にさせる。五胡十六国の一つだった後趙の石虎は暴虐な王であったが、西域の僧侶仏図澄(ぶっとちょう)の感化で海のかもめのように柔順になったという故事(『晋書』仏図澄伝)からの引用。
(※)蛙声も鼓吹に当つ……蛙のうるさい鳴き声も鼓や笛のような美しい音楽に聞こえる。南斉の孔珪(こうけい)が言ったという故事(『南史』孔挂伝)からの引用。
(※)真機……真実の姿。本当のはたらき。「殺気」に対する対語。

【原文】
機動的、弓影疑爲蛇蝎、寢石視爲伏虎。此中渾是殺氣。念息的、石虎可作海鷗、蛙聲可當鼓吹。觸處俱見眞機。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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