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よみものどっとこむ

孫子コンプリート 全文完全対照版 野中根太郎 訳

第27回

76話~78話

2018.02.21更新

読了時間

【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。

76 敗北はすべて将軍が原因となる

【現代語訳】

軍隊には六つの負ける状態がある。
すなわち軍隊には敗走するものがあり、弛ゆるんでしまうものがあり、窮地に陥るものがあり、自ら崩壊するものがあり、乱れてしまうものがあり、敗北するものがある。
これら六つのものは、天の降(くだ)した災いでなく、将軍の過ちによるものである。

【読み下し文】

故(ゆえ)に兵(へい)に走(はし)る者(もの)有(あ)り、弛(ゆる)む者(もの)有(あ)り、陥(おちい)る者(もの)有(あ)り、崩(くず)るる者(もの)有(あ)り、乱(みだ)るる者(もの)有(あ)り、北(に)ぐる者(もの)有(あ)り、凡(およ)そ此(こ)の六者(ろくしゃ)は、天(てん)の災(わざわ)い(※)に非(あら)ず、将(しょう)の過(あやま)ちなり。

(※)天の災い……ここでは人災すなわち将軍の過ちでなく、運命や神、自然の摂理を理由とした災いのこと。なお、東洋思想では、論語を見ればよくわかるように、天をあたかも創造主とか運命を司るものと考えた。日本ではこれを「お天道さま」などとも言った。日本の天皇とは、その天に直接つながるものとしてあがめた。これに対し、中国などの皇帝は、その天より任された支配者とした。だから支配者としての資質がなくなると、いわゆる「易姓革命」によって替えてよいこととされていた。

【原文】

故兵有走者、有弛者、有陷者、有崩者、有亂者、有北者、凢此六者、非天之災、將之過也、

77 「走(そう)」、「弛(し)」、「陥(かん)」、「崩(ほう)」の軍隊

【現代語訳】

敵と味方の力が等しいにもかかわらず、味方一に対して敵十の力と戦ってしまった場合、軍隊は走(敗走する軍隊)となる。
兵士は強いのに、部将(下級幹部)が弱い軍隊を弛(弛んだ軍隊)という。
部将が強く、兵士が弱い軍隊を陥(士気が上がらず窮地に陥る軍隊)という。
副将や上級幹部が将軍と仲が悪く、敵に遭遇すると将軍の言うことを聞かずに将軍のことをうらみ怒っているから勝手に戦い、将軍も副将や上級幹部の能力を認めないような軍隊を崩(自ら崩壊する軍隊)という。

【読み下し文】

夫(そ)れ勢(せい)均(ひと)しくして、一(いち)を以(もっ)て十(じゅう)を撃(う)つを走(そう)と曰(い)う。卒(そつ)強(つよ)く吏(り)弱(よわ)きを弛(し)と曰(い)う。吏(り)強(つよ)く卒(そつ)(※)弱(よわ)きを陥(かん)と曰(い)う。大吏(たいり)怒(いか)りて服(ふく)せず、敵(てき)に遇(あ)えば懟(うら)(※)みて自(みずか)ら戦(たたか)い、将(しょう)其(そ)の能(のう)を知(し)らざるを崩(ほう)と曰(い)う。

  • (※)卒……一般の兵士。なお、孫子は他に「吏」「大吏」「将」と分けて論じている。これまで一般的には「吏」と「大吏」を区別して解釈されていないようである。本書では「吏」を部将(下級幹部)とし、「大吏」を副将や上官幹部として分けて解釈した。そのほうがより孫子の考えに忠実だと思うからだ。なお、「史」を軍隊を監督する官史あるいは役人、「大史」を官史の長と解する説もある。
  • (※)懟……うらむ。うらみ怒る。

【原文】

夫勢均、以一擊十曰走、卒强吏弱曰弛、吏强卒弱曰陷、大吏怒而不服、遇敵懟而自戰、將不知其能、曰崩、

78 「乱(らん)」、「北(ほく)」の軍隊

【現代語訳】

将軍が弱くて厳しさがなく、兵士への指導も不明確で、部将や兵士にも規律がなくなり、陣をしいても配置がでたらめな軍隊を乱(乱れた軍隊)という。
将軍が敵情を正しくはかることもできず、少数の兵力で多数の兵力と戦わせたり、弱い軍隊で強い軍隊を攻撃させたりもする。その上、自軍に核となる精鋭部隊もない軍隊を北(敗北する軍隊)という。
以上の六つは敗北に至る道であって、こうならないようにするのが将軍の重要な任務である。よく考えておかねばならない。

【読み下し文】

将(しょう)弱(よわ)くして厳(げん)ならず、教道(きょうどう)明(あき)らかならず、吏(り)卒(そつ)常(つね)無(な)く、兵(へい)を陳(つら)ぬること縦横(じゅうおう)(※)なるを、乱(らん)と曰(いう。将(しょう)敵(てき)を料(はか)ること能(あた)わず、少(しょう)を以(もっ)て衆(しゅう)に合(あ)わせ、弱(じゃく)を以(もっ)て強(きょう)を撃(う)ち、兵(へい)に選鋒(せんぽう)(※) 無(な)きを、北(ほく)と曰(い)う。凡(およ)そこの六者(ろくしゃ)は、敗(はい)の道(みち)なり。将(しょう)の至任(しにん)にして、察(さっ)せざるべからざるなり。

  • (※)縦横……「たて」と「よこ」。ここでは規律がなくなること。
  • (※)選鋒……選びすぐった兵士たちのこと。ここでは核となる精鋭部隊のこと。

【原文】

將弱不嚴、敎衜不朙、吏卒無常、陳兵縱橫、曰亂、將不能料敵、以少合衆、以弱擊强、兵無選鋒、曰北、凢此六者、敗之衜也、將之至任、不可不察也、


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。著書に『超訳孫子の兵法』、『吉田松陰の名言100』、『武士道の名言100』、『真田幸村の凛とした生き方』(以上、アイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術』(誠文堂新光社)などがある。

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