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第169回

417〜419話

2021.11.26更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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25‐1 教え子の今の状態、レベルをよく把握しておく

【現代語訳】
浩生不害が問うた。「(先生の弟子の)楽正子はどんな人物ですか」。孟子は言った。「彼は善人であり、信人である」。浩生不害は聞いた。「善とはどういう意味ですか。また信とはどういう意味ですか」。孟子は答えた。「人が皆こうありたいと思うようなものを善といい、その善を自分のものにしているのを信という。さらに、その善を自分に充実させることを美といい、充実させて外にまで光り輝くようになったのを大といい、その大が天下の人々を感化するようになるのを聖といい、聖にしてそのはたらきが人智でははかりしれないようになるのを神という。楽正子は、善と信の二つのなかに入っているが、美・大・聖・神の四つの域には達していないのである」。

【読み下し文】
浩生不害(こうせいふがい)(※)問(と)うて曰(いわ)く、楽正子(がくせいし)(※)は何人(なにぴと)ぞや。孟子(もうし)曰(いわ)く、善人(ぜんじん)なり、信人(しんじん)なり。何(なに)をか善(ぜん)と謂(い)い、何(なに)をか信(しん)と謂(い)う。曰(いわ)く、欲(ほっ)すべき(※)、之(これ)を善(ぜん)と謂(い)い、諸(これ)を己(おのれ)に有(ゆう)する、之(これ)を信(しん)と謂(い)い、充実(じゅうじつ)せる、之(これ)を美(び)と謂(い)い、充実(じゅうじつ)して光輝(こうき)有(あ)る、之(これ)を大(だい)と謂(い)い、大(だい)にして之(これ)を化(か)する、之(これ)を聖(せい)と謂(い)い、聖(せい)にして之(これ)を知(し)るべからざる、之(これ)を神(しん)と謂(い)う。楽正子(がくせいし)は二(に)の中(ちゅう)、四(し)の下(げ)(※)なり。

(※)浩生不害……浩生は姓、不害は名。斉の人であり、孟子の弟子ともいう人があるが、詳しいことはわかっていない。
(※)楽正子……梁恵王(下)第十五章二、告子(下)第十三章参照。
(※)欲すべき……こうありたいと思うようなもの。
(※)二の中、四の下……「二」とは善と信を指し、「四」とは美、大、聖、神を指す。すなわち六段階あるが、楽正子は善と信の二段階にはあるものの、美、大、聖、神の四段階には至っていないと孟子は言う。

【原文】
浩生不害問曰、樂正子何人也、孟子曰、善人也、信人也、何謂善、何謂信、曰、可欲之謂善、有諸己、之謂信、充實、之謂美、充實而有光輝、之謂大、大而化之、之謂聖、聖而不可知之、之謂神、樂正子二之中、四之下也。

26‐1 教育・指導は思想・信条の自由の上に立ってやる

【現代語訳】
孟子は言った。「墨子の学派で学び、その非がわかり逃げ出すものは、必ず楊朱の学派に入って学ぶ。その楊朱の非がわかったら、必ず我が儒学に入ってくる。我が儒学に入ったら、そのまま素直に受け入れてやればいいのだ。ところが、今の楊子・墨子の学派の人たちと論争する者は、まるで逃げ出した豚を追って捕らえるような態度である。すでにおりに入ればそれでいいのに、さらに逃げ出さないようにと足をつなぐようなことをしている」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、墨(ぼく)(※)を逃(のが)るれば必(かなら)ず楊(よう)(※)に帰(き)し、楊(よう)を逃(のが)るれば必(かなら)ず儒(じゅ)に帰(き)す。帰(き)すれば斯(ここ)に之(これ)を受(う)けんのみ。今(いま)の楊(よう)・墨(ぼく)と弁(べん)ずる者(もの)は、放豚(ほうとん)(※)を追(お)うが如(ごと)し。既(すで)に其(そ)の苙(おり)(※)に入(い)れば、又(また)従(したが)って之(これ)を招(つな)ぐ(※)。

(※)墨……墨子の学派を指す。滕文公(上)第五章一、滕文公(下)第九章四参照。
(※)楊……楊子の学派を指す。滕文公(下)第九章四参照。
(※)放豚……逃げた豚。
(※)苙……おり。
(※)招ぐ……足をつなぐ。なお、本章を滕文公(下)第九章四の文と比べると、ずいぶんおだやかになった孟子がいるようだ。これは孟子のがんばりにより、儒学が隆盛になっていったためかもしれない。そうすると晩年に近い孟子の発言と考えられる。

【原文】
孟子曰、逃墨必歸於楊、逃楊必歸於儒、歸斯受之而已矣、今之與楊・墨辯者、如追放豚、旣入其苙、又從而招之。

27‐1 税を重くすると民の生活を圧迫する

【現代語訳】
孟子は言った。「民から取る税には、布縷の税、穀物の税、力役の税の三つがある。君子は、その一つの税を取り立てるときには、ほかの二つはしばらく時間をおくものだ。もし、二つを同時に取り立てれば、民に餓死者が出る。三つを同時に取り立てると、一家離散になる」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、布縷(ふる)の征(せい)(※)、粟(ぞく)米(べい)の征(せい)(※)、力役(りきえき)の征(せい)(※)有(あ)り。君子(くんし)は其(そ)の一(いつ)を用(もち)いて、其(そ)の二(に)を緩(ゆる)くす。其(そ)の二(に)を用(もち)うれば、民(たみ)に殍(ひょう)(※)有(あ)り。其(そ)の三(さん)を用(もち)うれば、父子(ふし)離(はな)る。

(※)布縷の征……布や糸を取り立てる税。
(※)粟米の征……穀物を取り立てる税。
(※)力役の征……労働負担の税。
(※)殍……餓死者。

【原文】
孟子曰、有布縷之征、粟米之征、力役之征、君子用其一、緩其二、用其二、而民有殍、用其三、而父子離。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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