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第8回

19〜21話

2020.01.06更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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19 良いとこ取りばかりをしない


【現代語訳】
立派な名誉や人柄の評判、功績などは独り占めしてはならない。他人にも花をもたせることで危害を遠ざけられ、最後まで身は安全でいられる。失敗や汚名をすべて他人に押しつけてはならない。自分も責任をかぶることで、人ともうまくいき、人格も高めていくことができる。

【読み下し文】
完名美節(かんめいびせつ)(※)は、宜(よろし)く独(ひと)り任(にん)ずべからず。些(いささ)かを分(わ)かって人(ひと)に与(あた)うれば、以(もっ)て害(がい)を遠(とお)ざけ身(み)を全(まっと)うすべし。辱行(じょくこう)汚名(おめい)(※)は、宜(よろ)しく全(まった)く推(お)すべからず。些(いささ)かを引(ひ)いて己(おのれ)に帰(き)すれば、以(もっ)て光(ひかり)を韜(つつ)み(※)徳(とく)を養(やしな)うべし。

(※)完名美節……立派な名誉や人柄の評判。完全無欠で見事な名誉と節操。
(※)辱行汚名……失敗や汚名。恥ずかしくて良くない行為や批判。
(※)光を韜み……才能を隠して外に出さないこと。人とうまくやる。なお、『老子』の「韜光(とうこう)第七」は、「其(そ)の無私(むし)なるを以(もっ)て非(あら)ずや、故(ゆえ)に能(よ)く其(そ)の私(し)を成(な)す」とし、私利私欲をなくし、人を優先することで、かえって自分が貫けることになるという本項と同じ趣旨のことを述べている(拙著『全文完全対照版 老子コンプリート』韜光第七参照)。

【原文】
完名美節、不宜獨任。分些與人、可以遠害全身。辱行汚名、不宜全推。引些歸己、可以韜光養德

20 何事もほどほどにして、欲をかきすぎない


【現代語訳】
何事も、多少のゆとりを残して控え目にするという気持ちを失わなければ、造物者(天)も私を嫌って禍いを下したりしないし、神々も害を加えたりしない。これに対し、仕事や事業をするにおいて、欲深く最後に行きつくまでの功績や成功を求めていると、内部から裏切りなどで崩壊していくか、さもなければ必ず外部から切り崩されていくだろう。

【読み下し文】
事事(じじ)、個(こ)(※)の有余(ゆうよ)不尽(ふじん)(※)の意思(いし)を留(とど)むれば、便(すなわ)ち造物(ぞうぶつ)(※)も我(われ)を忌(い)むこと能(あた)わず、鬼神(きしん)(※)も我(われ)を損(そん)すること能(あた)わず。若(も)し業(ぎょう)は必(かなら)ず満(まん)を求(もと)め、功(こう)は必(かなら)ず盈(えい)を求(もと)むるは、内変(ないへん)を生(しょう)ぜざれば、必(かなら)ず外憂(がいゆう)を召(まね)かん。

(※)個…一個の略。少しの。多少の。
(※)有余不尽……「有余」は余裕、ゆとり。「不尽」は控え目。なお、『老子』の聖德第三十二も、「止(とど)まることを知(し)らば、殆(あや)うからざる」と述べている。
(※)造物……造物者、創造主。
(※)鬼神……山川の神、祖先の霊のような存在。
【原文】
事事、留個有餘不盡的意思、便造物不能忌我、鬼神不能損我。若業必求滿、功必求盈者、不生內變、必召外憂。

21 日常の家庭生活が一番の修業の場


【現代語訳】
家庭のなかには一個のまことの仏がおられ、日常の生活のなかには一種のまことの道が存している。それはほかでもない。お互いが真心をもって誠実に仲良くし、にこやかな態度で接し、家族みんなが心と体を一つにとけ合わせて暮らしていくことができれば、息を調ととのえたり心を内観したりするという難しい道教や仏教の修行をするよりも何万倍もまさっているからである。

【読み下し文】
家庭(かてい)に個(こ)の真仏(しんぶつ)有(あ)り、日用(にちよう)に種(しゅ)の真道(しんどう)有(あ)り。人(ひと)能(よ)く誠心(せいしん)和気(わき)(※)、愉色(ゆしょく)婉言(えんげん)(※)もて、父母(ぶぼ)兄弟(けいてい)の間(あいだ)をして、形骸(けいがい)両(ふた)つながら釈(と)け(※)、意気(いき)交(こも)ごも流(なが)れしめば、調息観心(ちょうそくかんしん)(※)に勝(まさ)ること万倍(まんばい)なり。

(※)誠心和気……真心をもって誠実に仲よくする。
(※)愉息婉言……穏やかな態度で接する。愉悦に満ちた顔色とやわらかな言葉づかい。
(※)形骸両つながら釈け……心と体を一つにとけ合わせる。
(※)調息観心……「調息」は道教の呼吸法による調心養気の方法。「観心」は仏教の坐禅による真理の探求方法。

【原文】
家庭有個眞佛、日用有種眞衜。人能誠心和氣、愉色婉言、使父母兄弟閒、形骸兩釋、意氣交流、勝於調息觀心萬倍矣。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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