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第57回

166〜168話

2020.03.18更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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166 ただの変人、ただの偏屈な人にはならないようにする


【現代語訳】
世俗を超越できれば、非凡で優れた人である。しかし、わざと奇をてらう人は、ただの変人である。世間と交わっていても世俗の汚れに染まらない人は、高潔な人である。しかし、世間との付き合いを絶つことで高潔を装っている人は、ただの偏屈な人にすぎない。

【読み下し文】
能(よ)く俗(ぞく)を脱(だっ)すれば便(すなわ)ち是(こ)れ奇(き)(※)なり。作意(さくい)(※)に奇(き)を尚(たっと)ぶ者(もの)は、奇(き)と為(な)さずして異(い)(※)と為(な)す。汚(お)(※)に合(がっ)せざれば便(すなわ)ち是(こ)れ清(せい)なり。俗(ぞく)を絶(た)ちて清(せい)を求(もと)むる者(もの)は、清(せい)と為(な)さずして激(げき)(※)と為(な)す。

(※)奇……非凡で優れた人。
(※)作意……わざと。
(※)異……普通とは異なる人。変人。
(※)汚……世俗の汚れ。
(※)激……偏屈。なみはずれた行い。

【原文】
能脫俗便是奇。作意尙奇者、不爲奇而爲異。不合汚便是淸。絕俗求淸者、不爲淸而爲激。

 

167 他人に恩恵を施したり威厳を示す際の秘訣


【現代語訳】
人に恩恵を与えるときには、初めは薄くして(少なくして)、後から厚くして(多くして)いくと良い。先に厚くして後に薄くすると、人はその恩恵を忘れてしまう(ありがたく思わなくなる)。また、他人に威厳を示す必要があるときには、初めに厳しくしておき、後にゆるやかにしていくと良い。先にゆるやかにしておいて、後に厳しくしていくと、人はその厳しさを恨むものである。

【読み下し文】
恩(おん)は宜(よろ)しく淡(たん)(※)よりして濃(のう)(※)なるべし。濃(のう)を先(さき)にし淡(たん)を後(あと)にすれば、人(ひと)は其(そ)の恵(けい)を忘(わす)る。威(い)は宜(よろ)しく厳(げん)よりして寛(かん)なるべし。寛(かん)を先(さき)にして厳(げん)(※)を後(あと)にすれば、人(ひと)は其(そ)の酷(こく)を怨(うら)む。

(※)淡……薄い。少ない。
(※)濃……厚い。多い。なお、佐藤一斎の『言志四録』では、「漸(ぜん)は必(かなら)ず事(こと)を成(な)し、恵(けい)は必(かなら)ず人(ひと)を懐(いだ)く。歴代(れきだい)の姦雄(かんゆう)の如(ごと)きも、其(そ)の秘(ひ)を窃(ぬす)む者(もの)有(あ)れば、一時(いちじ)だも亦(また)能(よ)く志(こころざし)を遂(と)げき。畏(おそ)るべきの至(いた)りなり」とある。あの廉潔で有名な西郷隆盛も暗誦したという。ここで『菜根譚』も他人への恩恵の方法を述べているが、これは大変難しい問題で、前集28条、52条、67条、108条、115条などで多く論じているように、君子たるもの恩恵への見返りは考えるべきでないというのが、基本的な立場であろう。ただ、このような利用の仕方もあることを知っておくと良いとしているように思われる。佐藤一斎も“一時の成功”と限定している。
(※)厳……厳格。厳しい。『孫子』は将の条件の一つとして「厳」を挙げている(計篇)。本項の解釈については、本書の前集106条も参照。

【原文】
恩宜自淡而濃。先濃後淡者、人忘其惠。威宜自嚴而寛。先寛後嚴者、人怨其酷。

 

168 心を空虚にして雑念をなくせば、本当の自分が見えてくる


【現代語訳】
心を空虚にして雑念をなくせば、本当の自分(本性)が見えてくる。雑念がいっぱいのままで本来の自分を見ようとしても、それは波をかき分けて水に映った月を探し求めるのと同じである。意識(心のはたらき)が清いものとなれば、心(心の本体)も清くなる。意識を清く明らかにしないで、心を明らかにしようとしても、それは鏡の明らかさを求めているのに、かえってチリを積んでくもらせてしまうようなものである。

【読み下し文】
心(こころ)虚(きょ)(※)なれば則(すなわ)ち性(せい)(※)現(あらわ)る。心(こころ)を息(やす)めずして性(せい)を見(み)んことを求(もと)むるは、波(なみ)を撥(ひら)いて月(つき)を覔(もと)むる(※)が如(ごと)し。意(い)浄(きよ)ければ則(すなわ)ち心(こころ)清(きよ)し。意(い)を了(りょう)せずして心(こころ)を明(あき)らかにせんことを求(もと)むるは、鏡(かがみ)を索(もと)めて(※)塵(ちり)を増(ま)すが如(ごと)し。

(※)虚……空虚。なお、『老子』の歸根第十六に「虚(きょ)を致(いた)すこと極(きわ)まり、静(せい)を守(まも)ること篤(あつ)し」とある。
(※)性……本性、天性、本当の自分。本書の後集66条参照。
(※)月を覔むる……月を探し求める。
(※)鏡を索めて……鏡の明らかさを求めて。本項の解釈については、本書の前集150条も参照。

【原文】
心虛則性現。不息心而求見性、如撥波覔月。意淨則心淸。不了意而求明心、如索鏡增塵。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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