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第69回

202〜204話

2020.04.06更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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202 欲望が満ち足りた状態はとても危険である


【現代語訳】
地位や財産が最高に満ち足りている状態というのは、今にも水が溢れて流れてしまう器のようである。そこに一滴でも加えられるとこぼれてしまう。地位や財産をさらに求めるのは避けるべきである。危うい地位にいる者は、追いつめられてしまって危うい状態と同じで、なんとかまだ折れないでいる木のようなものである。だからもう一押しされることを嫌い避けるのである。

【読み下し文】
盈満(えいまん)(※)に居(お)る者(もの)は、水(みず)の将(まさ)に溢(あふ)れんとして未(いま)だ溢(あふ)れざるが如(ごと)し。切(せつ)に再(ふたた)び一滴(いってき)を加(くわ)うることを忌(い)む。危急(ききゅう)に処(お)る者(もの)は、木(き)の将(まさ)に折(お)れんとして未(いま)だ折(お)れざるが如(ごと)し。切(せつ)に再(ふたた)び一搦(いちじゃく)(※)を加(くわ)うることを忌(い)む。

(※)盈満……満ち足りた状態。ここでは地位や財産が最高に満ち足りている状態をいう。なお、『老子』も「持(じ)して之(これ)を盈(み)たすは、其(そ)の已(や)むに如(し)かず」(運夷第九)、「此(こ)の道(みち)を保(たも)つ者(もの)は、盈(み)つるを欲(ほっ)せず」(顯德第十五)という。
(※)一搦……一押しする。たわめる。なお、『老子』も「木(き)強(つよ)ければ則(すなわ)ち折(お)る。強大(きょうだい)なるは下(しも)に処(お)り、柔弱(じゅうじゃく)なるは上(かみ)に処(お)る」(戒強第七十六)という。

【原文】
居盈滿者、如水之將溢未溢。切忌再加一滴。處危急者、如木之將折未折。切忌再加一搦。

 

203 何事も冷静さが必要


【現代語訳】
冷静な目で人を観察し、冷静な耳で人の話を聞き、冷静な感情で物に触れて感じ、冷静な心で道理(正しい生き方)を考える。

【読み下し文】
冷眼(れいがん)にて人(ひと)を観(み)、冷耳(れいじ)にて語(ご)を聴(き)き、冷情(れいじょう)にて感(かん)に当(あ)たり、冷心(れいしん)(※)にて理(り)を思(おも)う。

(※)冷心……冷静な心。本項の解釈については、本書の前集87条参照。なお、『論語』で孔子は次のように述べる。「君子(くんし)に九(ここの)つの思(おも)い有(あ)り。視(み)るには明(めい)を思(おも)い、聴(き)くには聡(そう)を思(おも)い、色(いろ)には温(おん)を思(おも)い、貌(かたち)には恭(きょう)を思(おも)い、言(げん)には忠(ちゅう)を思(おも)い、事(こと)には敬(けい)を思(おも)い、疑(うたが)いには問(と)いを思(おも)い、忿(いか)りには難(なん)を思(おも)い、得(う)るを見(み)ては義(ぎ)を思(おも)う」(季子第十六)。本項と同じ趣旨であり、さらに詳しく述べている。

【原文】
冷眼觀人、冷耳聽語、冷情當感、冷心思理。

 

204 仁人と鄙夫(ひふ)の差


【現代語訳】
仁人、すなわち相手に適切な思いやりのできる人というのは、気持ちがゆるやかでのびのびとしている。だから幸せも厚く、喜びも長く続く。こんな人は、何をするにもゆるやかでのびのびとしている。これに対し鄙夫、すなわち心卑しい人は、すべてにこせこせしている。だから幸せも薄く、喜びは長く続かない。こんな人は何をするのにもこせこせしていて、みすぼらしい。

【読み下し文】
仁人(じんじん)は心地(しんち)寛舒(かんじょ)(※)なれば、便(すなわ)ち福(ふく)厚(あつ)くして慶(けい)(※)長(なが)く、事事(じじ)、個(こ)の寛舒(かんじょ)の気象(きしょう)を成(な)す。鄙夫(ひふ)は念頭迫促(ねんとうはくそく)なれば、便(すなわ)ち禄(ろく)薄(うす)くして沢(たく)短(みじ)かく、事事(じじ)、個(こ)の迫促(はくそく)(※)の規模(きぼ)を得(う)。

(※)寛舒……ゆるやかでのびのびしている。なお、『論語』でも孔子は次のように言っている。「君子(くんし)は坦(たん)として蕩蕩(とうとう)たり、小人(しょうじん)は長(つね)に戚戚(せきせき)たり」(述而第七)。つまり、「君子は心が穏やかで、様子ものびのびして楽しそうである。小人は目先の利益ばかり考えているから、いつもこせこせしている」(拙著『全文完全対照版 論語コンプリート』述而第七の現代語訳参照)。
(※)慶……喜び。幸い。また、『論語』(雍也第七)では「仁者(じんしゃ)は、寿(いのちなが)し」と言う。すなわち長寿だとする。
(※)迫促……こせこせしている。

【原文】
仁人心地寛舒、便福厚而慶長、事事成個寛舒氣象。鄙夫念頭廹促、便祿薄而澤短、事事得個廹促規模。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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